38話目
やっとヒロイン(?)登場
「な、……なんだよ」
一瞬慌てたものの、俺はすぐに普段通りに戻って言う。武谷は相変わらずにやにやしたまま言った。
「いいやー、べっつにー! 随分おいしそうに食べるなって」
「……別に、わるかないだろ。おいしいんだから」
「ふぅん。そんなおいしい?」
「ああ、おいしい。言っとくけど、あげないからな」
「まっさか! いらないってそんなの!」
……よく分からない奴だ、武谷。ただ、表情が笑みを張り付けたようになっていて、なんだか気持ちが悪い。いいじゃないか、おいしいんだから。そんなに変か。……いや確かに、脳内実況を聞かれてたら恥ずかしいけれども。口に出してないし。誰にも迷惑かけてないんだから、いいじゃないか……。
「そんなに、おいしいもんかねぇ……」
パンをかみちぎりながら、武谷は呟く。ふっと、どこか遠い所を見つめているように、俺には思えた。そして、食べ物のおいしさを知らないなんて、こいつは可哀そうだなと思ったので、俺は言ってやった。
「おいしいよ。なんたって、久々に人と食べる食事だからな」
「……ほぼお前だけで食べてただろ」
「……っ! それでも! おいしかったの!」
「ああ、そう……」
武谷、最初思ってたイメージと大分違う。テンションが落ち着いてきたのか、すげえ嫌なヤツに思える。友達、最初から間違えたかも。ごめん若杉由布……。でも多分悪い奴やないんやで……。
「でもまぁ、元気そうでなにより」
「……?」
「いや、だってお前はじめて笑ったし」
ああ、と俺は合点がいく。武谷、俺のことを心配してくれてたのか。
「大丈夫、俺飯食ってるときは笑ってる」
「それはそれできもちわるいな……」
「ひどくね!?」
ああでも、ほんとに誰かと話すのは久々で、うれしい。口がちゃんと動くことを確認できた。それだけで、十分だ。
「……お前、」
「ちょおっっっと待った!」
武谷が何か言いかけたところで、見知らぬ女が俺達に声を掛けた。




