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108話目

 自分のメンタルの弱さにあきれつつも、俺はなんとか立ち上がる。周りを見渡しても、いつもと変わりない風景が広がっているだけだ。

 ……この部屋は、ほんとうに、殺風景だ。あまりにも物がなくて、季節の流れというものが禄に感じられない。なんだかさみしいと、そう思う。

 俺は一つため息をつき、ペンを手に取る。日記を書こうと思ったのだった。けど、ペンを握ったまましばらく固まった。何を書こうか、あまり思いつかなかったからだった。


『心配してくれて、ありがとう。でも俺は、大丈夫、多分。

 それから……また、夢を見たんだ。あの、いろいろ、と。ごめんな。両親が言い争っていたところを見ました。

 あと、あの……もしかして、お母さんって、二人いる?』


「……」


 相変わらず、自分の文才の無さに呆れる。いくらなんでも、直接的すぎるだろ……。お母さんが二人いるかなんて聞いて、どうするんだよ……。

 というか、若杉由布のことを、知ってどうするのか。

 胸のうちに暗澹たる気持ちが込み上げてくる。

 余計なおせっかいを焼いているだけだ。それは……分かっている。分かっている、つもりだ。知りたいと思っているのは、自分勝手な感情じゃないのか。勝手に暴走して、若杉由布の気持ちなんか、禄に考えてない。……本当に、どうしようもない人間だ。


「はあ……」


 ひとつため息をついて、なんとかその感情を振り払う。理由を考えるのは、やめとこう。探るのは、暇つぶし。そういうことでいいじゃないか。最低な考えだと思いつつ、そういうことにするしかなかった。

 ……さて。

 なにを、しようか。

 今日も今日とてやることがない。もう寝てしまおうかとも思ったが、生憎眠気はいっさいやってこなかった。俺は、……どうすればいいのか。

 しばらくぼーっとしていた。やることが見つからなかった。


「…………やく、そく」


 彼女のことを思い出す。約束を果たさなくちゃ、という気持ちは、ちゃんと存在する。けれど、それができるかどうかは……話が、別だ。

 この街の場所も、俺は知らない。けれどきっと、遠いのだろう。少なくとも、家から出ることさえほとんどしない引きこもりに行けるような距離には、ないと思う。

 だから、無理なのだ。


 胸が少し痛い。行きたい、と期待していた自分に対して苛立ちを覚える。彼女だって、きっと約束を忘れてしまっている。俺が一方的に悩んでいるだけなのだ。そのことを悲しいと思う自分が、やはり憎たらしいほど嫌いなのだった。

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