限りなく絶望に近い願いの先に
みなさんお久しぶりです、こんにちは、そしてこんばんは。
さらにさらにあけましておめでとうございま~す!
作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す! 元気でした?!
やっと第三話が完成したのでアップします!
それと、今回も残酷な表現があります。それと若干エッチな表現も
あるので、もし苦手ならその部分を読み飛ばして読んでくださいと
間宮冬弥が言ってました。ある程度読み飛ばしても大丈夫な
くらい面白くないってことかな? あははっ!
あ、今年もこれを言ね、ゴホン。え~ここはまえがきですので
本編を読みたい人は下までスクロールさせてねっ!
では、第三話をお楽しみください! っていうのも新年早々味気ない
からね!
ここはひとつ年末から年始にかけて間宮冬弥のゲームライフの話でもしようかな!
年末から年始にかけて間宮冬弥はシュ○イン○ゲート・ゼロを
プレイしてました。とても楽しめましたと言っていた反面。
期待してたトゥルーエンドが味気なかったなとも言ってました。
でも、ふたたび『最初のお前を騙せ、世界を騙せ』が
聞けてよかったとも言ってましたよ。あっけないけど作者の近況は終わりっと!
では、第三話をお楽しみください。それではっ!
「ここが最下層か」
爆発の魔法で床に穴を開けまくり、最下層までたどり着いた俺とリムルは周りを見渡す。
相変わらず通路には所々たいまつが灯されていて暗いという雰囲気は変わっていない。だけど……
「臭いなぁ……空気が悪いのかな? なんか濁ってる」
「そうですね……とてもいやな臭いです」
空気が淀んでるっていうか……腐っているようないやな感じの臭い。それが風に乗って漂っているって感じだ。
「マリアってひとはどっちにいる?」
「あ、えっと……こっちです!」
空を駆けるリムルを追いかけるように俺自身も駆け出す。
「あ……がぉ……う……」
「おりゃ!」
曲がり角を曲がったところにいた、剣を持つがいこつ剣士を蹴りで倒し、崩れるがいこつ。落とした剣を床を転がりながら拾い上げ、そのまま駆け出す。
「よし、武器確保!」
「トドメはよろしいのですか?」
「よけいな体力と魔力は使わないよ。マリアを助けるまではね」
「なるほど、賢明な判断です」
その後、リムルとは余計な話はしないでマリアを助けるため全力で駆けていった。
◆
「魔物が少ない?」
駆けること数分。まったくと言っていいほど魔物がいない。最初のがいこつの剣士と数体の魔物としか出会わなかった。この最下層には魔物はいないのか?
それともさっき上の階で召還された魔物はこの最下層から連れ出されたのかも知れないけど。
「ここです」
リムルが扉の前で立ち止まる。
「よし、いくぞっ!」
「待ってください、勇者さま!」
「うわっ!」
俺の顔の前に突然現れるリムル。
「えっ? な、なに?」
リムルの真剣な表情と声で踏み込む足を止める。
「いいですか。これから見る景色に飲まれずに……気をしっかりと持ってください。私のイヤな予感と……想像が正しければ、中では最低で最悪な景色が勇者さまの瞳に移るはずです」
「あの部屋以上に最低な部屋なんてないだろ?」
さっきまでいた拷問部屋を思い出す。
「それでも、です」
リムルの真剣な表情。その表情を見て俺は『……わかった。しっかりと気を持っていくよ』を返した。
「お願いします」
「じゃあ、改めて!」
剣を構え肩で扉を体当たりで開ける。
「あっ……はぅん……」
突入した直後に飛び込んできた女性の甘い声。
「えっ、ちょっ! は、裸っ!」
予想のななめを行く展開! なんで?!
「なっ……」
女のひとが……裸で……何をやってるんだ……
「あふぅ……はやく、はやくぅ……」
「すごいっ……」
周りには同じように数十人の女性が……裸で……えっ?
