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いつか、魔王になる少女

みなさんお久しぶりです、こんにちは、そしてこんばんは。

作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す! 元気でしたかっ?


やっと、やっと第四話が完成したのでアップしますよ!


執筆ペースが遅いから一話が完成まで一か月ほどかかってごめん。

可能なら毎週更新したいけど、これじゃムリだね! あははっ!


突然ですが、作者からのお知らせです。

活動報告にも書いてあると思うけどこの『崩れ落ちる現実~』の

タイトルを変更しまっす! 新タイトルは『終焉の世界樹、勇者は魔王を目指す』です!

内容は変更ないから安心してねっ!


まあ、あの間宮冬弥さくしゃの事だから、もしかしたらもっといいタイトルが思いついたらまた、変えるかもしれないけどね。


では、新タイトルになった第四話をお楽しみください。それではっ!

 ◆


「……行こう……ここにいても始まらない。何も」

 少女は扉の前でしゃがみこむ事数分。意を決して立ち上がり歩みを進めた。


「絶対に……この城から出るんだ」

 その目的ひとつのために言葉を自分に言い聞かせ、少女は剣を握り、城を歩いた。


 この城を生きて出るために。少女は魔王の城に踏み出した。



 ◆



「ブルル……ブシュウウウ〜〜〜〜〜!」

 異形の者の、異様な叫び。


「怖い……どうしよう……」

 たいまつが灯る魔王城の通路で少女は迷いと困惑の表情を浮かべている。


 決意を籠めて城を歩き数分。少女はやっとの思いで下に降りる階段を見つけた。


 やっと見つけた階段で喜び、降りた先の階では槍を持ったイノシシのような風貌の魔物が少女の近くを歩いていた。『ひっ!』と小さい声で悲鳴を上げとっさに身を隠す。


「なんなの……ここは……」

 自分が今までいた世界とは明らかに違うこの世界。改めて少女はこの世界に戸惑い、自分が置かれている状況を受け入れることができないでいる。


「帰りたい……」

 そんな思いの少女は曲がり角で身を隠し、イノシシの魔物の動向を観察していた。


 少女は首をゆっくりと後ろと左右へを動かし辺りを見渡す。『他にあんな怪物はいないよね……?』と、ぽつりと呟く。そして、『ふぅ』と息をはいて胸をなでおろす。


 後ろ、左右を見終えた自信の周りにはあのイノシシの魔物しかいない。

 回り道を考えたが、階段を降りてからここまで一本道。曲がり角や扉などはひとつもなかった。


 先に進むしかない。思い、先を見る。


「……無理だよ」

 少女の心が挫ける。目の前には凶暴そうな大きな槍を持ったイノシシがいる。少女の持つ剣ひとつではどうにもならいくらいに大きく、恐ろしい。魔物。


「無理だよ……」

 同じ言葉を繰り返す。どうにもならない事実を突きつけられ絶望に浸る。


 助けてと、誰も助けてくれないであろう天井に向かって呟く。じっと数秒見つめていても、答えが返ってくるはずもない。だから天井から視線を戻す。『あ……』と、少女は気づく。あのイノシシの先にはたいまつが灯された分かれ道がある事を。


 ひとつふぅ、と息を吐き、目を瞑る。そして意志の宿った目を開き、少女はゆっくりと歩みを進めた。一本道を。イノシシの魔物に気づかれないよう一歩ずつ音を立てないようにゆっくりと。


(お願い、どっちかに曲がって! 後ろに戻ってこないで!)

 祈るかのように分かれ道にさしかかるイノシシの魔物を睨みやる。


 そして、イノシシの魔物は右の通路へと曲がった。


 曲がった事を確認した少女は急ぎ、逆の左へと身を流し込むように細心の注意を払ってゆっくりと急ぎ曲がる、曲がった先の右壁にあった扉へと手をかけた。


「……」

 ゆっくり恐る恐ると開け、隙間から瞳を覗かせる。


『いない……よね?』と誰もいない事を確認して顔全体を部屋の中へと入れる。


 大きな部屋はまるでお金持ちがパーティでも開催できるくらい開けた大部屋だった。


 何もない大部屋に足を踏み入れ改めて辺りを見る。『何も無い……』それが少女の感想だった。しかし、正確には何も無い訳はでなく、壁際には立派な鎧が数体飾られていた。


 奥に踏み込む。高い天井に無機質な壁。その壁に垂れる赤と金色の垂れ幕。そしてそれに寄り添うように飾れている鎧像。部屋全体を華やかに飾ればとても立派な部屋にみえる大広間。そんな大広間を少女は首を忙しく前後左右に振り警戒して見渡す。


