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109話目

 下からことりと物音がして、はっとする。どうやら今、下に誰かいるらしい。そうだ、母親がいるんだった。そっとドアノブに手を掛け、開く。いつの瞬間も、扉を開けるのには勇気がいる。

 下には灯りがついていた。どきん、と少し心臓が脈打つ。

 直接―――聞いてみようか。あなたは俺の本当のお母さんですか、と。

 いやいや、と首を振って、そんな馬鹿な考えを振り払う。できる訳ないだろ、そんなこと。第一、はっきりしたいという理由もないんだ。知識欲を満たすために変な行動をするのは、避けたい。若杉由宇に変な気苦労を掛けるのはやめたい。……もう手遅れかもしれないけど。俺ってば、本当に……役立たずなんだから。迷惑を、ずっと、かけ続けている。

 下から母親の鼻歌が聞こえた。そういえば、とぼんやりと記憶が蘇った。母親が歌っていた、鼻歌のメロディが、突然耳に流れてきたのだ。

 俺にも、当然母親がいる。今、いくつだっけ。全然会えてなかったから。そうしてる内に自殺なんかしちゃって、ほんとうに、ごめん。そう考えて、母親の中で、俺は死んだ存在になっているんだという事実に、唐突に気づいた。

 だって、そうだろう。自殺、したんだ。それはおそらく成功している。なぜか精神だけが、別の体に入ってしまったみたいだけど。きっと葬式だってもう済んでいるんだろう。俺は死んだという扱いになっているのだ。親より先に。何も返せないまま。

 いやだな、と思った。というよりは、すまない、かも。

 謝りたい。たぶん。会って、話がしたい。

 母親の鼻歌が下から聞こえてくる。呆然とただ立っている俺の心の中には、母に、それから、あの女の子に会いたいという気持ちが、確かに存在していた。


『それと……もしよければ。

 俺、里帰り、したいんだ』

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