「なんだよ……これ……」
女性はどこからか伸びる赤い透明なタコのような触手に絡まれてて……
「柱を見てください……」
「柱……?」
俺はリムルの声に従い部屋の真ん中にそびえる柱を見た。
「あれは女性の快楽を餌にする最低の魔物……淫獣のスライムです」
「スライム? ……あいつが」
部屋の真ん中の柱にへばりつく巨大な粘着状の物体がスライムなのか……俺の知ってる『可愛らしいスライム』とは大違いでネチャネチュとした物体がグチョグチョと生々しい音を立てて触手を動かしている。
「あはっ! ヌメヌメ……すごいのぉ……!」
よく見ると粘液に取り込まれている女性が悶え、喘いでいる……
「早くマリアを助けないと……マリア! どこだ!」
「マリアさぁ〜〜〜〜ん! どこですかぁ〜〜〜!」
部屋全体に響き渡る大きな声で俺とリムルは名前を叫ぶ。
(早く見つけて助け出さないと……この状況はなんかマズい!)
直感でそう思い、走りながら首を左右に振りマリアを探す。
リムルに『いた!?』と声かけをしても『まだです!』と返ってくる。
こんなやりとりを数回したところでリムルが急に羽を止め宙で停止した。
「マリア……さん?」
横わたったひとに、リムルが声をかける。
「……リムルか……」
「マリアさん!」
リムルはその声でマリアと確信し駆け寄る。もちろん俺もその後を追う!
「大丈夫……えっ……なんで……?」
マリアの元にたどり着いた俺は愕然とする。
『この魔物の餌になるくらいなら……』そう言った女性に俺は愕然した。理由は全裸の女性は赤く染まる床に倒れていたからだ……
見ただけで綺麗とわかるひと。その長い青い髪は赤に染まり、瞳は苦痛に歪んでいる……
マリアの腹部はどいうわけか細長円形の……まるで槍にでも貫かれたように縦長の円形を描き、そして床が見えるほど……いや実際に床が見えているほどの重傷を負っている。
「マリアさん…… とりあえずまずは逃げて、それから治癒魔法を施してもらいましょう!」
「……お前は新しい勇者か? そうか……アドニスは死んだのか……」
マリアはリムルの提案を否定するように視線だけを俺に向けてしゃべり出す。
「あうっ……」
呻く。また俺の目の前でひとが……
「マリアさん!」
「リムル。私は『アドニス』の所に行くよ……」
「マリアさん……ダメです。マリアさんまで……」
「いいんだリムル。みんなが死んで、私だけ生き残る訳にはいかないだろう?」
「でも……そんな……」
「新しい勇者……ひとつ頼みがある」
今にも命が尽きそうな瞳が強く俺を捕らえる。
「えっ……それよりも……傷の……」
精一杯の言葉がこれだった……俺は……もっと声をかけなければならないのはわかっている。だけど……言葉が浮かばない。言葉が続かない。
「私を『殺してくれ』くれないか」
「えっ……ころ……何を言ってるんだよ?」
意表を突く言葉が俺の意識を貫く。
だから俺は今、彼女が言ったか事が理解できなかった。
「私を殺してくれ。介錯を……頼む」
いいや、理解できなかったんじゃない。理解したくなかったんだ。それをマリアは俺にとてもわかりやすく言った。そう、今の混乱している俺でも理解できるように。
「か……い、しゃく……」
俺にトドメをさせと言ってるんだ。この女性は。
「このくそったれな魔物が与える快楽を知る前に……私を『人間』として殺してくれ……」
「そんな……」
「こいつは治癒魔法が使える……私のこの傷もいずれ治してしまうだろう……だから私を『ひと』として殺してくれ……」
ひととして殺す……それはつまり……
「お前は勇者だろう? これから先は『誰もかも、殺さない』なんて選択肢はないんだ……だから、私で慣れろ……」
「でも……」
慣れろ、だなんて……
「治癒魔法……そうだよ! 治癒魔法をかければ……」
思い立ったから声が出ていた。だけど、俺は思い出す。治癒魔法は使えない事を。勇者の記憶を辿ってみても、治癒魔法が使えた『勇者は誰一人としていない』事を。
だから俺はリムルに向かって『治癒魔法は?』と問う。
「すいません……」
リムルの答えは残酷だった。
『まずは逃げて、それから治癒魔法を施してもらいましょう!』
リムルの言葉を思い出す。そうか……リムルも治癒魔法は使えない。あんなに強いのに……そうか使えないのか……
「お願いだ……私を……」
「……殺すなんて……」
俺は……俺は……
「頼む……」
「……っ!」
俺はうつむき目を瞑った。この現実を回避するように強く瞳を瞑る。
