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自己紹介は手短に

「部長の滝本裕です、今日は3人か」


そう言って来たのは2年生の滝本裕だ。サークルの創始者であり、熱烈な活動で一躍有名にした人物でもある。

本田以外の2人の新入生が興味深そうに、或いは申し訳無さそうに本田を眺めた。


「杉山君に佐藤君、後で一応自己紹介してもらうけどね」


サークルの説明は、即ち活動の歴史の説明だった。

設立3ヶ月で民間の主催するいじめ対策シンポジウムに参加し体験談や対策を話し、その足で他大学の式典にも参加。


「やっぱりみんな、被害じゃなくても体験って有ると思うんですよ。そうしたものを、無駄にしたくないんだ」


滝本の言葉は本気だ、そう伝える表情と口調が3人の新入生を魅了した。


闘争の歴史は、ここから始まったのかも知れない。


3人は、入部届けに記名した。


本田琢磨、杉山卓也、佐藤圭介――たった3人だが、先輩が2人しか居ない事を考えれば十分とも言えた。


ボールペン習字でも習うか、そんな事を考えながら本田は300円はしそうなボールペンを置いた。


「それじゃ、早速お願いしようかな」


自己紹介として、自身のいじめ体験談を話す。それが被害者でも、加害者でも、傍観者でも。

それが伝統らしい。まだ初代会員しか居ないとはいえ。


先鋒は165cmほどの背丈の新入生が務めた。

あどけない丸顔に、無垢な笑顔はいじめの関係者には思えないものだ。


「杉山卓也です、東久留米工科高校から来ました。僕自身は、たまたま被害に遭った事は無いです」


ただ聞けば、クラスでの嫌がらせを止めさせたりしていた様だ。それは体験ではなく、純粋無垢な正義感によるものだろう。彼が居て、救われた生徒も多いだろう。


彼の濁りない瞳は理想主義者のそれだが、彼には行動という武器と努力が有った。


「ありがとう、素晴らしいです。被害者だけ、加害者だけで固まってしまうと思考も偏屈になるものだ――ようこそ、杉山君!」


そして、2人目。佐藤圭介が自己紹介を始めた。

彼は外見が元で中学時代に悪口を浴びせられたという。ひ弱な体格のせいで、常に何かと嫌がらせが有ったとか。


「信じられない、マジで?」


滝本がそう言ったのは、短髪で筋肉質な佐藤がいわゆるイケメンではないにしても一般的に劣る外見では無いからに他ならない。


しかし、それも反骨心由来の努力で中学高校とハンドボールに打ち込み続けた努力の成果だろう。或いは、そうさせた父親の影響かも知れない。


「そっか、努力で乗り越えるなんて凄いじゃん」


大したいじめじゃなかったからですよ、と謙遜する佐藤に注がれる視線は悪いものでは無かった。


「いじめに大小は無い。些細な事でも乗り越えるのが凄いんだよ」


そして、ある種なにかを期待する視線が本田に向けられた。

受け取り、少し考えてから言葉を発する。


「大した話じゃないですが」と前置きし、パイプ椅子から立ち上がる。その老け顔と体格なら、さもありなん――そんな考えは彼らには無かった。



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