60話目
気付くと、俺は眠りについていたらしい。また、夢の世界が広がっていた。ぼんやりと考えて、ああそういえば日記を書いていなかったと思いだす。なにやってんだ、また若杉由布に怒られるじゃないか。
と、周りの様子がゆっくりと移り変わる。辺りを見渡して、驚く。ここ、若杉由布の部屋だ。ベッドには、幼い若杉由布が寝ている……と、少し身じろぎしたかと思うと、突然若杉由布が飛び起きる。悪い夢でも見たのだろうか。怯えた表情だった。荒い息で肩を上下させたあと、ゆっくりとベッドから降りる。俺は、どこへ行くのだろうと観察することにした。幼い若杉由布は俺の横のドアを開け、てくてくと階段を下りていく。下に飲み物でもとりに向かうのか。足取りは少しふらふらしていて、大分寝ぼけているようだった。大丈夫かと、見てて心配になる。
階段を踏み外すこともなく下に辿り着いた若杉由布は、台所へと向かう。どうやら、本当に水を飲みに来たらしかった。
と、台所の電気が付いている。誰か、いるのか? 暗闇の中漏れる光は、なんだか怪しげな雰囲気だった。それを気にせず、若杉由布は先に進む。どくり、と心臓が波打つ。嫌な予感がする。なんでなのかはわからない。ただ、行ってはいけない気がした。どうせ、止める事はできないのだけれど。
若杉由布がドアの前に立つ。光が漏れている。寝ぼけ眼で、若杉由布は、ドアを、開けた。
―――――キスを、していた。