 最奥の壁には小さい机がひとつあった。少女がよく知るもので例えるなら『教壇』だろうか。


「……帰りたい」

 少女はじっとその机を見つめぽつりとひとつ言葉をこぼす。思い出しているのだろう。友達と話す何気ない会話。いつもの変わらない日常。


 そして『何気ない平和で楽しい日々』を



 ギ……ギギギ……ギ……



「どうしてこんなことに……なったの……」

 目の前の小さい机に触れ、目を瞑り泣きそうな表情を浮かべる。


「お母さん……お父さん。お兄ちゃん……お姉ちゃん……帰りたいよ……逢いたいよ」

 少女は目を瞑って家族の思いに浸る。平和だった日常。暖かい温もりの家族の元へと戻りたいと心で必死に願う。


 ガ、ガシャ……ガシャン……


「えっ……な、なに? この音……」

 少女は後ろから聞こえる異音に気づいたのか顔を上げ、サッ、と後ろへと視線を移す。


「ひっ……!」

 そこで見たのは壁に飾られた鎧はずの鎧が動き出していて、少女に向かってくる光景だった。


「な、なんなの……」

 徐々に向かってくる鎧像。そのゆっくりな足取りは確実に少女に近づいてくる。


「イヤ、お願い待って……」

 向かってくる動く鎧像に怯え、小さい机を倒し後ずさる。鎧像はなおも少女への進行を止めない。


「いや……やめて……」

 壁に追いやられ少女の恐怖で床に座り込む。


 逃げないといけないと頭で思っても、わかっていても恐怖で震える身体はまったく動かない。


 感情のない動く鎧像は少女の前で止まり、持っている剣を振り上げた。


「ひぃ! き、きゃあああああっああ〜〜〜!」

 少女の悲鳴に身体が危機と察したのか、とっさに横へと飛び退く。その瞬間、少女が倒した机が破壊される音が耳に届ぐ。


「う、そ……」

 振り返ると、さっきまでいた少女の場所に剣が振り下ろされていた。そしてその振り下ろされた先にあった、教壇のような机は真っ二つに斬り裂かれていた。


「ひっ!」

 鎧像の兜がゆっくりと音を立てて少女に振り向く。目があるかわからないが少女は目があってしまったような錯覚に陥った。


「こ、殺される……?」

 少女は恐怖する身体を奮い立たせ立ち上がり、先ほど入ってきた扉に向かい走り出す。だが、走り出した疾走はスピードに乗ることなく、すぐに停止した。


「そんな……」

 理由は明白だった。少女が入ってきた扉の前に『もう一体の鎧像』が立ちはばかっていたからだ。


 ガシャン……ガシャン……


 鎧の擦れる音が聞こえる。その音だけでわかる。鎧像は移動している。少女の向かって移動している。


「助けて……お願い助けて……」

 ふたたび、床にへたり込む。そして鎧像は目の前へとやってくる。


 鎧像に助けを懇願する。しかし鎧像は少女の言葉など意に介せずに剣を振り上げる。


「いやだ……死にたくない……死にたくないよ……」

 高々と振り上げられた剣は無感情に振り下ろされる。


「いやぁあぁあああ!」

 絶叫し目を背け、手で頭をかばい、足を身体に引き寄せ縮こもる。


 次の瞬間、少女の耳に何かの音が聞こえた。


「いや〜探しましたよぉ。魔王継承者様ぁ」

「えっ……」

 少女が目を開けて飛び込んできたのは紫色に光る、光の壁のような光。その光が鎧像の剣を防いでいた。


 そして、その紫色の光の後ろにいたのは……


「まったく、あとで逢おうねって言ったのに、どこに行って、どうしてこんなところにいるんですかぁ?」

 空に停空している小さな黒い羽の生えた妖精は、腕を自身の胸の前に突き出し、光を創り出しているようだった。


 そして、少女はその妖精をいや『精霊』をよく知ってる。忘れるはずがない。少女の初めての唇を奪ったその精霊を。


「あうぅ……」

「そんな薄っぺらい布の服だけで勝手にいなくなるなんていけませんよぉ? 次期魔王様なんですからね。その辺をわきまえてもらわないとぉ」

 無邪気に笑顔で話す精霊。しかし、その言動は少々感情を逆なでするような話し方だった。


「あっ……その……」

「外出するならするで私に言ってくださいよぉ。それなりの格好をしてもらわないと。魔物達した)に示しがつきません」


 ガン! ガン! ガァン!


 少女あっけにとられている間も、鎧像は剣を振り上げては振り下ろす動作を何度も繰り返し、まるで機械作業のように繰り返して紫光の壁を破壊しようとしている。


「その辺の理由は後で聞きますよ。きっと姫さまが絡んでいると思いますからぁ……ちょっと、うるさいですよぉ!」

 精霊は剣を光の壁に打ちつけている鎧像に振り返る。その瞬間、光の壁は弾け、鎧像は後方に吹き飛ばされた。


「精霊が話しているときは静かにしてくださいね」

 マイラは吹き飛んだ鎧に向かって言葉を吐く。


「えっ……!」

 その鎧像をみた少女は驚く。吹き飛ばされた鎧像は、足具、小手、兜、胸具が吹き飛び、バラバラになっていた。


 たが少女が驚いた理由はそれではない。理由は鎧の中に『誰も入っていない』という事実だった。その意味するところは、空の鎧が動き襲いかかったという事。


 その事実に気づいた少女は『うそでしょ……』と小さく呟く。それはそうだろう。少女のいた世界では『空の鎧がひとりでに動く』などはありえない。ありえるならそれはアニメやゲーム、映画や怪談などでしかない。架空の物語上でしかありえないことなのだから。


 ここにくるまでに出会ったイノシシの魔物だって、怖いけど実は着ぐるみか、特殊メイクだったと思っていた。


 鎧がバラバラになるまで少女は『きっと中にひとが入っているんだ』と思っていた。それが根底から覆された形だ。そして両腕を肩に当て、震える。もう何度目かわからないが少女は『やっぱりここは自分がいた場所ではない』事を思い知る。


「じゃあ、静かになったので帰りましょうか。立ってくださいませ」

 精霊は少女に促すが、少女は腰が抜けてしまったのかなぜか立つことができないでいた。


「あっ……う、う、う」

 少女は何かを言い掛けたが最後まで口にせずに精霊の後ろを指さす。


「う? ああ、後ろですか」

 指に導かれるように精霊も身体ごと後ろへと向ける。


「あ〜そういうことですかぁ。まったくアウラの息がかかった魔物はしぶとくてやっかいですねぇ」

 指さした先はバラバラになったはずの鎧が糸で引っ張られるように、胸具に集まりだし再びひとの形を成していた。


「次期魔王様がそんな薄着な格好をしているから、こんな下位の魔物になめられるんですぉ〜これからは服装には気をつけてくださいね。それと威厳ももってください。わかりましたか」

「あう……えっ」

 そんなマイラの言葉は少女の耳には入っていなかった。ひとの形と成した鎧は鎧同士がこすれる音を出し、少女と精霊のもとへとゆっくりと歩き出し、少女は恐怖で染まり、縮こまってしまっていたからだ。