「勇者よ……現実から目を背けるな!」
弱々しいく、力強い言葉が俺を現実に引き戻す。
これは夢であってくれ。目が覚めたら……元通りになっていると言う現実逃避は叶わずに終わる。
このままではダメなんだ。覚悟を決めないと……いけない。そう、俺は今から……
この人を殺して……人殺しになるんだ。
「リムル。お願いがあるんだけど」
瞑ったままでリムルに声をかける。
「……は、はい」
「すまないけど後ろを向いて、目を閉じててくれないかな?」
「……はい、わかりました」
俺の『やろうとしている』事を理解したのがリムルの返事は即答だった。
「俺が話しかけるまで目を開かないでね」
「はい……勇者さまのご命令通りに」
「命令じゃないよ、お願いだよ」
「……」
目を開け、ちらりと横目でリムルを見る。リムルは俺のお願い通りに、後ろを向き、目を閉じた……と、思う。
「手間をかけさせてすまないが……痛くてしょうがないんだ。これ以上の苦痛はイヤだぞ?」
視線を目の前の女性に戻す。その瞳はすでに覚悟を決めている。でも……覚悟を決めてもこのひとには未練は……ないのだろうか?
「いいんだな?」
「むろんだ」
苦痛に歪んでいる表情は凛としていて……これから俺がやる事を受け入れている。
「わかった、確実に一撃で終わらせる。それから向こうに行ったらアドニスに『勇者って大変だな』って伝えてくれ」
目を開け、今まさに俺が手に掛けようとしているひとと目を合わせる。
「ああ、まかせろ」
マリアは笑顔で俺を迎える。そんな顔で俺を見ないでくれ……俺はあなたは……これからこの手で……この手は血で染まるんだ……
俺は、持っていた剣を逆手に持ち……振り上げて……思いっきり振り下ろした。
「あり……がとう……」
「あ、あ、うぅ……うっうあぅぁぁぁあぁあああぁ〜〜〜〜〜〜!」
赤に染まった手を、服を見て叫ぶ。俺は心の底から叫ぶ。鈍い感触。赤く彩られる剣。噴き出す暖かい赤い色の飛沫。その赤飛沫で染まる俺の手と顔と制服。
俺はきっと……初めて逢ったけど初めてじゃないこのひとを、この笑顔を、この言葉を忘れないだろう……一生。
「うあっ、ああああっあっうぅあう……」
俺は地面に力なくへたり込み、空が見えない空を見上げていた。
自分で決めたことなのに……俺はこのひとを手に掛けると決めたのに……
初めて……ひとを……俺は……この手で……
「あうぅう……あ、あ、あ、あぅ」
赤く染まった腕を力なくおろし呻いていた。
こんなにも大きな声で叫んでいるに……何事もないように女性たちは快楽に溺れている……
俺はおぼろげに女性達を見て、呆然としていた。
◆
「……」
俺は力なくダランと立ち上がる。
何十分も天井を見上げていたのだろうか、首に痛みがある。
「……」
俺の眼下にはもう動かない女性の姿がある。刺し傷からは血が溢れていて血塗れだ。
たまらずに後ろを振り返る。そこには小さい精霊の後ろ姿が見えた。
「あっ……」
ああ、そうか……そうだった。
「ごめんリムル。目を開けていいよ」
リムルより一歩前に出て声をかける。
「は、はい……あ」
リムルは律儀にも数十分、目を瞑っていたくれた。そして数十分ぶりに目をゆっくりと開ける。開けて飛び込んできたのはたぶん俺の剣と腕。この赤に染められた腕と剣だ。
「……あ、うぅ……」
「リムル、振り向いちゃダメ……頼むから振り向かないでくれ」
リムルはピクッと首を後ろへと向けようとした所で俺はそれを制した。
「はい……あの……大丈夫、じゃないですよね……」
俺の腕は剣同様に返り血で染まっている。それに手も……足も小さい震えが止まらない。感触がある。刺して貫いたときの鈍い感触……貫く感覚。吹き出す血の勢いと臭い……マリアの笑顔……
「気にしないで……それからリムル」
左手を右手で押さえ震えを止めようとしたが両の手が震えているから無駄だった。
「は、はい……」
「スライムに取り込まれているひと達を助けるから……精霊神剣になってくれる」
呆然した表情のまま俺はリムルに言う。
「あの、お言葉ですが……勇者さま……勇者さまも『わかっているはず』です。もうあのひと達はダメです。スライムの餌として飼われている事を受け入れています……たとえ助けても、また別のスライムで同じ事を繰り返し快楽を求めます。それにもっと快楽を得るためにスライムと同化しているひとも……だから……」
「だから……また殺せか……?」
そうなんだろ? このひと達はもう助からない。普通の生活はもう送れないって言っているんだろ?
