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9、少女の恋

確信してからの私の行動は早かった。


「晴明様。」


返事した晴明様はやや不思議そうな顔をしている。


私は顔を上げて、晴明様を真っ直ぐ見つめた。



「私、晴明様の妻になりたいです。」



9、少女の告白


私の真剣な言葉に対し、晴明様は微笑むだけだった。

「めったな事を口にされるな。言葉は生き物、一度放たれた言葉は力を持ってしまいますよ。」


「言霊、ですね。でしたら、私もっと言います。私は晴明様の…」


その先は、見えない何かに口が塞がれ言葉にできなかった。


「姫、人目もあります。とりあえずは中へ。」


晴明様が横に目配せし、「もうよい。」と小さく呟く。

すると、口を塞いでいた何かが無くなった。


先を行く晴明様のあとを私はゆっくりと追った。

部屋に通されると、すっと白湯が運ばれてきた。

盆に乗った湯のみは2つ。ゆっくりと私たちの前に置かれる。私には見えない、晴明様の式神だろう。


晴明様の式神。それらはずっと彼と一緒にいるのだろうか。そうだとすると、私の告白は晴明様以外にも聞かれていた事になる。そうでなくても、人通りは少ないとは言え、外であのような言葉を口走った行動に、冷静になると恥ずかしい。


顔を隠さない(今はちゃんと笠があるが。)、女のほうから気持ちを伝えるなどといった行動を父が知ったら私は一緒屋敷に閉じ込められてしまうだろう。


また、愛は文でやりとりされるもの。そのような常識も、私は気にしなかった。

はしたないと、思われてしまったかもしれない。


運ばれてきた白湯からそっと晴明様のお顔を見る。

彼は白湯をゆっくりと口にしていた。


「落ち着かれましたか?」


ゆっくり、頷いた。


「申し訳ございません。」


「大丈夫ですよ。先ほどの言葉は」


「お忘れにならないでください!私は本気です。顔は隠さないし、いきなりあのような………口走ってしまい、礼儀のなっていない娘と思われたかもしれませんが、」


「落ち着いて、お座りください。」


気を入れて、いつの間にか立ち上がってしまっていた。またもや、恥ずかしい。


すみません、と私は腰を落ち着ける。


「私の話をお聞きください。いきなり姫がなぜあのような事を口にされたのかは分かりませんが、戯れ言で言われていないことは分かりました。ただ、私は妻を持つ気はないのです。」


「それは、」


「誰であろうと。私は妻を持つ気はありません。姫とは数回お会いしただけですが、人柄は分かりました。あなたならば、よい方と添う事が出来ましょう。」





屋敷を見上げる。

勢いに任せ、気持ちを口にしてしまったためもうお会いする事ができない。


もう、彼にお会い出来ない。


自然と涙が流れた。


「市之女笠があって良かった。」


本来は顔を隠すための笠だか、今は涙も隠してくれる。


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