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37話目

どうしてもやりたかった。無理だ。文章力が足りてない……

「武谷、豊成……」


 俺はその名前を噛み締めるように一度呟いて、頭に記録する。ちゃんと、日記にも書かないとな。


「覚えてくれると助かる。ああ、お前は名乗らなくてもいいぞ! 若杉由布だって、ちゃんとわかってるからな!」

「あ、あ……うん」

「有名だからな! 不登校って! 俺お前が来ない日を数えようかとも思ってたんだけど、残念ながら毎日だったからめんどくさくて……。あ、でも几帳面なヤツはやってた。まあその記録は今日で破られた訳なんだが……残念じゃあないのか?」

「いや、全然」


 なんだそれ。前言撤回。コイツいい奴じゃなさそうだ。

 変なヤツに関わってしまった、と思う。残念ってなんだよ。自分の不登校記録をつけられて喜ぶ奴がいるとでも?

 にしても、若杉由布はやっぱり全く学校に行ってなかったらしい。俺は色々考えたが、俺を向かわせたということは、少しは行く気があるということなのかもしれない。それならば、俺はちゃんと、若杉由布を演じ切るべきだ。そう判断する。

 紅鮭のおにぎりとサラダと、そしてゼリー。すべてコンビニで調達した飯を開く。

 ……あ。男がゼリー食べるとか、変かな。


「あ、コンビニで買ったのかー。美味いよな、そのゼリー」


 武谷は気にする様子もない。そういう彼の昼食も、パンだった。コンビニで調達したものと思われる。だって、袋が俺と同じだ。

 紅鮭のおにぎりはなかなかに美味い。ああ、このコンビニは結構いいコンビニなのかも。コンビニに言い悪いがあるのかどうかは知らないが。とにかく、塩っけの効いた紅鮭が、ほんのり甘い米とよくあっている。サラダはサラダで、しゃきしゃきとした野菜はいい食感を醸し出しているし、ドレッシングも、珍しく俺の嫌いなにんにくは入っていないものだった。野菜に絡めると、特有の苦みが消えて、より食べやすくなる。でも俺はやっぱり、そのまんまも好きだな……。

 そして、最後に……。俺はごくりと唾を飲み込んで、お目当てのものを袋から出した。


 そう、ゼリー。


 散々迷って買った、ゼリーだ。

 桃やさくらんぼが小さく中に入っているのが見えた。

 俺はおそるおそる、ゼリーの蓋を剥がす。と、そこで溢れ出た汁が指に掛かって、俺は少し慌てる。ちょっと迷ったあと、ペロリと舐めた。甘い。なかなかに期待できそうだ。

 ついてきた透明のスプーンを、またまた透明なゼリーへと差し込む。そしてそのまま一口分のゼリーを取り出した。見つめる。光がキラキラとゼリーに反射して、宝石のようだ。ごくりと息を飲みこんで、口に入れた。


 ――――――……ああ……。


 この瞬間のために、自分は生きているのだと思う。

 口の中に広まる甘味と、そしてわずかな酸味。下の上で一瞬で溶けてなくなる、その儚さ……。

 たまらない。


 二口、三口と食べていくうちに、あっという間にゼリーはなくなった。ああ、おいしかった……。また食べたい、そう考えたところで俺は視線に気付いた。


 武谷がにやにやしながら、こちらを見ていた。

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