5話目
まだ続く。
目が、覚めた。
ぼんやりと身を起こし、見覚えの無い部屋の内装に驚く。そしてしばらく固まっていると、昨日の記憶が戻ってきた。
「うう……やっぱ、ゆめじゃなかったのか」
ここはどこなのか。それは相変わらず分からないままだ。
ぼんやりと立ち上がる。頭痛はもうほぼ無かった。
部屋をぐるりと見渡した。
「やっぱ何も変わってな―――――――え?」
ひとつ、さっきと違う点を見つける。
カレンダー。昨日まで、3月を示していたカレンダー。それが4月に変わっていた。
注意深く近づく。埃はやはりない。ならば、あの部屋の主――――いや、この顔の人物の母であろう人物が、捲ったのだろうか。
そこまで近づかれても気付かなかったとは、俺は随分熟睡していたらしい。
「それに、昨日が31日だったとしても……起きた時は昼だったわけだし……一日中、寝てたのか?」
カーテンを開いても、昨日と似たような風景。つまり、昼だ。
「俺、どんだけ寝てたんだよ……」
茫然と呟く。そんなに熟睡したのは、久々の事だった。
「……取りあえず、また探検するか」
分からない事が多すぎるのだ。知らないことも。
部屋を出ようとして、うと気付く。
「あれ……?」
箪笥に何か、違和感を感じる。注意してみると、何やら服が適当に出されていた。誰かが出して、出しっぱなしにして片づけなかった時みたいに。
やはり、あの母親(らしき人物)が部屋に入ったのか。けれど、何だか部屋が汚いのは気になったので片づけることにする。
服を一枚一枚元に戻す。と、日記がまた目に入った。パラパラとめくりながら小さく呟く。
「これ、一体何だったんだ―――……って、え?」
日記に、新しいことが書かれている。
『どういうことだ? どういうことなんだ?
俺が死ぬのに失敗したのは分かった。いつかもう一度、挑戦する。また時期を見計らって。
でも、母さんがおかしなことを言った。
俺はついさっき、目を覚ましたばかりなのに、さっきどうして部屋に入って来たのか―――……と。
よく見ると、カーテンが開いていたり、引出の中の物が動いていたりする。勿論、俺はやった記憶がない。
まるで、誰かに体を乗っ取られて、動かされたみたいだ。それとも、ドッペルゲンガーやダブルみたいなものか?
訳が分からない。
自分が本当に自分自身であるのか、また分からなくなった』
「……は、あ?」
――――誰なんだ、この日記を書いたのは。
これではまるで―――――自分の体の、意識を、コイツに奪われたみたいじゃないか。
あり得ない、そんなの。俺は、俺だ。ダブルでも、ドッペルゲンガ―でもない。じゃあ、この日記を書いたのは。俺が寝ている間に、目を覚ましたのは。体を奪ったのは。
誰だ。
一つの単語が、頭に浮かびあがった。
「にじゅう、じんかく……?」