「……あ、いえ……そういう訳では」
「やさしいね。リムルは」
「えっ?」
やさしいよ。イラつくほどに、ハラが立つほどにやさしい。でもねリムル。俺にわかってるって言うんだったらね。
はっきりと『殺したほうがいい。それがこのひと達のため』って言っていいんだよ……理由がないと……踏ん切りがつかないんだよ。
「……ひとつ訊いていいかな?」
「はい……」
「もう無理なの? 助からないの?」
希望にすがる。もし助けられる方法があるなら俺は勇者の力で助けてみせる。
「……はい。助けられる方法は……ない。と思います」
『と、思う』か。煮え切らない答え。決断が鈍る……生殺与奪は俺がしなくちゃいけない……のか。
「治癒魔法でも?」
「はい。治癒魔法といえども『改造された感覚は元に戻せません』そもそも傷ついたものでもないですし……」
「毒や麻痺とか身体の状態変化を治す魔法とかでも?」
「えっと……毒や麻痺を治す魔法なんてないです。毒や麻痺とかは薬師が処方した適切な薬で治しますので……それに改造した肉体はすでにそれが『通常状態』だと思います。たとえ麻痺や毒を治す魔法があっても健常体には効果はありません」
「……傷を治す魔法はあっても毒や麻痺を治せる魔法はないんだ」
やっぱりか……『勇者の記憶』を辿っても見つからないから……もしかして……って思ったけど……
「はい……」
現実は残酷だ。
「そっか……」
八方塞がりか。俺は貪るようにスライムに快楽行為を求めている女性たちの光景をぼぉーと見る。
俺の知らない記憶が……歴代の勇者たちの記憶が答えを出している。
『もう助からない。ひとではない。殺せ』と。
このまま生かしてもスライムの養分にされてスライムを増やしかねない。増やされたらまた、きっと同じ様なひとがでてくるかもしれない……。
殺すか……生かすか……どっちにしてもあのひと達の未来はもう無い。スライムなしでは生きられない。
このひと達はもう後にも先にも行けない……のか?
本当にダメなのか……本当に助からないのか……何かないのか? 何も無いのか……?
鈍る。決断が定まらない。俺は……本当にこのひと達をこの手で……俺の持つこの剣で……
「でも……」
このまま、スライムの餌として生きて死んでいくなら……今ここで……俺が……
「勇者さま……もう放っておきましょう……この状態にしておいてもいづれ魔物が……」
「リムル」
「は、はい!」
話しかけれたのがそんなに驚いたのか、リムルは驚きの声をあげた。
「俺は『スライム』を『全部』倒すから……リムルは扉の外で待ってて」
リムルにはいっさい目を合わせず、顔を背け告げる。
やらないと……これ以上こんなひと達を増やさないために……
「えっ……でも……精霊神剣は……」
「これでいいよ。だから……頼むから外で待っていてくれ」
左手に持つ血塗れの剣を少しだけ上げてリムルに示す。
「……わかりました。お気をつけて」
「ああ」
リムルは俺の考えを理解して……理解したと信じて空を駆け扉へ向かう、そして部屋の外へ出たのを俺は確認した。
「また……俺は……」
マリアを思い出す……
俺……ひと……を
「うっ、うぶっ……!」
吐き気がこみ上げてくる。
「はぁはぁ……」
垂れた涎を腕ふき取る。
ひとひとりでこれだけ吐き気がするんなら……これだけのひとだと俺は
どうなるんだろう?