「まったくだらしない次期魔王様ですねぇ……でも次期魔王様を傷つける事は許しませんよぉ……例え『現・魔王様の娘』でもですよ」

 小さい胸の前で腕を伸ばし手のひらをまるで銃口を向けるかのように鎧に向かい突き出す。


「消えちゃって……あ」

 何かを思いたったのか、突然、腕を下ろし精霊は怯える少女へと身体を向けた。


「次期魔王様ぁ。ここでひとつ提案なんですけどぉ」

 ニコニコと少女の元へとゆっくりと優雅に飛びながら近づき、口を開く。


「魔王の力を使ってみませんかぁ?」

「えっ……?」

 突然で、唐突な提案に少女はキョトンと精霊を見つめる。


「あ、もちろん正式な継承はあとで行いますよ? とりあえず今は、お試しでってことで。お試し。どうですか?」

「どうって……」

 戸惑う少女は目の前を飛び回る小さな精霊を視線で追いかける。


「次期魔王様は何もすることはありません。継承は簡易的で一時的なものですから。あとの処理は私がすべて行います。次期魔王様はデンと構えててください」

 少女の周りを飛び回りながら、仰々しくも大きな手振りで小さい精霊は少女に魔王の力を勧めている。


「でも……魔王の力って……」

「大丈夫ですよ。きっと次期魔王様もその力に触れれば素晴らしさに気づいてもらえます。あんな鎧なんて一瞬で倒せます。一瞬ですよ。一瞬。あ、でも、簡易的で一時的なんで記憶と力に制限がかかってしまいます。そこはごめんなさいですぅ」

