71話目
「……うん、明らかに本人に渡すものじゃ、ないと思うぜ」
「だよなぁ。数学のプリントはちょっと複雑だから、必要かもしんないけどさ」
それから、ごちゃごちゃとプリントの説明をされる。ほとんど聞き流しながら、みんなからのメッセージを見る。はやく学校おいでー、とか。ありがちな言葉が並んでいる。高校って、もっと無関心なものじゃないのか?
「先生が結構、そういうの好きでさ」
俺の思考を見透かしたように、武谷が言った。俺はため息をつく。なんだそれ。くだんない、と俺は思った。
「みんなからのメッセージだよ。ありがたく受け取っとけ」
「別にそんないらね」
「そういうなって」
武谷が笑ったのが、ドア越しでも分かった。
「……で、本当にそれだけか? 用事」
俺が呟く。少し間が空いてから、武谷がこたえた。
「……まあ、実を言うと、さ。ちょっと、謝りたくて」
「は?」
「いや、なんか久々に学校来たのにさ、対応間違えたから、また来なくなっちゃったのかと……なんか変なヤツも絡んできたしな」
変なヤツ、少し考えて、ああ裕美のことかと察する。そういや、裕美と揉めたんだっけ、学校で。それ以来会ってないけど。夢で会ってるから、なんか普通に会っているような気分になっていた。
「変なヤツは、大丈夫」
「は?」
「ま、そこまで悪い人じゃ、なかった……と、思う」
「って、また会ったのか!? アイツと!?」
「う、ん……というか」
「えー! あんな奴、絶対ヤなヤツだって!」
「あ、うん……そ、そうかも……」
どうやら、武谷からの印象はかなり悪いらしい。ま、そりゃそうだよな。突然乱入してきたし。記憶をたどりながら考える。でも、そんな悪い奴でもなかったんだよ多分。少なくとも幼少期は。うるさいけどね。
「仲、いいのか? というか、知り合いだった……ん、だよな。アイツと」
「まあ」
「縁切った方がいいぜ」
「……忠告、ありがとう?」
「いや、別にいいけど」
なんとなく、居心地の悪い沈黙が流れる。こういう時どうすればいいのかわからない。先に沈黙を破ったのは、武谷だった。
「……あのさ、若杉」
「なんだよ」
すう、と息を吸い込む音が、扉の向こうから聞こえてきた。
「お前、なんで学校来ないんだ?」




