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【ハンバーガー店】×【ホーム】

下駄箱に届くものは、ラブレターだけだと思ってました




 朝、下駄箱を開けたら手紙が入っていた。本来ならばドキドキするはずだ。生まれてこのかた、ラブレターなんて一度ももらったことはないが下駄箱にはいっている手紙といえば果たし状かラブレターと相場は決まっている。

 和紙に包められた紙に墨で「果たし状」と書かれていなければ、下駄箱に入っている手紙はラブレターなんじゃないかと気分が高揚したはずだった。

 手紙の正面に書いてある「神城真央さんへ」という達筆な文字に、その子はどんな容姿で、部活で何年何組なんだろうと妄想を働かせたはずだった。差出人はひっくり返さなくても分かっている。予想通り「私立皇帝王学園学園長より」と書かれていて、マオは浮かれるどころか絶望した。

 1時間目の授業を受けながら中身を確認する。中には封書が1枚入っていた。双子たちが言っていたように「ホーム・アンド・アウェイゲームへのお誘い」と書いてある。

 双子たち曰く、招待状が送られてくるのは自分たちが【ホーム】側のときだけだという話だ。【アウェイ】のときは突然イベントは発生するらしい。

「日時は7月20日土曜日16時、場所は大手ハンバーガーチェーン店」

 書いてある文字を小さな声で呟きながら、窓の外を見た。運動場がある。これまで他クラスの体育の授業になんて興味がなかったが、授業に参加する双子の姿を見つけてまったくの他人ではなくなってしまったことを実感した。


 休み時間に、携帯チャットアプリ「糸でんわ」にメッセージを送った。

  マオ「下駄箱みたか?」既読4件

  カイ「みたみた! 届いてたね、学園長からのラブレター」既読4件

  セイ「いやいや不幸の手紙の間違いだろう」既読4件

  マオ「とりあえずどんなステージか見といたほうがよくないか?」既読4件

  セイ「それなんだけどさ」既読4件

  カイ「マオちゃん、見にいってきてくんない?」既読4件

  セイ「画像はここに貼っつけてくれていいからさー」既読4件

  マオ「なんでオレが行かなきゃなんねーんだよ」既読4件

  カイ「オレたち放課後は部活だから」既読4件

  アサミ「私も声楽の個人練習がある」既読4件

  モナカ「ぼく特進クラスだから宿題いっぱいある」既読4件

  セイ「マオちゃん、暇でしょ?」既読4件

 4人の所属クラスを思い出して、マオは溜息をつく。もしかして自分が選ばれたのはこの学校でいちばんの暇人だからってことはないよなぁと学園長に確かめたい気持ちになった。そうです。手帳に予定は真っ白です。所属の部活はおろか、アルバイトだってしていません。

  カイ「なんならゲームの日までバイトしちゃえば?」既読4件

 カイの提案には既読をつけて、返信はしなかった。


 特に戦う武器を考えるでも、作戦を考えるでもなく当日になった。

「まぁ、マオちゃんはさ。とりあえずオレたちが戦うところを見ていれば?」

「これまでも4人でやってきたし、ピンチになったら消火器でもぶっ放してくれれば」

「消火器だったら投げたほうが殺傷能力ありそうじゃない?」

「いや、すごいよ。消火器! ピンクの粉噴き始めたら周りなんて見えないし」

「ぼく制服汚れるの嫌だな」

「私も」

 マオたちは客席でハンバーガーを頬張りながら時間を待っていた。開始予定時刻まではあと20分。まだまだ時間はある。

「ステージ【ハンバーガー店】敵はなんだと思う?」

「今度こそ、店員さんじゃない?」

「納品のお兄さんって線も消えないね」

 カイたちは緊張感なく、ゲームが始まるのを楽しみにしているように見えた。

「お客さんって可能性もあるよね」

 客席を見渡してみる。土曜日の午後だ。ほとんどの席がお客さんで埋まっている。勉強をしている学生の姿や、ゲームをしている小学生の姿、子ども連れのお母さんたちはお話に夢中だ。

