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81話目

「あの、さ……昨日のこと、」

「あ、ちょっと待って」


 昨日のことの記憶がないから、教えて、と言おうとしたら遮られた。なんだよ、どう取り繕おうか考えてたのに。


「……?」

「若杉に、聞きたいことがあるんだけど」


 外からでも、声が躊躇って、震えているのが分かった。場が緊張感に満ちたのが、分る。


「……なんだよ」

「あの、さ……」


 何度も言いなおした後、武谷はすうと息を吸った。


「若杉は……俺に干渉されるの、嫌じゃない……か?、なら」

「全然嫌じゃない」

「即答!?」


 俺色々悩んだのに! 緊張してたのに! という若杉の嘆きが、外から聞こえた。俺は少し目を逸らした。

 武谷が何を思ってそんなことを聞いたのかは、知らない。ただ、できるだけ遠慮をなくしてもらって、若杉由布のことを心配してもらえばいいという下心が、俺にはあった。


「あー……えっと、じゃあさ。あの……俺が、色々干渉しちゃっても……いいか? その、家族の問題とかに」

「よろしく」

「だよな! やっぱ、プライバシーとかあるし……関わって欲しくなんか……て、ええ!? いいの!?」

「うん」

「あっさり……」


 武谷の拍子抜けしたような声が聞こえる。戸惑ってるみたいだった。


「……昨日の感じじゃ、関わって欲しくねえんだと思ったんだけど……」


 ……若杉由布か。どうやら状況を分かった上で振る舞ってくれた……らしい。というかそう期待する。


「じゃ、さ。俺、出来る限り、力になるから。どこまでやれんのか、わかんねえけど。それでも」


 武谷の声が、そっと胸にしみこむ。素直に、嬉しかった。それから、良かったと思う。若杉由布の力になってくれる奴がいて。味方が、いて。それはどうしても、俺にはできないことだから。


「ありがとう」

「……おう。なんかちょっと、照れるな!」

「別に」

「つめたぁい……」


 武谷の声はいつも通り、明るい。その様子に少し安心する。どこまでが友人の距離感なのか、よくわからない……。ともかく、武谷は俺に協力してくれるらしい。なら、と考える。なら、俺に持ってる情報を話すべきじゃ、ないのか?


「……あのさ、武谷……」

「え?」


 そこで、はたと気づく。

 味方なら……どこまで、話すべきなんだ?

 父親の事? 姉と兄の関係? それとも、二重人格とかいう状況の……ことも?

 そこまで考えて、口が止まる。……なにを、話せばいいのだろう。


「どうした、若杉」


 訝しむような声が聞こえる。俺は、動けなかった。

 若杉由布の、言った事……いや、日記だから、文字か。が、脳裏をかすめる。多分、若杉からしたら話してほしくないだろう。というか、話すなって言う。ぜったい。でも……いや、そもそも。こんな突拍子もない話、信じてもらえるのか?

 色んな思いが心を支配する。俺は、喋れない。


「……若杉?」


 どうすれば、いいんだろう。

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