85話目
「ただいまー」
「おう、おかえり。ってなんだそのケーキ」
手がふさがっていたから、足であけて中へ入る。案の定武谷がくつろいでいた。まっさきにケーキに目がいくとは、やはり貴様甘いもの好きか。ちぇ、俺一人で二つ食べられるかと思ったのに。
俺の視線に気が付いたのか、武谷は笑った。
「俺、いいよ。お前二個食べな」
「マジか」
武谷の株が、俺の中でぐんと上がる。最高にいい奴だな。友達で良かった。
ケーキを二個頬張りながら、俺は話し始めた。
「で……ひゃにひゃらひゃひゃしょうひゃ(なにから話そうか)」
「……食い終ってからでいいよ、もう」
ゆっくりと噛み砕いて食べる。甘さと酸味が絡み合い、絶妙なコントラストを作る。
「……お前、ほんとうまそうに食うなあ」
武谷が若干の呆れを含んで言う。俺はそんなことも気にせずにケーキを食べ続ける。最高だなあ、このケーキ。どの店で売ってるんだろう。ぜひいってみたいものだ。
……さてと。ごくんと、最後の一口を食べ終わる。至福の時間が終わり、きわめて現実的な時間がやってきた。
「で、どこから話そうか」
「お前の家族の話、だったっけ。……なんか、あるのかよ」
「う、ん」
俺は、少しの間躊躇って。それから息を吸って、ようやく覚悟を決める。
「俺の、家族は……なんていうか、ちょっと、変わってるんだ」
言葉は、思ったよりすらすらと出てきた。兄と、姉の関係のこと。今、どうなのかは、わからないこと。両親の不仲……。
武谷は、その間、口をはさむことなく黙って聞いてくれた。
話していて、ああ俺はずっと、誰かに相談したかったのかもしれないと思った。一人で抱えるには、あまりにも大きくて、重い話だったから。話しているうちにどんどん、心のつっかえがとれていくみたいに感じた。
若杉由布は、こんなに重いものを、抱えてたのか。
ずっと、独りで。
荷物を下ろしてから、改めてそのものの大きさに気付いたみたいだった。
……いつか。
いつか、若杉由布にも。荷物を下ろせる友達が、できたらいいのに。