 戸惑う少女に飛び回る精霊は言葉巧みにさらに畳みかける。少女はさらに戸惑いの顔を隠せないでいる。


「試してみましょうよぉ?」

「でも……」

 決めかねている少女に精霊のマイラは『いいじゃないですか

ぁ〜一時的ですから』と少女を一時魔王へと誘う。


「そんな事言われても……」

「はっきりしませんね。あなたは」

 はっきりとしない態度の少女をみてマイラはイラだちを覚えているのか語尾が若干興奮気味に跳ね上がる。


「えっと……」

「ふぅ〜〜残念です。魔王様時間切れでございます」

 深いため息とともにマイラがっくりと肩を落とし少女に一度も制限時間のことは言っていないのだが『時間切れ』だと告げた。


「えっ?」

「返答が遅いのでそう判断させていただました。そういうわけですので、『あれ』はご自分でなんとかなさってください」

「えっ?」

 そう言って精霊のマイラは真上へと羽ばたき、少女の目の前から姿を消す。


 そして、かわりに視界に入ってきたのは鎧を軋ませ、こちらにゆっくりと歩いてくる空の鎧だった。


「あ……あの……」

 少女は自分を救った精霊へと懇願するかのように助けを求める。


「た、助けてください……」

「は? そこに転がっている剣は飾りですか?」

 マイラは先ほどまで浮かべていた笑顔はそこにはなかった。あるのは笑顔とは真逆の無情で冷徹な顔。そして、ゴミを見るかのような冷たい無慈悲な視線だった。


 少女は視線を落とし、自分がマンガの少女を想像して、選択して持ってきた剣を見た。


「あなたには魔王になる意志が無いと見えます。なので私があなたを助ける理由がありません。ここから先はご自分で解決してください」

「わたしじゃ……む、無理です」

 少女は今にも泣き出しそうな表情で精霊を懇願の目で見る。


「じゃあ、魔王の力。試しましょうよぉ?」

 再びマイラは笑顔になり、少女の目の前でニコニコしだした。


「そ、それは……」

「悩む事なんてないんですけどねぇ〜わかりました。もうけっこうです」

「え」

「ごめんなさい。さよならですぅ。あなたはもういらないのでここで『死んでください』」

「ちょ……えっ!」

 少女を切り捨て、見切りをつけた。『では、これで失礼します』と少女に捨て言葉を吐いて黒羽をはばたかせ飛び去る。


「待って! お願い! ひとりにしないで! 助けて!」

 絶叫にも似た少女の声にも介さす、マイラは非情にも飛び去り、天井の小さな穴へと入ってしまった。


 マイラが見えなくなっても少女は『助けて! お願い!』と叫び続ける。


 そして、そんな少女の叫びもむなしくマイラは戻ってくることはなく、鎧はゆっくりと確実に近づく。


「助けて! お願いだから!」

 少女は精霊が飛び去った天井に助けを願い大声で叫び続ける。


「ひっ……!」

 そして、空の鎧が少女の目前まで迫った刹那、とうとう少女の心が折れ、助かりたいがために口にしてはならない事を口にしてしまう。心にもない事を口走ってしまう。


「なります! 魔王になりますから……お願い、助けて!」


 壊れた心と恐怖心で叫ぶ。天井に、正確にはマイラに叫ぶ。


「お願い……助けてよ……いやだ死にたくない……」

 マイラは少女の元に戻ってくることなく、代わりに空の鎧が少女の目の前に立ち剣をゆっくりと振り上げる。


「……お母さん……お父さん……お兄ちゃん……ごめんね……」

 空の鎧が振り上げた剣を眺め、少女は言葉を家族へとむける。


 最後の言葉になるであろう言葉は家族への言葉。先立つ不幸に対しての赦しを願う言葉だった。


「お姉ちゃん……まだ死にたくないよ……」

 目を閉じ、最後に姉を思い、これからの死を受け入れた。自分はここで終わることのすべてを受け入れた。