「ふぅ……」
一息つく。頭を振り、考えをまとめる。
「うっぷ……はぁはぁ……最初は……こいつからだな……」
時折こみ上げてくる吐き気に耐え、柱にまとわりつく巨大なスライムを俺は殺意を籠めて睨んで、重い足取りで歩みを進める。
「はぁ!」
たどり着いた柱に向かって横一線に剣を薙ぐ。薙いだ太刀筋はスライムを斬り裂き、赤い粘液の吐き出して絶命し、スライムは黒い砂となり消えた。
「次……」
俺は『次のスライム』に目をやる。
「ねぇ……どうしてそんな事するの?」
「せっかく気持ちよかったのに……なにしてくれてるのよ……」
目がうつろでゆらりゆらりと俺の元へと歩いてくる。女性。
「まるで……ゾンビだな……うっ……」
洋館を舞台にしたホラーゲームに出てくるゾンビを思い出していた。
『重症だな』と、呟く。ゲームに出てくるゾンビで吐き気がこみ上げてくるんだなんて……
「はぁはぁ……俺が……あんた達をひととして終わらせてあげるよ……」
本当にいいのか? これでいいのか?
答えが出ないまま……吐き気に耐えて、向かってくる『スライム』に俺は持っている剣を……振り上げた。
◆
「勇者さま……」
リムルは扉を出たのと同時に目を閉じ、耳を手で塞いだ。
「あははっ! おなかから血がぶしゅっとぉぉぉぉお! 出てるぅぅぅううぅう〜〜こんな快感初めてぇ! ねぇ、もっともっとしてよっ!」
リムルの塞いだ耳に聞こえてくるのは女性の甘い甘美なとろけるような淫声。
「なにこれぇ? すご、しゅごいぃぃいぃぃぃい! あたしの腕が斬り落とされてぇ……何これぇ! すごい気持ちいいいいいいいのぉ〜〜〜!」
女性の淫靡な甘い声。その声からの状況はとても気持ちのいいものではない。
「やめろ! やめてくれ!」
勇者の悲痛な叫びが響く。
「ううっ……」
リムルは目と耳を塞ぐ手を瞼に力を籠める。しかしそれでも扉から漏れる声はリムルの耳に侵入して、甘美な甘い声を耳に届ける。
スライムは飼っている女性の感覚を消失させ書き換える。
それはスライムは快楽、愉悦を餌に生きる『淫獣』だからだ。飼われている女性は肉体を改造され、余計な感覚を消し去られすべて快楽へと書き換えれる。それはもちろん『痛覚も快楽へと』変換させられている。
「斬ってぇ〜〜〜〜〜私の身体を斬り刻んでよぉぉぉ〜〜〜もっと気持ちよくしてぇ〜〜〜っ!」
痛みで悲鳴を上げている声はひとつもない。聞こえてくるのは淫靡で甘い声が、舌足らずな声が響くだけ。
「やめてくれ! ダメだ!」
「はひぃ! あったかい! 血がこんなにぃ! あったかいのぉ! あ、はぁん!」
「はうぅ! 知らにゃい! こんなに暖かくて気持ちいいの知らにゃいよぉ!」
「ううっ……まだですか勇者さま……」
リムルは目から涙が出るほど強く目を瞑り、耳を塞ぐ腕はプルプルと震えるほど力が籠もっていた。
◆
「……あれ声が……聞こえなくなった……?」
事がすんだのか数十分後には声が聞こえなくなっていた。
「あっ……」
その時、リムルが出てきた扉が開いた。
「ひっ! あ……ゆ、勇者さま……大丈夫……ですか?」
リムルは小さく呻き声を吐き、出てきた勇者との距離を保つ。
「……」
出てきた新しい勇者は……剣も、腕も、服も……肌も真っ赤で、唯一違うのは顔が真っ青になっていた。
「……勇者さま。城塞王都に戻りましょう……ここにいても……もう」
「ねぇ……リムル……」
「はい……」
「俺は……ひとを殺してまで正しいことをしたのかな……」
赤い液体が滴る剣をそのままに、生気の失った虚ろな目の勇者はリムルに問うたのだった。
◆
「あはは、ずいぶんとハデにやられたねぇ、アウラぁ?」
四枚二対の黒い羽で飛び回る手のひらに乗るほどに小さい人型の生命体。
その人型の生命体は半裸状態になっていたアウラと呼ばれる少女を、ニヤニヤと眺めていた。
そんなアウラは、広大に広い部屋で玉座がある部屋でアウラは膝まつき、息を切らしていた。
