6、少女と呪詛
朝からそわそわしてしまっていた。
私がそわそわしても仕方ないのはわかっているが。
晴明様には家で大人しくしていろと釘を刺されてしまったし、だけど琴姫様の事は気になる。
やっぱり、行ってはいけないだろうか?
6、少女と呪詛
足手まとい。
それは分かっているけど、本当に私にできることは一つもないのかな?
そう思って庭の掃除を止めた。
やっぱり、行こう。
このままではもしも、晴明様はすごい陰陽師だし大丈夫だと思うけど、もしも何かあったとき、私は後悔してしまう。
そう決心を決めたとき。
「三の姫様。」
呼ばれて、振り返ると。
「二の姫様?」
私の幼なじみが立っていた。
ひどくやせ細って顔色も悪く、私の記憶の中の幼なじみと重ねるのに時間を要した。
私は髪を引かれる思いで、二の姫様の話し相手をした。
お久しぶりね、という単調なあいさつから、最近の出来事まで話したときだった。
「……そういえば、琴姫様のご結婚のお話がまとまったと聞いたのだけれど。」
意識せずに、大げさに肩を揺らしてしまった。
今、琴姫様の現状を易々と話してもいいものか、例え幼なじみと言えど。
「ええ、まとまったらしいのですけど私も詳しいことは知らぬのです。」
嘘は心苦しかったが、仕方ない。
心の中で、私は何度も謝った。
何となく、気まずい雰囲気が流れる。
私は話を変えるために口を開いた。
「二の姫様は、最近宮仕えを始められましたよね?顔色も悪く見受けましたし、宮仕えは大変にございますか?」
そうして、目の前の姫に視線をやると、ひどく悲しそうな顔をした。
「二の姫様?」
いかがなさいました?という私の問いは、彼女の返答に打ち消された。
「宮仕えは楽しゅうございましたが、辞すことにしました。」
「えっ?」
宮仕えに入ったのは、ついこの間のこと。
そう簡単に出入りできる場所ではないし、こんなに早く辞めるのは不自然だ。
「少し、体調を崩しまして。」
確かに、彼女はとても健康には見えない。
「出歩いていて、大丈夫なのですか?」
私が聞くと、彼女はゆっくり微笑んだ。
「ええ。最近、いろいろとありましたし、三の姫様と、琴姫様のお顔を拝見したら、少し楽になるような気がするのです。」
「実は、二の姫様。」
私は、これ以上琴姫の事を黙っていられないと判断し、口を開いた。
すると彼女はいきなり苦しみだした。
声にならない悲鳴を上げて、自分の喉を掻くように爪を立てる。
「二の姫様!?」
私は彼女に近寄ろうとしたら彼女に押しとばされた。
几帳に当たり、大きな音を立てる。
彼女は苦しそうにもがく。
私は体をおこしながら、部屋が段々禍々しい雰囲気に満ちていく事を肌で感じた。
その禍々しい雰囲気の中心にいるのは、二の姫様であった。
「く…くる、し!」
私はもう一度二の姫様に駆け寄り、彼女の手を止めようとした。
「二の姫様!」
二の姫様はまた、私を押しとばす。
体をもう一度起こした私は声を上げた。
「誰か!誰かいないの!?」
不思議なことに、声がしない。
視線を二の姫様に向けると、二の姫様は泣きながら自分の、喉に爪をたて、苦しんでいた。
「いゃあ!あな、たが!ほかの!私の!」
「二の、姫様…?」
泣きながら、彼女は苦しむ。
私は立ち上がり、ゆっくり彼女に近寄った。
何か分からないけど、彼女に近寄ろうとすることを身体が拒否している。彼女に近寄ったらそれだけ、体が言うことをきかなくなる。
けれど、二の姫様をこのままにしては置けない。
私は身体に鞭打って、彼女の傍らにたどり着いた。
そして腰を下ろすというよりも、倒れるという表現が近い。彼女のそばに寄り添った。
彼女に、何があったのかは知らない。
私が知らない宮仕えで何かしら彼女に変化を与えることが起きたのだろう。
それは私には計り知れないが。
私はゆっくり彼女の身体を包んだ。
そして、彼女の手を止めた。
女性の力とは思えない力で彼女は抗った。
「落ち着いてください!二の姫様!お願いです!」
彼女の爪が、私の首を引き裂いた。
痛みに小さく声をあげる。
すると、先程までの興奮が覚めたように、動きが鈍麻した。
「二の姫様?」
相変わらず、泣きながら苦しみに耐えるように息をされている。
だけど興奮は収まったようだ。
「二の姫様、ゆっくり息をなさってください。」
私わ腕の中の彼女の呼吸が少し安定したとき、自分の呼吸が安定していないことに気がついた。
そして、意識を手放した。
意識を無くす直前に、晴明様の声を聞いた気がするのは、気のせいだろうか。