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鏡の中へ
夕陽を見て、イアは大人しくなった。通りを行き交う人々もまばらになった。
町の外れ、路地裏の空き地に洗面台が据え付けられていた。ロロの背丈にぴったりな位置に大きな鏡が一枚、むき出しのコンクリートに貼り付けられていた。
イアは下を向いたまま、手袋をロロに差し出した。黒いビロードの美しい手袋だった。
ロロはそれをはめて、鏡に手を当てた。手は鏡に吸い込まれた。
顔だけイアの方を振り向いた。イアは俯いたままだった。
「またね、イア。」
イアはやっと上を向いて、笑顔を見せた。零れんばかりの涙に溢れた、寂しさを押し隠した笑顔だった。
ロロは向き直り、鏡の中へと飛び込んで行った。




