8話目
暑い日が続きますね。溶けます。
そろり、と忍び足で外に出る。
この前見たのと同じ風景が広がっている。右はこの前行ったから……左に、進むしかないか。
部屋の扉をがちゃりと開ける。そこには誰も居なかった。大体、部屋の主―――元の人格? いいや、若杉由布くんで―――の、部屋に似ている。大体間取りは一緒だろうか。もしかしたら、誰かの部屋なのかもしれない。
探検、してみようかとも思ったが。一応止められているし、荒らすのはまずい。見るだけにしておこう。
勉強机と、それから本。本。とにかく本。本棚で壁が覆い尽くされており、入りきらなかった本がそこらに並んでいる。ラノベとかよりも実用書とか、分厚いハードカバー本が多くて、俺は読む気がしない。こういうの、読んでると眠くなってくる……。
でも、本以外は結構何も無い部屋だ。なぜか、空虚だと感じた。
「おい」
背後から声を掛けられ、びくりと身を震わす。
慌てて振り返ると、誰か背の高いメガネをかけた男が居た。
「勝手に人の部屋覗いてんじゃねえよ、由宇」
目がちらりと見える。あ、こいつ……どこか、若杉由布に、似てる?
そこであの日記の内容を思い出す。ああ、こいつが兄貴か。もしくは父親。
「あ……ごめ、んなさい?」
背が高い。メガネが光ってて、なかなか表情が見えない。
なんだか怖くて、ちょっと尻すぼみになる。すると、ソイツは何故だか目を見開いた。
あ、なんかミスったか?
もしかしたら、若杉由布はごめんとか言わない人間だったのかも。それか、兄弟仲が冷え切ってるとか。
まあ、自殺しようとしたんだしな、なんか問題はあるんだろう、きっと。
兎も角、場を逃げるようにして走り去る。アイツ、怖い。出来ればもう会いたくないと思った。
部屋に駆け込むと、日記に少し付け加えた。
『外に出て左の部屋へ行きました。メガネかけたあの人は誰ですか。
なんか、ちょっと怪しまれたかもしれません』
後はベッドにダイブ。眠気は訪れないけど、必死で目を瞑った。メガネの光る様子が脳裏にフラッシュバックする。思い出したくないけど、思い出す。ああいう奴が、俺のすぐ近くにいた。大っ嫌いな奴だった。出来れば、消えてほしかったくらい。
息が、つまりそうだ。