115話目
……冷静になって考えてみると、なんて馬鹿なことをしたんだろうという気持ちだ。あそこで、無理に言う必要はなかっただろうに。ただ、言葉が口を突いて出てしまったのだ。衝動的に。結果、若杉由布の体を傷つけてしまった。かっとなった熱はもうすっかり冷めていた。とぼとぼ歩きつつ、反省する。ごめん、若杉由布。
頬はまだずきずきと痛む。なんだか泣きたい気持ちにさえなってきた。家族の仲を戻したいと、少し思っていた。なのに、溝を広げてどうするんだ。
落ち込んでる場合じゃないと、わかっている。これからちょっとした旅行なんだから。確認しなきゃいけないことが山ほどあるし、やらなきゃいけないことだってたくさんある。けれど、楽しいことだってたくさんあるはずだ。……そう思うのに。俺の心は深く沈んだままだった。
沈んだ表情のまま、電車に乗り込む。ちゃんと、道順は調べた。切符も財布も持っている。がたんごとんと電車に揺られているうちに、ようやく気持ちが落ち着いてくるのがわかった。
「……あれ、ぜってえ俺は悪くねえよな……」
思わずつぶやいてしまった。しょうがないだろう。本心なのだから。
悪いのは父親で、絶対、若杉由布は、俺は、悪くない。……俺はただちょっと、生意気な口をきいただけだ。それだけで殴られちゃ、堪らないだろう。
ようやく肩の力を抜き、背凭れに凭れる。これから……えっと、まず、★駅で降りて。それから、新幹線に乗って……ああ、少し眠い。大丈夫、まだ降りる駅までは間がある。だから……。
俺は眠りについた。




