61話目
若杉由布の動きが固まる。とろんとしていた目が、一瞬大きく見開かれて……そして、ちょっと後ずさりをした。
キスをしていた当の本人たちも、驚いている。慌てて離れて、少し紅い頬をしながら、弁解した。
「あ、ちょっ、違うの由布、これはね……」
「由布……」
二人とも、よく知っている人物だった。
……薄々、そんな気はしていたのだ。ただ、それはやはり、有りえない、と。倫理感が、どうしてもその事実を認めなかった。
けれどまあ、実際そういうことだったのだろう。
「……ね、ちゃん……にいちゃん……?」
掠れた声で、若杉由布が呟いた。
「あのね、由布、えっと……」
姉の……裕美の視線はきょろきょろとせわしなく動いていて、頬も少し赤い。言い訳を探しているように見えた。
「裕美、あまり下手なこと言わない方がいい」
それを、恵登が止める。おお、となんだか暢気に思う。今とは全然違って、好青年のように見えた。
「……由布、これはな」
そっと、恵登が言葉を紡ぐ。由布は固まっていて、なにも考えられていないように見えた。それもそうだろう。流石に、何もわからない子どもではない。自分の姉と兄がキスなんかしてたら、普通ひっくりかえってしまうだろう。
……俺は、どうしてこんなにも落ち着いているのだろう。ふと、考えた。夢の中だから、だろうか。それとも……薄々、気付いていたからだろうか。はじめて見たとき、俺は思ったのだ。……ああ、やっぱり、と。
「……どうしたの?」
掠れた声で、由布が言った。視線が泳いでいて、もうすっかり目が覚めたように見えた。
恵登も、どこか言葉を探しているようだった。やがて、ゆっくりと口を開く。
「……大したことじゃ、ないよ」
誤魔化したのだと、はっきりわかった。いや、それ以外にどういえばいいのかもわからないけど。ただ、由布の顔は明らかに納得していなかった。
それを分かっているだろうに、恵登は笑って言った。
「それよりも、由布こそどうしたんだ? もう寝る時間だろう」
「……違うよ、聞きたいのはそこじゃなくて」
「ゆ、由布! そうよ、はやく寝ちゃいなさい」
便乗する形で、裕美も言う。由布は少し不安げな目つきで彼等を見たあと、ゆっくりと動き出した。だけど、疑っている。表情がはっきりとそれを物語っていた。
と、あとは扉を閉めるだけという時に、由布は突然立ち止まった。そして、後ろを振り返って二人をじっと見つめる。やがて、口を開いた。
「にいちゃんとねえちゃんは、つきあってるの?」




