39話目
逃走。
突然乱入してきた女に、俺は目を見張った。誰だ、この人。
「由布! アンタなんで学校来てんのよ!?」
「……若杉、コイツ知り合い?」
武谷が少々呆れたような声を出した。俺はどうこたえるべきか、反応に迷う。
下の名前で呼んできた、ということは、おそらく若杉由布の知り合いなのだろう。けれど勿論、俺に見覚えはない。
……にしても、なんだこの女。突然会話に乱入するのは、あまり行儀が良くないと思う。
「質問に答えてよ! 由布!」
「……ぁ……ぇ……」
質問に応えるべきだ、とは思った。けれど、どうしても声は出ない。女と話すのなんて無理! 絶対無理! という気持ちもあったし――――なにより、この若杉由布の口が、会話を拒んでいるように。そう、思えた。
……一体なんで? 確かに非常識だが、なかなかの美人なのに。シュシュで結ばれたポニーテール。黒髪。吊りあがった目。……いや、胸はないけど。美人である。なんか、女王サマとか呼ばれそうなほど。
「なんだか知らないけど、若杉怖がってるじゃん。落ち着いて話せよ」
「なによ! こっちの問題なんだから口出さないで! それに、アンタ誰?」
「非常識なヤツに名乗る名前なんてないね」
「ッ……なによ!」
「あ……え、と……その」
「由布! なんでこんなヤなヤツとつるんでるの!」
「……初対面でヤなヤツとか、ほんとにアンタヤなヤツだな」
「さっきからなんでいちいちケチつけてくるわけ?」
「別にケチはつけてないだろ。アンタがただうるさいから……」
「あ、の!」
少し大きな声を上げる。
「ちょっと、落ち着いてくれませんか……」
勇気を出して大きな声を上げたはいいものの、俺の声は尻すぼみに小さくなっていった。二人に同時に睨まれたからである。
「由布! あたし、ただ聞いてるだけじゃない! なんで学校来たのかって!」
「……なにその言い草。まるで、学校来んなって言ってるみたいじゃん……。で、若杉コイツ誰なんだよ」
二人の質問に、答えられない。なんでって、勿論俺が若杉由布じゃないからだ。
大声をあげたせいか、教室の皆の視線が集まってくる。ひそひそと、話されてるみたいで……俺の頬が、熱を持つのが分かった。
「おい、若杉!?」
耐え切れなくなって、俺は立ち上がった。そのまま、教室の出口へと向かう。
「ちょっと、由布!?」
引き留める声が聞こえたが、構うものか。俺は廊下をダッシュで駆け抜けた。そのままトイレへと逃げ込む。
「……は、あ」
……やっぱり俺、人付き合いなんて無理かも。