 無情に空の鎧は、振り上げた剣を感情無く振り下ろす。


「もう……」

 すべてを諦めて、すべてを受け入れた少女の手がダランと力なく床へと垂れる。


「困った次期魔王様ですねぇ。さっさとそう言えばいいのに。素直じゃありませんねぇ」

 少女の瞼の裏に強烈な光が射し込む。


「……え」

 そのまばゆい光の直後にはいる言葉。少女はゆっくりと目を開ける。


「そのまま、こいつに()られて『へんじがない、ただのしかばね』になってもらっては困るんですよねぇ」

 目を開けた先に見えたモノは、小さい黒い羽の生えた精霊マイラだった。マイラの腕からは先ほどと同じように腕を胸の前で突き出し紫の光で鎧の剣を防いでいた。


 自分から跳び去り、一度は見捨てたはずなのだが、少女の言葉に気が変わったのかマイラは彼女の元へと戻ってきた。


「ど、うして……」

「いやですねぇ、言ったじゃないですかぁ?」

「言った……? あっ……」

 混乱し戸惑う少女は自分が言ったことを思い出す。


 そう、少女は言ったのだ。死ぬかも知れない瀬戸際で少女は言った。自分が死にたくないがために願い、言ったのだ。


 『魔王になりますから助けて』と。


 そう言ってしまったのだ。



「はい。言いましたよね? 『魔王になります』って。その言葉に嘘はありませんか? 偽りはないですかぁ?」

「あうっ……」

 言葉に詰まる。それもそうだろう。なんせ心にもない言葉で、死にたくないために、助かるために言った、『嘘であり偽りの言葉』デマカセの言葉なのだから。


「私の前でお聞かせてください。『魔王になります』ってあなた様の言葉を。もう一度」

 マイラは剣を防いだまま顔だけをこちらに振り向き、睨むようにするどい視線を視線を少女に向ける。


「あうっ……」

 少女は口ごもる。恐怖などではなない。その精霊が醸し出す厳格な態度におののいているのだ。


 そのままマイラから視線をはずし、少女はうなだれるように視線を下げた。スカートの端を両手でギュッと握り、ガタガタと震える自身の身体に耐える。


「……」

 チラりとマイラを見た。精霊はそのままのするどくて冷たい視線を少女に向けている。


「わ、わたしは……」

「わたしは?」

 震える身体から絞り出したか細い声。繰り返し鳴り響く剣戟の音で掠れて消えてしまいそうなその声は精霊に辛うじて届いていた。


「っ……ます……」

「聞こえませんよ? ここで死にますか? なんならあなたのはじめての唇を奪った私が殺して差し上げますよ?」

 皮肉を籠めた言葉が少女に刺さる。


「……!」

 少女はさらに強くスカートを握り、顔を上げマイラをまっすぐに見た。


「ま、魔王になれば……わたしは助かるの?」

「もちろんですぅ。あ、現魔王様の許可は得ていますのでご安心を」

「現・魔王? 許可?」

 少女は戸惑いながらも疑問をぶつけた。


「はい。現・魔王様からあなた様への魔王継承がおこなわれます。まぁ、それは後でお話ししますのでまずは、あの鎧を倒しましょう」

 チラりと鎧を見る。鎧像は先ほどと同じく、機械作業の様にマイラが創り出した紫色の光の壁に何度も剣を打ち付けている。


 魔王になるように急かす精霊に対して少女は一時考えて、口を開く。


「……魔王になればこんな訳の分からない世界(ところ)から……わたしはわたしの世界(いえ)に帰れる?」

「はい。ただし勇者を倒し世界を支配したその先に、ですが」

「倒す? 支配って……どういうこと?」

「魔王様の考える『倒すと支配』です」

「それは、勇者ってひとを『殺す』ってことなの?」

「魔王様の考える『倒す』です。解釈はおまかせします」

「殺さなくてもいいって事でいいの?」