「まぁ、この客層なら敵じゃないんじゃない?」

「うん、マオちゃんでも勝てそう」

 確かにこの客層ならなんとかなりそうだと思った。

「そういえば、戦う相手ってどう分かるんだ?」

「まぁ、時間になれば強制的にゲーム参加者以外はログアウトだからね。残ってる人が敵ってことになる」

「時間にならなきゃ分からないってことか」

 そのとき店内に新しいお客さんが入ってきた。全員金髪の外国人だった。ラグビーやっていますというのを全身で表現するようにユニフォームを着て、ボールを持っている。筋肉隆々の身体は、モナカ4人ぶんはありそうだった。

「絶対あれだよ、今回の敵!」

「ステージ【ハンバーガー店】、敵はアメリカ人ってこと?」

「アメリカ人=ハンバーガーとコーラってイメージ安易すぎ!」

「つうかアレ、オレたちのボール効くの?」

「私のパンチも通用しないかも」

「モナちゃんのスタンガンは効くかな?」

「ぼくひとりじゃ絶対無理だからね!」

「つうか、真っ向から戦って勝てるの? あれ」

 ラグビー選手たちはのんきにカウンターでハンバーガーを注文していた。改めて見ると本当に身体が大きい。

「とりあえずマオちゃん調べて!」

「なにを」

「クマの倒し方!」



自己紹介でニックネームも紹介してくる奴ってなんなの?




「とりあえず、不意を突こう」

 提案したのはマオだった。

「おおー」

 4人は興味津津といった様子でマオの言葉を待っている。

「具体的には何すんの?」

「停電とかさせてみる?」

「そんな簡単にできんの?」

「あそこに電気ポットあんじゃん? あそこのコンセント接続面に水をかけると結構簡単に停電する」

「おおー」

 4人は感心したように声を揃えた。

「そんで暗がりに興じて動揺したアメリカ人をたこ殴りにすると!」

「マオちゃんゲスいねー」

「素手とかボールじゃ効かなそうだし、武器使う?」

「歌舞伎町ゲームだったら容赦なくビール瓶とか自転車だけどな」

「ビール瓶は血が出そうだから嫌だ」

「スプラッタはちょっとね、グロ耐性ないし」

 注文を終えたラグビー選手たちは、2つ隣りの席に座った。案外近い距離に緊張が走る。

「とりあえず、停電させるための水もらってくるわ」

 カイが立ち上がったとき、椅子が引き摺られる音でピンときた。

「これ、使うか」

 テーブルを撫でると、4人は賛同のためか頷いた。プロレスでもよく見る。身体の大きな相手にはパイプ椅子を投げるんだ。

「停電のときに10秒くらい目を閉じたら案外暗がりでも見えるから」

「それなに情報?」

「漫画」

 電気ポットのコンセント部分を何食わぬ顔で引き抜いてカイがもらってきた水をぶっかける。

 店内アナウンスでスマイル動画によく似た時報が16時くらいをお知らせした。

 突然の停電に店内が騒然とする。


 咄嗟のときに人は動くことが出来ない。声を荒げて叫ぶだけで、不動状態になっているラグビー選手がよく見えた。動かない敵を叩くのは簡単だ。最初に動いたのは双子だった。テーブルを手に両側から挟みこむようにラグビー選手を殴る。掛け声もなしに同じ動きを左右対称で行えるのは双子ならでは何だろうか。さすがだった。

 残る3人は頭からモナカとアサミと一緒に椅子を使って殴る。着席した状態の人を上から叩くのは、もぐら叩きみたいだと思った。人を殴る感覚なんて覚えたくなくて、マオは椅子の当たる瞬間に両手を離した。椅子はラグビー選手に直撃した。


 モノクロの世界が解けて非常灯が点くころには、ラグビー選手の姿は消えていた。


 マオたちはこっそりと店をあとにする。テーブルセットは静かに元通りに戻しておいた。


「ぼく、マオくんのニックネーム思いついたよ」

 駅へと向かう道中、モナカが突然言い出した。

 双子は「マオちゃん」と呼んでいたし、アサミやモナカは「マオくん」と呼びだしたことに気を留めたことはなかったがニックネームで呼び合うというのは名前で呼び合うよりも親しいような感覚はある。

「なに?」

「マオーサマ」


――ミッションコンプリート・ステージ【ハンバーガー店】×【ホーム】勝利

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