「黙れ……」
「いや〜まさか闇の衣まで消失させられるとはねぇ〜恐れ入ったねぇ〜」
その飛び回る生命体の言動を聞いていたアウラの眉がピクッと動く。それは怒りがこみ上げてくるほど感情だった。
小さい羽の生えた生命体の軽い言動で、言葉に気持ちが籠もっていない。
「黙れ……」
「それに、みすみす新しい勇者まで誕生させちゃうなんてねぇ〜しかも愛しい父君が納めるこの魔王城で、なんてね。これじゃあ父君におしおきされちゃいますねぇ〜」
憎たらしい笑顔で、清々しいほどの軽い言葉で皮肉を籠めて、黒い羽で飛び回る生命体はアウラに話を続ける。
「黙れと言っている……」
「しかもぉ、焼き付け刃で設置した召還陣まで破壊されてぇ〜〜為す術なしでご帰還とは……せっかく裸なんですから、そのムダに大きい胸で勇者を誘惑してはどうですかぁ? 『世界の半分をおまえにやろう』とか何とか言ってぇ、あははっ!」
「うるさい黙れ」
「う〜ん、今日の功績は勇者とそのお仲間たちを屠ったくらいですかねぇ〜。あ、もしかして、父君におしおきされる事がご所望ですかぁ? 姫君は?」
黒い羽の生命体は玉座には目をやる。
しかし、その玉座に座っているであろう主はそこには居なかった。
「黙れと言っているぞ、マイラ!」
「あ〜怒っちゃってコワイコワイ〜〜」
軽々しい言葉を吐いて黒い生命体は玉座の後ろに飛び去り、顔だけをだしてアウラを見ていた。
「私はおまえが嫌いだ」
「イヤですねぇ〜私はこんなにも姫さまを愛しているというのにぃ、伝わりませんか?」
アウラはにらみ、マイラは笑顔を浮かべる事、数秒。
「父上の『器』はどうだ?」
口を開いたのはアウラの方だった。
「相変わらず、泣きじゃくってますよ」
「そうか……」
玉座の間の奥にある部屋をへと入ったアウラは巨大な鳥かごのような檻に入れられている『少女』へと目をやった。
その少女は長く綺麗な髪。そして服から見える隠れする白い肌。幼さ残っていてもわかる端正な顔立ち。綺麗という言葉よりもかわいいという言葉が似合う少女はこの世界では信じられない軽装で紺色の布の服を纏っていた。
「た、助けて……」
弱々しく、消えて掠れそうな声で少女は口を開いた。
「耳障りなノイズだ。あいつを思い出す」
一瞥し、踵を返しアウラは立ち去る。
「着替えてくる。マイラこの器に『言葉を宿せ』」
「はいはい〜姫さまの仰せのままに」
アウラはマイラにそう命ずると、さらに奥にある扉へと向かった。
「ふぅ、さてと……」
黒い羽を持つ生命体は一息つくと、瞳を閉じる
「人化はあまり好きじゃないけどぉ……姫様のご命令ならしょうがないね」
その言葉をきっかけに身体が黒い光に包まれる。
「……えっ」
目の前の、鳥かごに捕らわれている少女の目が驚きで見開く。
それは瞳に映る光景がとても信じられるモノではなかったからだ。
黒い羽を持つ生命体の腕が、身長が、身体が、足が、髪がそのすべてが急激に成長していくからだ。
「うん、こんなもんか」
その姿は黒い羽は失われ、肌は透き通るような白い透明な肌。髪は美しい長髪で色は黒。瞳は金色の瞳の……まさしく生まれたばかりのような裸で『女性』そのものだった。
「じゃあ、始めるね」
「ど、うして……?」
女性は鳥かごをいとも簡単に開け中に侵入する。驚くのも無理はない。少女は逃げだそうと何度も、何度も鳥かごの出入り口らしき鉄格子を押したり引いたりしてもビクともしなかったのだから。
「い、いや……」
侵入してきた女性に少女は恐怖し座ったまま後づさりする。
「う〜んかわいいよ。その小さいくちびる……頂戴ぃ……」
顔を近づけ、唇を近づける。
「や、やめて!」
少女は両腕で長髪の女性を拒むが、女性はその両手を掴み、身動きをさせないほど力強く握る。
「痛いっ! やめて!」
「抵抗しないでよぉ〜すぐに終わるからぁ」
「や、ん、ん〜〜〜〜〜〜〜〜」
無理矢理重ねられた唇と唇。
