6話目
話の進みが遅いです
二重人格。
ある一つの可能性だった。一つの体を、二つの人格が共有している。そして、お互いがお互いとして過ごしていた間の記憶は、ない。
「そんな……まさか、な」
だが、その思考が頭から離れなかった。そんな筈はないと思いながらも、自分が自殺をして―――死んで、そしてこの体のもう一つの人格になったのではないか。そんな考えが、存在するのだ。
どうしてコイツだったのか。それは、分らない。だが、同じ自殺を企んでいたからだろうか。
あり得ない、と否定しつつも頭の中ではずるずるとその考えが渦を巻く。もし、そうだったなら―――記憶の共有ができないのなら―――というか、どうやってこの事情を相手……自分のもう一つの人格に、伝えれば、いい?
「あ……」
日記が目に入った。元の人格の奴は、大体毎日この日記に書いていた。てことは、確認する、筈だ。前日までの記録を。
ゴクリ、唾を飲み込み、引出の中からペンを手に取った。
『こんにちは。初めまして。
俺は、目が覚めたら突然知らない部屋に居ました。そして、自分が知らないからだになっていました。恐らく、あなたの体です。
これは、俺の予想ですが――――俺達は、二重人格というものになってしまったのではないでしょうか。
俺が、後から移ってきた人格で、あなたは元の人格。
そういう、状況になってしまったのではないでしょうか。
勿論、全て俺の予想です。けれど、昨日あなたの母だと思われる人と会いました。横の扉を開けて。
もし、俺の仮説が正しいとするならば――――返事を、下さい。日記を書いてくれるだけでいいです。そしたら、俺はあなたのもう一つの人格になったのだと思います。どうか、お願いします』
……変な文章になってしまった。けど、それも仕方ない。相当動揺しているのだから。
あ。でも。もう一つの人格には、どうやって入れ替わればいいんだ?
……昨日は、寝て覚めたら違う人格だった……? ぽい、よな。
よし、寝よう。
そうして俺は、またベッドに潜り込んで眠ろうとした。さっきまで寝ていたせいか、なかなか眠気が来ず俺は色々な事を考えた。もしこの仮説があってたらー、とか。自分自身の存在する必要とか。
本当に、部屋の主には申し訳ない。
俺はきっと、生きている限り人に迷惑をかけ続ける事しかできないのだ。
「……ごめんな、さい」
小さく呟くと、一粒の涙が零れた。こんなんだから、女々しいと言われるのだ。
そして俺は、すやすやと寝息を立て始めた。