28話目
『ごめんな、若杉由布。でもさ、言わせてもらうよ。
痛いだろ、傷。ならさ、ちゃんとそのことを父親に言おうぜ。……言わないと、伝わらないことだってあるんだし。俺は、お前を心配してるよ。……頑張って、逃げてみようぜ』
『お前の言ってること、訳分かんねえな。俺は何も行動を起こさないよ。変わりたくないからな』
若杉由布の意見は、ずっと同じだった。変えたくないと、迷惑をかけたくないと。ああ、優しいのだと思った。でも、自分勝手な優しさだ。もっと自分のことを思っていいのに。……じゃないと、俺が心配になる。
変わりたくない。その気持ちは、わかる。変わりたい人間なんて、そうそういない。……と思う。
けどな、俺は思う。
人は変わるんだよ。どっちの方向であれ。ずっと一緒のところに立ち止まる事は、無理なんだよ。
後ろに下がるのかもしれない。先に進めるのかもしれない。どっちにしたって、変わっていくのだ。ずっとずっと同じままなんて、そんなのは……不可能なのだ。
なんて、長ったらしく語ってしまった。単刀直入に言えば、こんな生活を続けていたってどうにもならないということなのだ。……けどそれはきっと、若杉由布自身も分かっているのだろう。分かっていて、それでこういう行動をしているのだ。俺からはきっと、何も言えないし、何も言っちゃいけない。でも、力になりたいなんて思うのは、俺のエゴだろうか。
……なんで俺は、コイツの体に宿ることになったのだろう。傷を押さえながら、そんなことを考えた。もし、理由があるのならば。そしたら、分かるかもしれない。ずっと知りたかった生きる意味だとか、そんなことが。俺は結構無神論者だったのだけど、なんかもし神様が居るのなら、聞いてみたい。どうして俺がコイツの体に宿ることになったのか。……まあ、考えても仕方ない事だな。
それよりも、もっと状況が好転するように、考えないと。
…………。
……。
……あれ?
もしかして、詰んでね?
よく考えると、それも当然だ。相手は大人。俺達は子供。子どもにできることなんて、たかがしれている。できることなんて、ほぼ、ない。
……じゃあ俺、どうすればいいんだ?
答えは出ない。どうしようもない、という事実だけが俺の心にずしんと重く覆いかぶさる。
なんだ、これじゃ、若杉由布の方がよっぽど大人じゃないか。
ぐ、と拳を握りしめる。……本当に、なにもできないのか? 手のひらに爪が食い込むくらい、手を握りしめたけれど。現実は何も変わってはくれなかった。




