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75話目

「さ、それよりももう遅い。そろそろ家の人が心配してるんじゃないか?」

「えっ……あの、別に大丈夫ですけど……」

「いや、由布につき合わせたら悪いよ」


有無を言わせぬ口調だった。


「……あの」


 武谷の声が、少し硬い。明らかに父親を怪しんでいる声だ。いいぞーもっとやれーと、心の中で叫ぶ。


「あなたがそんなんだから、若杉学校に行かないんじゃないんですか」


 場が、固まった。


「……」


 直球すぎや……しませんかね。武谷くん。


「……どういう、ことかな」


 父親の声も、固い。相手の真意を探っている様に……いや、測りかねているのだろうか。ドアの前で、なんだか俺も緊張する。どうすんだよ、武谷。というか、なんでそんな風に聞いちゃったんだよ……! いや、まあ誘導したのは俺なんだけど。


「そのまんまの、意味です。俺、よく分かってないし部外者が馬鹿なこと言ってるって流してくれてももちろんいいんですけど……なんか、変です。あなた」


 初対面の人間にこんなこと言われたら父親じゃなくても切れる。うん、俺なら切れる。

 武谷、どうしたと言いたくなるのを必死にこらえる。この緊張感、声を出したら殺られる……!


「どういう意味だか、よくわからないね。あまり、踏み込んでこないでほしいんだが」


 父親はキレてはいない。ただ、怒気がにじみ出ていた。その迫力に、俺はびくりと震える。


「ほんとに、失礼なのはわかってます。でも、俺……来てほしいんですよ、若杉に。学校に」

「だからって、なにを言っても言い訳じゃないだろう?」

「そりゃ、もちろんですけど……でも」

「なら、口をつっこまないでくれ」

「……」


 台詞を遮られ、む、となった雰囲気が伝わる。


「でも、俺、なんかこのままじゃだめだって気がするんです」

「はあ?」

「このままじゃ……若杉……なんていうか……」

「なにが言いたいんだ」


 父親の言葉がどんどん激しさを増す。さっきから、もう怒気を隠そうともしていない。はっきりと、意思を持って責めているのだ。

 それでも武谷は怯まずに、小さな声で言った。



「しんじゃうきがする」

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