57話目
しゃべらない
夢だ。こうなってくるともう判断ははやいもので、あっという間に俺はそう判断を下すことができた。いつものように、仲のいい兄弟が目の前にいる。ああまったくもって、なんでこんな夢を見なくちゃならないのだろうか。
と、壊れたテレビのように映像が揺れる。そして、また違うシーンに移り変わった。どうせ、またあの兄弟の姿が写ってるんだろ。と、思っていたが……生憎、俺の予想は外れた。
若杉由布が写っていることは相変わらず変わらない。ただ、そこに裕美と恵登はいなかった。
そこは、どこかの道路のようだった。見覚えのない所だ、当然の話かもしれないが。辺りは夕闇が覆い始めたころで、なにやら嫌な気配が漂っていた。空気は少し湿っていて、今にも雨が降り出しそうだった。そんな中、小さい若杉由布は歩いている。傘は持っていないようだった。
なんでこんなところを、一人で歩いてるんだ? いくら家庭が揉めてたとしても、流石に一人でであるかせたりはしないだろう。じゃあ、勝手に出て来たのか。……有りえそうな話だ。
にしても、本当に大丈夫なのだろうか。若杉由布は平然とした様子で歩いているが、刻一刻と辺りは暗くなっていく。若杉由布は厚着だし、きっと今は冬なのだろう。俺といえば、寒さを全く感じない。どうやら本当に「みているだけ」みたいだ。
若杉由布に、目的があるようには見えなかった。ふらふらと、途中で曲がったり、ビルとビルの間の細い道を通ったり。街を探検しているみたいだ。
と、若杉由布が突然立ち止まる。いったいなんだとあたりを見渡すが、これといったものはない。ビルが立ち並んでいる、どこにでもあるような場所だ。若杉由布は立ち止まってなにをするでもなく、ただ空を見上げていた。
なにが見えるのかと続けて俺も空を見上げるが、普通の空が、広がっているだけだった。
ビルに囲まれた、狭い空で。排気ガスに汚れた都会の空。大して綺麗でもない空なのに、若杉由布は。それがまるで、世界で一番きれいなものなのだというように。空を、見ていた。




