77話目
そしてしばらく、何の音もしなかった。どくどくと、心臓が波打った。何時間のようにも思えたが、きっと一瞬だったのだろう。扉がどん、と押された。振動が直に伝わる。手が震えているのが分かった。開けちゃいけない、それだけを頭の中で唱え続けた。ここに来させちゃ、いけない。押さえておかないと。扉がそのあとも、何回も叩かれる。どん、どん。自分ががたがたと震えているのがわかった。怖い。怖い。しばらくして、外から声が聞こえた。
「……由布、開けなさい」
優しい声音だった。肌が粟立つ。開けたくないと、本能が叫んでいた。嫌だ、いやだ。
「由布」
扉ががたがたと鳴る。かちかちと、俺の歯の根が鳴って、体も震える。まぎれもない恐怖が、俺を襲っていた。扉が開けられたら、死ぬ。そんな感じがした。それからまたどんどんと扉を強く叩かれる。扉が軋む。壊れないか、心配になった。
がたんと扉が大きな音を立て、俺が恐怖に身を震わせたそのとき。
「……なに、してるんですか」
さっきまで聞いていた声だった。
「明らかに、尋常じゃない様子に……見えるん、ですが。これも若杉のためを思っての行動、なんですか」
「……君」
「武谷です」
助かった、と俺は息をついた。安心感が、どっと体を襲う。
「あの、やっぱりやりすぎです。……若杉も、様子おかしいみたいですし」
気付いてたのか。……ほんと、いい友達だと俺は笑った。ようやく、ちょっとだけ安心できた。するとなんだか力が抜けて……気付くと、俺は眠ってしまっていた。




