67話目
夫婦喧嘩だと、思っていたが。実際には裕美も参戦していたらしい。全然分からなかった。と、それと同じくらい大きな声怒鳴り声が聞こえた。
「いい加減にするとはなんだ! いい加減にするのはお前らの方だろう! 一体なんで、兄妹で……まったく、お前はどんな教育をしたんだ……!」
「私だって、こんな風になるなんて思わなかったわよ! 私は普通に育てたわ! それなのに……どうしてこんな、おかしく……あなただって手伝ってくれなかったじゃない! 仕事仕事! 家庭のことなんて、なにも見ないで……」
「なんだと!?」
思わず顔を顰めた。それを、本人の前で言うなんて……あまりにも……
「……ッ、そんなの!」
「父さんも、母さんも、落ち着いてよ。もちろん、裕美もね」
静かな、一番落ち着いた声が場を切り裂いた。……薄々察していたが、あの場には由布以外の家族全員が揃っていたらしい。あれは、恵登の声だ。一番冷静な声に聞こえる。……大人が子どもに諭されて、どうすんだよ。チッと舌打ちしたくなるのをなんとか堪える。
「……父さん、母さん。僕たちは、確かに普通じゃないかもしれない。兄妹間の恋愛がおかしいということくらい、分かっているよ」
「なッ……!」
「そうよ、そうなのよね、恵登。それが分かっているなら、どうしてっ!」
「でもね」
有無を言わせぬ強い口調で、恵登は言い切った。
「それでも、好きなんだ。僕は、裕美のことが」
「恵登……」
……あれ? なんだこのげろ甘ラブコメ。そんな幻想はすぐ打ち砕かれた。
「……そうか、それがお前の答えなんだな」
「父さん……」
「出て行け」
静かな、だけど有無を言わせぬ口調。
「とうさ……っ」
「出て行け。もうこの家に入ってくるな」
重ねるように、父親はもう一度言った。
……恵登の気持ちが伝わってくるようだった。悔しくてたまらない、そんな気持ちが。
「……わかりました。行こう、裕美」
「け、いと……」
裕美の声には、ありありと動揺が浮かんでいた。それを振り払うように、恵登がもう一度言う。
「行こう」
「……うん」
しばらく無音が続いて……やがて、ばたんと玄関のドアが閉まる音がした。
恵登と裕美は、出て行ってしまったのだった。




