95話目
次の日も女の子はそこにいた。俺が呆然とそこに立っていると、女の子がこちらに気付き、得意げに笑った。女の子はスケッチブックとポスターカラーを持っていた。
「課題、まだ終わってないの。私、美術いっつも成績悪いのよ。だから、描いて」
「やだよ」
「なんで? 絵描くの、好きなんでしょ?」
……よくもまあ、ドストライクに地雷に踏み込めるものだと、俺は思った。
「……好きじゃない」
「じゃあなんで描くのよ」
「……」
「好きなんでしょ?」
軽く焦れたように、女の子が俺に問う。書くから、好き……。そうだろうか、ほんとうに?
多分、はじめたころは純粋に絵が好きだったのだと思うけど。今はもう、わからない。
黙り込んでしまった俺を心配したのだろうか、女の子がいらっとした声をあげた。
「ねえ、私の絵描いてよ」
「……ごめん、それは嫌だ」
「なんでよ」
「責任問題になるからだよ。第一、俺の描いた絵だってばれるだろ、普通」
「……そこは上手くやりなさいよ」
「嫌だよ」
「じゃ、教えて」
「……」
俺が黙っていると、女の子は勝手に隣に座り込んだ。そして、じっと俺の方を見つめる。
「……なにさ」
「どうやんの?」
「……師匠の技は見て盗めよ」
「師匠なんて偉そうなこと言える立場なの?」
「教えを乞うてるんだろ?」
「はっらたつわね、アンタ」
「じゃあ諦めて帰れよ」
「……どうやったら上手に描けるの?」
「才能」
「しね」




