46話目
『とりあえずの間は行かなくていい』
学校へ行かなくてもいいのか、という俺の問に対しても、若杉由布はそっけなかった。一体どうして学校へ行かなければならなかったのか、その説明すらされない。
「ったく、なんなんだよ……」
俺はため息をついた。秘密主義にも程があるんじゃないだろうか。若杉由布に振り回されてばかりだ。せめて、理由くらい教えてほしい。
「あーあ……」
学校へ行かないとなると、俺の予定は潰える。つまり、暇だ。ベッドに寝転がって、伸びをする。そのままごろごろと転げまわる。
若杉由美って、なんなんだよ。家族関係どうなってんだよ。そもそも、俺って元の体に戻れるのか? てか、今この状況って二重人格でいいんだよな。若杉由布はこの状況をどう思ってるんだ? 疑問がぐるぐると頭を回る。それに合わせて俺も回る。
「あー……俺、何してんだろ……」
本当に、馬鹿みたいだ。何をすればいいのか分からないし、何を考えればいいのかも。頭がごちゃごちゃしていて、まともな思考ができない。あーあ、なんでこんな状況になったんだっけ。そもそもなんで俺はこんな、知らない人間の体に居候しているんだろう。そして、今更人間関係のことで悩んでいるんだろう。
――――……そういうのを、終わらせたくて選んだはずなのに。
意味がないまま、ただただ回った。あー……なにも、やる気がしない。考えるのもめんどくさい。
頭が痛くなって来た。
「はあ……」
ぴたり、と動きを止める。そしてようやく身を起こした。
「……描くか」
頭の中を整理するには、それが一番最適なように思えた。ベッドの下から、ノートを取り出す。ペンを用意し、ノートを開いた。新しいページに、しゃっしゃっと絵を描いていく。頭の中のイメージが、紙の上で再現される。それが、たまらない快感だ。
――――安心する。やっぱり俺には、これしかないんだなと思えた。
もし、絵を描くことができなくなったら、俺は死んでしまうんじゃないだろうか。ありと、あらゆる意味で。
ぴたり、と鉛筆を止めた。無性に不安に襲われたからだ。
俺、これからどうなるんだろう。どうすれば、いいんだろう。
もしかして――――ずっと、このままなのだとしたら。このまま何十年と未来のある体に居候したままなのだとしたら。
ぞくり、と鳥肌がたつ。それは、なんて呪いなんだろう。
何十年も居候をしなければならないという恐怖。若杉由布にかける迷惑と、それになりより――――
あと何十年も、生きなければならないという恐怖。
ぞくり、と身を震わせた。終わらせたいと思って選んだはずなのに、寧ろ長くなっている。これは、おかしいのではないか。理不尽じゃないか。
「……あー……」
なんだよそれ。俺、これからどうすればいいっていうんだよ。
未来ある若者の未来を半分貰って、そんで生きてしまっているのだ。それって、なんて迷惑なんだろうか。
目を背けていた現実が、一気に目の前に来てしまった気がする。謝らなければ、と思った。若杉由布、に。
ペンを、手に取った。