「ん、はぅ……」
舌を少女の唇の中に侵入させ、絡める。
「ん!、ん〜〜〜〜ん!」
それに気づいた少女は捕まれている腕を強引に振りほどき、女性を押しのけ唇を離した。
「はぁはぁ……なんで……初めが……こんな」
「あはは! 初めてだったんだ。うれしいなぁ」
女性は目を細め、舌で妖艶に上唇を舐める。
「なんで……こんな事……私、どうなっちゃうの?……」
今にでも泣きそうな少女に女性はこう告げた。
「う〜んまぁ、そのうち分かることか。えっと、あなたは『魔王』になるの」
「魔王……魔王って……?」
「うん、言葉が宿ってるね。私の言ってることわかるよね?」
「えっ……あ、あれ……?」
「では、自己紹介といきましょうか」
女性はコホンとひとつ咳払いをした。
「初めまして魔王を継承されし者よ。私は精霊のマイラ。あなたがいづれ持つことになる剣、『邪霊魔神剣メキドゾーマ』に宿る精霊です」
マイラと名乗ったひとを象った、精霊は右手を左胸に当て片膝を地に着き頭を垂れる。
そのしぐさは少女に忠誠を誓う従者のようだった。
「邪霊……魔神剣……?」
「さて、これで終わりっと」
そう言うと、女性の身体が黒く光り出し、身長が縮み、手足も短くなり、髪も短くなっていく。
「うん、やっぱりこれが一番いいなっと!」
その姿は背中には黒い羽が姿を現し、小さい精霊は空中を飛び回っていた。
「私はこれから魔王さまの所にいくから後で逢おうね。じゃあね」
そう言って精霊のマイラは飛去った。
「あっ……」
少女は開けっ放しになっていた鳥かごの出入り口に目をやる。
「いまなら……」
少女は意を決して、鳥かごを出て走る。
部屋を出られる扉はすぐそこ。少女は気力を振り絞り、扉を目指す。
「あぅ……」
「まったく、マイラには困ったものだ」
扉に立ちふさがる声。
先ほど少女を一瞥した裸の少女。今はもちろん黒を基調とした服を着ているが。
「ど、どいてください……」
弱々しい言葉で少女は目の前の姫に訴求する。
「どいてどうする?」
「家に帰るんです」
「家に帰る? この世界にお前に家はどこにある?」
「……そ、それは」
答えに困る少女は口ごもった。
「答えられんか? まぁいいだろう。ならこの『城』から出るがいい」
「えっ?」
「ただし。生きて出られたらな」
「生きて……」
アウラのその言葉に少女は微かに身が震えた。
「この城には凶暴、凶悪な者がいる。それはもちろん人喰いの魔物だっている。もしこの者達を斬り捨て、打ち負かして出られたなら、私はもうお前には干渉しない」
「ほ、本当ですか……?」
「ああ、『生きて』出られたならな」
アウラは『生きて』と言う単語を強調して言葉を吐いていく。
「……」
少女は考える。瞳を床に落とし、考える。
「どうした。死ぬのが怖いなら戻れ」
「……わかりました。その申し出。受けます」
意を決したのか少女は視線をアウラに合わせて口にした。
「ほぉ、死ぬかもしれないのによくその選択をしたな?」
「生きて出られる可能性があるなら……ここよりましです」
「……言ってくれるな」
アウラはまゆをビクつかせ、少女を睨む
「餞別だ。武器を言え。くれてやる」
「武器……」
目の前にいる人物から発せられた言葉は自分が生き残る可能性を、飛躍的に引き上げてくれる夢のようなことに聞こえた。
「武器……」
繰り返しつぶやく少女。
(武器……私が扱えてなおかつ強力なモノ……)
少女は視線をアウラから反らし、床に落とす。そして考える。考える抜いて考え抜く。自分が生きてここから出られる最善の武器の選択を。
「……」
「早く言え、あまり遅いと私の気が変わるぞ」
答えを聞けないアウラはイラつき少女に向かい急かすように答えを促す。
「あ、えっと……なんでもいいんですか?」
「ああ、武器ならなんでもいい」
「ありがとう……ございます」
(ど、どうしょう……武器……これはどうなんだろう?)