「そうお考えなら」

「……本当に?」

「はい。もちろんです。ちゃちゃっと勇者を倒し、世界を支配して魔王様の家にご帰宅くださいませ」

「……信じていいんですよね?」

「もちろんです。わたしもあなた様の事を信じておりますゆえ」

「……わかりました……わたしは……」


 ふたりの問答が終わる。そして魔王になると言った少女はごくっと息を飲み、小さく息を吐き、そして……少女は口上を述べる。


「わたしは……魔王になります」

「かしこまりました。『魔王』様」

 マイラは紫の光壁を弾けさせ、ふたたび遙か後方へと鎧を吹き飛ばした。


「ようこそ次期魔王様。この素晴らしきお力をあなた様の元へ」

 マイラは少女へと振り向き、頭を垂れ右手を左胸に添え。左手はスカートを掴む。そのしぐさは、(あるじ)に忠誠を誓う従者のごとくかしこまった動作だった。


 そして、マイラの身体が禍々しくまばゆく紫色に光だす。


「なに……なんなの?」

 なにが起きているかわからず、状況が飲み込めない少女はただ、ただ、光る精霊に見つめている。ただ、ただじっと。


「では、先ほどもいいましたが、今回はお試しですので一時的な継承です。魔王の力に制限がかかるのでご了承ください」

「せい……げん……?」

 紫に光るマイラは淡々と少女につげ、少女は理解できない脳内でただ言葉を繰り返すだけ。そんな精霊は作業をこなすよに手をさしのべた。


「さぁ、私をあなた様の手のひらへ」

 少女は言われるままに、右腕を伸ばし手のひらを広げ精霊を乗せた。


 その刹那。紫色の光が強く輝き、さらに輝きが強くなり少女は耐えきれず目を瞑った。


 数秒、瞼の裏で強烈な光が続いて、収束。


 少女はゆっくりと目を開ける。


「剣……?」

 自分の手のひらでゆらりと空に浮いているのは黒と赤で彩られた剣。その剣は淡い光で紫色で輝いている。


「さぁ、魔王様。私を『邪霊魔神剣メキドゾーマ』をお取りくださいませ」

「えっ……なに? 頭の中から声……!?」

 体験したことのない経験に戸惑う少女をよそにメキドゾーマは脳内に直接語りかける。


「取るって……掴めばいいの?」

 剣に姿を変えた精霊に少女は語りかける。


「はい。どうぞご遠慮なく」

 剣は少女の問いに答え、少女は紫色に輝く剣の柄を恐る恐る、握る


「はぁん! ……魔王様ぁ〜いきなりそこですかぁ? 大胆ですねぇ……」

 少女の脳内に艶めかしい精霊の声が響く。


「へっ! えっな、なに?」

「あはは、冗談ですよ。でも、大丈夫そうですね」

「えっ?」

「一時継承完了です。状態変化及び身体異常なし。記憶、能力制限設定完了。これより限定魔王での行動を許可しまぁ〜す。魔王行使時間……は、いいか」

 マイラは軽い言葉で、まるで友達に昨日食べたお菓子の話をするような軽すぎる言動で少女の伝えた。


「はい。これで一時的継承は完了です。では、はりきって参りましょう!」

「うん……これすごい……力が剣を伝わって溢れてきて……何とかなりそう……ううん何でもできそうな感じ」

 禍々しく光る剣を見つめ少女は自身に宿る『魔王の力』に戸惑いを覚えつつも心では『これなら……』と魔王城からの脱出できると確信した。


「行くよ……マイラ」

「はい。『魔王さま』ご存分に力を振るってくださ〜い」

 独特の間延びした口調のマイラの言葉を聞き流し少女は剣を見据える。


 スッー……と息をのみ息を吐く動作をし、片手で剣の柄を握り正眼で構える。そのしぐさは『剣の達人』さることながらの美しい構えでどこにもスキのないモノだった。


「鎧の真ん中……輝く水晶があいつの心臓……」

「おっ、いきなり『みやぶる』ですかぁ?」

