97話目
「別に、アンタのこと気にしてるから、聞いてるとか、そういう訳じゃないの。たださ、なんていうか……完成させたいじゃない」
「ああ、なるほど。師匠思いの弟子だなあ」
「感謝しなさい」
俺は少し考えて、答えた。
「夜にするよ。また、夜にここにきて……それから、帰る。次来るのは、多分、お盆だと思うけど」
「……! じゃ、明日までには、絶対……完成、させるから」
彼女の絵は描きかけで、まだ半分くらいといったところだった。がんばれ、と応援する。明日が楽しみだ、とも。
そしてふと気づいた。ここのところ、楽しみだと思うことなんて、あっただろうか。
……なかった。義務感と、日々の生活リズムを崩さないように、ただただ、生きていた。約束なんて、しかだろうか。契約くらいのものしか、していない。
久しぶりだ。こんな……こんな、約束も。心が、温かくなったのも。
「……なんか、気持ち悪いわよ。なに考えてんの? ロリコン」
「ちっげえよ!!!」
まったく、ほんとうに憎たらしい奴だ。
だけど、女の子のおかげで、久々にわらった。いろんなものの重圧から、ちょっと、解放された気がする。絵のせいかも、しれないけど。
ぐうぐう文句を言う女の子の横で、俺はそっと笑みを零した。




