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11話目

方向は迷子

 また目が覚めた。自分の体を見下ろし、ため息をつく。まだ、若杉由布の体のままだった。変わらない。変わっていない。

 ゆっくりと身を起こす。毛布が体から落ちた。

 外から日の光が差し込んでいるのが分かる。どうやらもう昼らしい。

 ぼんやりとしていた頭が、日の光で一気に覚醒する。ぐえ、また朝がきた……。朝って、なんでこうも憂鬱なんだろうか。


「はあ……」


 もう一度、ため息一つ。

 重い体をお越し、箪笥へと向かう。すっかり慣れきってしまった行為だ。若杉由布は、日記になんて書いたのか。また怒られるとするならば、気分が悪い。

 あまり緊張せずに日記を開く。ペラりとページを捲り、目的のページに辿り着いた。そこには、こう書かれていた。


『多分、父さん。アイツとは話すな。全部無視しろ。

 言葉が通じねえんだ、同じ言語を話してるとは思えない。いいか、まともに取り合うなよ。

 兄さんとも父さんとも、話すな。


 あと俺が学校に行かねえのはお前には関係ねえよ。

 今日は四月×日だ。一応分かりやすくなるように、カレンダーでの一日が終わったら赤ペンで×マークつけるようにしておくから。いいか、お前も寝る前やっとけよ。


 学校へ、俺は行かない。

 からお前も余計なことすんなよ、勝手に学校へ行こうとするとか、勘弁しろよ』


 相変わらず、冷たい口調だ。

 いや、もしかしたら内弁慶なのかもしれないけど。まあ、だとしたら俺は内として認められていることになるのだろうか。それは……少し、嬉しい気がする。


「学校、なあ……」


 なんで行くのをやめたのだろうか。やっぱり、イジメ? とか、そんなのがあるからなんだろうか。

 カレンダーを見ると、なるほど。ちゃんと赤ペンで×マークが打ってあった。確かに春休みはもう終わってしまっている。始業式には行ったのだろうか。クラス替えでいじめっ子たちと違うクラスになれたなら、少しは楽な筈だけど。

 でも、これはきっと若杉由布の話なのだ。若杉由布の、戦いなのだ。

 俺が口を出すべきことではない、そう判断した。

 いつか、学校に行けるといい、そう思った。


 あれ、でも。高校、二年……って前、言ってたよな。

 てことは、もう三年か? それならば、受験は……どう、するのだろう。大学へ行かないで、就職かもしれないが。大丈夫なのだろうか。こっちが心配になってくる。

 そもそも、こんな変な体質。聞いたことも無い。二重人格? 後天性? もしかして、障害の一種なのだとしたら、どうだ。医者に見せた方がいいのではないだろうか。それに、仕事の邪魔にもなってしまうのだろう。

 思った以上に、この二重生活は大変なのだ。


 そのことに気付きぞくりと鳥肌がたった。恐らく俺は、若杉由布の足枷になってしまっている。迷惑をかけている。

 どうにかしなければ、と考えてすぐにわかる。


 無理だ。


 だって、この体を共有してしまっているのだ。自分だけ消えるなんて難しい芸当、方法が分からない。

 俺は、死んでからも尚誰かに迷惑をかける事しかできないのだ。



 消えたい、死にたいと。もう一度強く願った。

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