120話目
「さて、と……」
俺の目標の一つは、果たされなかったこととなる。居場所がわからないんじゃ、どうしようもないだろう。帰ってくるのを待つわけにもいかないし。……いつ帰ってくるかもわからないんだから。
なら、目標は自然と、もう一つの方に絞られることとなる。
俺はゆっくりと視線をずらし、山の方を見た。ここからじゃ、よく見えない。あの子と俺の出会った場所は。……出会う予定の場所は。
ほんとうに会えるのか、という不安は今もある。今だって、両親とは会えなかった訳だし。約束を果たせない、ということが怖いのか……約束を忘れられているのかもしれないのが、怖いのか。会えれば、すべて解決すると……信じているんだけど。そんなのは希望論でしかなさそうだし。
でも、とりあえず、行こう。それしかもう、目的は残っていない。
俺はゆっくりと歩き出した。自分の選択が、間違っていないことを祈りながら。
数十分ほど歩くと、目的地にはたどり着いた。遠くにさっきまでの家が見える。
だが、予想通りといったところか、そこに少女の姿はなかった。
「……ま、そうだよな」
俺はそっと呟く。元からそんなに期待はして……いなかった。
風が吹いている。俺のもともとの姿よりずっと短い髪が、少し揺れた。ここは風通しがいいのだ。昔と変わらない風が、懐かしかった。
家が見える。俺が昔住んでいた家。懐かしい。けど、そこに母と父はいない。今初めて、それを悲しいと思った。……会いたかったんだ、俺は。子供だとわかってもらえないかもしれない。それでもいいのだ。それでもいいから、会いたかった。
自分の感情を理解して、俺はそっと、笑みを零した。多分、相当歪な顔をしているのだろう。泣いてしまいそうだった。親に会えなくて泣くなんて、迷子の子供かよ。……いや、人生という迷路の中の迷子といえば、そうかもしれないけど。
そっと、服の袖で目を拭った。
その時だった。
「……ねえ」
聞き覚えのある、声がした。
「なんで泣いてんの」
俺はゆっくりと、声の主を見た。ああやっぱり、そんな思いがこみ上げてきて、顔をくしゃりと歪めた。
君の名前を、ようやく思い出した。
「…………ナツ、キ」




