9話目
遅くなりました(読んでる人いるのか知らないけど)。夏休み入ったぞー!
目が覚める。どうやらあの後、ちゃんと眠れたらしい。良かったよかった。心配してたのだ、眠れるかどうか。
自分を見下ろす。服が変わっている。いや、ジャージなのは変わらないがデザインが少し変わった。それなりに綺麗好きなのだろうか、俺なんてジャージは洗濯しないことが多々ある。
起き上がり、箪笥へ向かう。昨日と同じところに、日記帳は存在した。
パラパラとページを捲り、目的のページに達する。昨日よりかは緊張せずページを開く事ができた。そこには、こう書かれていた。
『お前まじふざけんなよ。出るなっていっただろうが。
それに何勝手にアイツと会ってんだよ。最悪だ。
もう勝手に出るなよ。お前はあくまで俺の体を勝手に住家にしてるだけなんだから。まじ有りえねえ。
……ちなみにアレは、兄だよ。
若杉恵登。社会人。頭いい。
俺はアイツのことが、大っ嫌いだ。相手も同じく。
いいからアイツには関わるな。絶対にだ』
文字が、荒れている。
勢いに任せて書いたのだろうか、読むのが大変だった。相手はかなり怒っていると、そう感じた。
悪かった、と思う。
ちょっと勝手な行動をした。誰だって、踏み入られたくない領域はあるだろう。それは勿論、俺にだってある。
流石に今日部屋を出るのはまずい。そう思い、ごろりとベッドに転がる。生憎眠気は全くやってこなかった。
それにしても、今日はいつなのだろう。まだ春休みというのは分かるが。
外界の情報が全くないというのは、恐怖でもあった。世界に自分が独りぼっちなのではないか、そんな幻想まで抱いてしまう。昨日人に会ったばかりだというのに。
この部屋には、何も無い。娯楽とか、生活感とか、なにも。
暇だ。いつもこの部屋で、若杉由布くんは何をしているのだろう。
聞いてみようか、と思った。長い付き合いになるかもしれない。ずっとこのままでいる訳にもいかないだろうけど。
そういえば、とちょっとだけ思い出した。俺の、家族は。―――……田代晃の、家族は。どうしているのだろう。残してしまった。悪い事をした、と思う。けれど、耐え切れなかったのだ。結局最後まで、ずっと迷惑をかけ通しだった。
ごめんなさい。目を瞑って、小さく謝った。
そうだ、と起き上がる。返事を書かなくては、日記の。
質問すること、何だろう。纏めなければ。
頭の中で何とか文字を纏め、ペンを手に取った所で。コン、コンと。ドアがノックされる音が響いた。
一瞬思考が止まる。えっ、と……こういう時は、どうすればいいんだっけ。外に出ちゃ駄目とは言われたけど、外から話されるのはいいのか。いや、そもそもドアを開けるべきか。でも、でも……?
迷ってるうちに、ドアはがちゃりとあいた。
「え……」
「おい、由布」
知らないひとだ。背が高くて、自然と見上げるような形になる。威圧感たっぷりの、男。
誰だ、このひと。
「……もう、春休みは終わっただろ」
低い声が響く。怖い。……え? というか、春休みもう終わってたのか? え、でも確か若杉由布は……。
「なんで、学校に行かない」
怖い人だ。分からない人だ。だけど、何でか彼は泣きそうだった。