少女はお礼を言い、またすぐに視線を落とし歴史の授業で習った『武器』のひとつがひらめいていた。そしてそのモノを口にしてみることにする。
「あの、『水素爆弾』っいうのはアリですか?」
少女は言ってみたもののもし本当に出てきたらどうしようと思う。
『強力』と言う点なら申し分ないだろう。なんせ原子爆弾以上の威力だ。
しかしそもそも、水素爆弾がこの少女に扱えるのかも怪しい。それに水素爆弾の大きさも少女にはわかってないのかも知れない。
仮に与えれて使ったとしても、少女自身も無事では済まないだろう。
「すいそ……ばく……だん? なんだそれは?」
「あ、いえ……何でもないです」
その答えを聞いた少女は心中で安心していた。
『これが無理なら、戦車も戦闘機も無理だね……』と胸中でつぶやく。さらには『出されても運転できないけど……』と付け足した。
しかし、水素爆弾や戦車は武器ではなくどちらかと言えばそれは『兵器』の部類に入るだろう。その事がわからないほど少女は答えを急かされているのだ。
「まだか? 答えが遅いぞ。いらんのか?」
「あ、いや、なら……そうですね剣を……お願いします」
少女はここに来る前に読んだマンガを思い出す。それはヒロインの女の子が剣を持ち決闘を受けるマンガだった。それが今の自分と重なり、自分でも扱えそうな武器として剣を選択したのだった。
「剣か。好きなモノを選ぶがいい」
アウラは大鎌で空間を斬り裂く。斬り裂いた空間の中から、様々な形、大きさの剣が雨のように大量に少女の前に降り注いだ。
「それでいいのか?」
「はい」
落ちた剣の刀身の幅が狭い両刃の剣を一振り拾い上げで、両手で持ち上げる。
「重い……」
初めて持つ剣。人を殺せる武器を持ち、少女の顔は剣の重量と緊張で固まる。
そして、同時にこんな状況を受けて入れてる自分にも驚いている。
「では、行くがいい。城の出口は1階だ」
「……」
少女は剣を両手で持ち、扉へと向かう。
「お前はここから出られない。必ず戻ってくる」
アウラは少女に聞こえるか聞こえないくらいの声で呟く。
「……お世話になりました」
横目で一礼するとアウラに礼をいい、扉を開き部屋を出たのだった。
「ううっ……どうしたらいいの……」
扉を出てすぐ横の壁に背を預け天井を仰ぐ。
不安で壊れそうな心を剣を握りしめギュッと押さえる。
「お願いだから……誰か助けて。私を助けてよ……怖い怖いよ……」
剣の柄をギュッと両手でさらに強く、強く握り、うつむきおでこを柄の後部へと当て、ぽつりとそう願い呟いたのだった。
第三話 限りなく絶望に近い願いの先に 完
あけましておめでとうございます。そして、こんばんは、間宮冬弥です。
今年もよろしく願いします。
まずは小説を最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
毎回、遅い更新で申し訳ございません。
今年はなんとか早いペースで書き上げたいと精進したいと思っております。
では、重ね重ね今年もよろしくお願いします。