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110話目

 今日は、夢を見なかった。ぱちりと目が覚める。頭痛もない。これ以上ないってほど、気持ちのいい目覚めだった。

 立ち上がって、カーテンを開ける。外を見ると、鳩がちゅんちゅん鳴いていた。どうやら珍しく、俺が起きたのは朝らしい。日の光がまぶしくて、そっと目を細める。しばらくそうしていた。日記帳を見るのが、怖かったからだった。

 記憶ははっきりしている。若杉由布にどんな反応をされるのか、それが、怖い。でも、拒否されたら……あきらめようと、そう思っていた。自分は居候なのだから。

 手が少し震えている。はあ、と息を吸って、吐いた。心臓のどきどきをなんとか抑えて、日記帳に手を伸ばす。

 手が少し滑った。汗をかいているのだと、わかった。


『どこにあるんだよ。それから、なんで?』


 たった一文だった。汗がぶわっと出てくる。緊張から解放されたためだった。


「はあ……」


 どうしようもなく、安心していた。すぐに拒否されなかったことに。よかった、よかった。

 自分がとんだ臆病者であるという自覚はあったけど、許してほしい。だって、本当に怖かったんだ、緊張していたんだ。そっと息を整える。返事を書き始めた。


『場所は、○○県××市。ここが、どこなのかはわからないから……近いかどうか、よく、わかんないんだけど。いける距離でしょうか。

 行きたい理由は……』


「理由、は」


 少し目をつむる。けれど、答えは一つだった。若杉由布に、隠し事はしたくない。


『理由は、約束があるからです。友達……と、いっていいたのかわからないけど。この時期に、少し約束をしていて……。果たせなくなったと、そう伝えたいだけなんです』

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