21、少女の声
私が返信の和歌なんて書かなくても、私の結婚は簡単に決まってしまった。
私は結婚することになった、三日後に。
それなのに私は、いや私の体は目の前で深い眠りについている。
21、少女の声
昨日の夜定は来なかった。
それが寂しくて、寝付けずにいた。寝返りを何度も打って、少しうとうとしているときだった。
足音が聞こえて来たのだ。その足音は私の部屋に近付いて来た。
目が完全に覚めて、足音にただただ怯えた。
足音は私の部屋の前で止まった。
息を詰めて、やり過ごす。
『姫、起きてください。』
定の声だった。
大きく息を吐いて、体を起こす。
「定さん?今日はもう来ないかと思っていました。」
『晴明様が大変なのです、私と共に晴明様をお助けください。』
「どういうことですか?」
『詳しい話しは、道すがらでもよろしいでしょうか?とにかく、この戸をお開けください。』
晴明様に、何かあった。
私は急いで戸を開けた。
そして、すっと体の力が抜けるのを感じた。
意識が朦朧としているなか、いくつかの違和感が残る。
この声は本当に定だったのか。定は風のように現れて、一度も戸を開けてほしいと言ったことはなかった。
晴明様は、無事なのか。
そして、私は意識を手放した。
そよの大声で私は目を覚ました。
目が覚めて起き上がると、そよが私の体を抱き上げて人を呼んでいた。それを、私は天井から見ていた。
私は大丈夫だと伝えてもそよは気づかないし、私の体はぐったりとしている。
私は天井からその様子を見つめることしかできない。
何故こんなことになったのか、昨日戸を開けた後から記憶がない。
どうすればいいのか、私は混乱していた。
私が混乱したように、周囲も混乱してしまった。
一日目はただ目が覚めるのを待った。
そよと母上が一日付き添ってくれていた。
二日目は祈祷がなされた。
それでも私は目覚めなかった。
私は天井に固定されたまま自由に動くことができない。
しゃべっても、誰にも聞こえていない。
悲しむ両親を目にすると、胸が苦しくなった。
あの夜、私に声をかけてきたのは本当に定だったのだろうか?
定は私の今の状況に、関わっているのか。不安が私を支配した。
そして三日目。
変わらず祈祷がなされていたが、状況は変わらなかった。
ずっと眠っている私の様子を見て、周囲は諦めかけていた。
そんな時、私は定の声を聞いた。
定は一言だけ、『姫様』と呟いたのだ。
もしかしたら、人ではない定になら私の声が聞こえるかもしれない。
倒れた日も、私は定の声を聞いた。その後からこんなことになってしまった。
私はあの夜聞いたのは定の声でなかったのではないかと考えている。声は確かに定だった。だけど、妖の世界は予期できないことが起こる。
定のように優しい妖だけではなく、悪意を持つ妖もいるのだ。悪い妖に騙されたのかもしれない。
そう考えると、今ここで定に声をかけてもいいのか。
その前に、私の声は届くのか。
考えても分からなかった。
気付いたときには、大きな声で叫んでいた。