 ひとりつぶやくマイラの言葉を無視して、少女は腰をぐっと落とたその時。



「……!」


 一瞬だった。動く生気無き鎧との距離はだいぶ離れていたのだが少女は腰を落としたその一瞬で駆け、空気を斬り裂くような音が鳴り、鎧の目の前まで距離を詰めていたのだ。


 そして鎧は胸具の真ん中を剣で貫かれ、邪霊魔神剣の切っ先には光を失った水晶が串刺しにしたのだった。


 その動作のすべては言葉通り一瞬。華麗で流れるような動作で見事と言うべき必殺の一撃だった。


「…… ……」

 鎧は言葉なども無くその場でバラバラになり、そのまま動かなくなった。


「すごい……何やったの? わたし……」

 剣を眺め少女は今、自分が行った事が理解できなく、表情は困惑の色に染まる。


「今のが魔王様の力の一部ですぅ」

「これが……まだ一部……なの?」

「はい。正式に魔王を継承すればぁ、もっと、も〜っと、すごい力があなた様のモノになりますよぉ」

 そう、脳内に直接語りかけるマイラ。


「……」

 少女は心中で思う。『怖い』と。こんなすごい力を得て魔王になってしまったらと考えている。


「魔王様?」

「……わたしは……この城を出ます」

 この城を出る。最初に自分に誓い、成し遂げる事を選んだ少女は一歩踏みだし、出口へと向かう。


「はい。次期魔王様のお心のままに行動を起こしくださぁ〜い。私はぁ、あなたについて行くだけで〜す」

「いいの?」

「はい。別にこの城に居続ける理由はありません。ここはアウラひとりで住めばいいんですぅ! あ、でも出るんなら魔王継承を済ませてからにしましょうね」

 すこし怒っている口調で、最後は少女に笑いかけるようにマイラは話す。


「……」

 少女はマイラ言葉には答えずに剣を構えた。



「おっ、いいですね。やる気まんまんですねぇ〜では最後にあの扉の前にいる鎧もちゃっちゃとバラバラにしましょう!」

「……そうだね」

 マイラの提案を少女は飲み、駆ける。


「…… ……!」

 一瞬。一瞬で少女の持つ剣は鎧の水晶を捕らえ、貫いていた。


 そして、鎧はバラバラになり動かなくなった。


「終わりましたね。では、戻りましょうか魔王さま。魔王継承を執り行うために」


 マイラの言葉に少女は答えず。扉をあけた。


「……ごめん、わたし戻らない」

 部屋を出て立ち止まり、少女は剣の姿になった精霊に告げる。


「わかりました。では、魔王様のお心のままにご行動を」

「えっ!?」

 驚きの声を上げた少女。それもそうだろう。あっさりと少女の言葉を受け入れたのだから。


「はい。継承はいつでも行えます。ですからお好きな時にどうぞ」

「わかった……ありがとう……」

「ですが」

 なぜか礼を述べた少女に精霊は咎めるような強い口調で少女の釘を差す言葉を差し出す。


「魔王にならない。そんな契約をやぶるような戯れ言(ざれごと)を言われるのなら……私はあなたを殺します。必ず」

 ゾクっとするほど、背筋が凍るほどのマイラの冷めていて冷たい感情から発せられた言葉は少女の心を貫き、恐怖を植え付けるのには充分だった。


 第四話「いつか魔王になる少女」 完

こんばんは、間宮冬弥です。

まずは、小説を最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


活動報告とまえがきで僕の代弁者がお知らせした通り、タイトルの変更を

行いました。

前のタイトルは、なんかパッとしなかったので…

次回の第五話の更新は、先になると思いますのですみませんがお待ちください。


では、第五話でお会いしましょう。それでは。

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