105話目
覚悟を持って扉を覗いた。暖かそうな灯りが覗いているくせに、中は冷え切っていた。俺の心が伽藍堂のせいかも、とぼんやり思った。
中には二人の男女がいた。母と父。机を挟み、向かい合って座っている。どうやら、食事中のようだった。二人とも一言もしゃべらない。ただ淡々とスープを口に運び、ご飯を咀嚼した。温かそうな光景なのに、まったくおいしそうに見えなかった。
やがて食事が終わる。片づけをしたあと、再び向かい合った。なにかを考えるような目つきをする二人。母がようやく口を開いた。
「……これで、良かったの……?」
父親の方は無言のまま腕を組み、俯いていた。
「恵登……出て行っちゃったわ……っ。私、あなたがどうせ帰ってくるっていうから連れ帰さなかったのに……。全然、帰ってこないじゃない!」
「……」
「なんとか、言いなさいよ……っ。引き離すだけで、良かったんじゃないの? おかしいのは裕美でしょ? 恵登は家に置いておいても」
「両方だ」
「……は」
「おかしいのは両方だ。恵登も裕美も、な」
「なっ……」
劈くような声がして、俺は耳を押さえた。母親が悲鳴を上げるように、父を罵ったのだった。口汚く、相手の尊厳を貶すように、何度も何度も母は怒鳴った。半分以上は意味がわからなかったし、聞き取れなかった。けど、なんだかとんでもないことを母が口にしている、ということはわかった。頭がずきずきと痛み、若杉由布は場にしゃがみこんだ。
頭痛がする。痛い、痛い。吐き気まで感じる。喉の奥ですっぱい味がした。気分が悪い。声のせいでもあり、内容のせいでもあった。
必死で耳を塞いで、それでも目は話さなかった。母が一方的に父を怒鳴る様子から。見届けなければと思った。だって、だってこれは。
僕のせいだもの。




