73話目
「え……」
武谷の茫然とした声が聞こえる。
あれ、この言い方って誤解を生むんじゃ。そう気付いた時には遅かった。
「なっ……どういうことだよ、それ! あの女か?」
「あ、ちょ、ま……ごめん! 間違えた! 間違えてた! ほんと、なかったことにして! 俺重い過去とか全然ないから!」
「若杉……」
隠さなくてもいいんだぜ……って、聞こえた! 今なんか聞こえた! やめてくれ。俺そんなやつじゃなから。言葉のアヤだったんだって。
「ちょ、武谷……あの、俺ほんとに大丈夫だからな? 勘違いしないでくれよ? 言葉のアヤだから、そんなやついないから!」
「安心しろ、若杉……俺、絶対お前を学校に来させるからな!」
……だめだ、こりゃ。
あっちゃー。やっちまった。どうしよう。完璧に、誰かが俺を脅してると思い込んでしまっている。どうするべきなんだろう、こういう時……。助けて若杉由布。
「あの、違うんだよほんとに。今の、ちょっと間違えただけだから。そんな深刻じゃ、全然ないから」
「あんな真剣そうに言っといて?」
「そういう時もあるって! だから、ほんとにさ……」
「ほんとうか?」
「ほんとうだ」
武谷が疑ってるのが、扉越しでもものすごく分かる。でも、このままだったら押し切れそうだと思っていた矢先に……
「おい」
奴が、現れた。




