2、聞こえた声
その声を聞いたのは二日前。
それから物の怪の声は聞こえなくなった。
琴姫様は日に日にお身体の調子は悪くなるばかりで、回復の兆しは見られない。
琴姫様は穏やかな方で、他者から恨みを買うような方ではない。
ご結婚は、父上様から決められた物であったとはいえ、相手の方も、琴姫様もその結婚を楽しみにされていた。
2、聞こえた声
全てを話終わると、安倍晴明様は考え込んだ。
その横顔をじっと見つめた。
世の中に、こんなに美しい人が存在するとは。
家の父は、お世辞にも見目麗しいとは言えないような人だし、兄はどちらかというとなよなよした感じが先立ってしまう残念な人だ。
私だって美しい分類かと言うと、そうではない。
父も兄も、私を可愛がってくれるし大事な家族ではあるのだが。
安倍晴明様は美男子という言葉がよく似合う人だ。
噂においては、都一の陰陽師ともっぱらの噂で、その容姿よりも持った力の強さが強調されていた。
これは、世の姫たちが彼を知ったら今度はその容姿が大きな噂となることは想像に難くない。
「呪詛、返しになりますか。」
ずっと黙ってた彼が唐突に言った。
「呪詛返し?」
私が繰り返すと、彼はゆっくり言った。
「かけられたら呪詛を、かけた本人に返すんです。そうすると、今度はその呪詛をかけた本人が琴姫様のように体を蝕まれる事になる。」
私の微妙な顔は笠によって隠されたが、何も言葉を繰り出せなかったことで、彼は私を気遣うように見た。
「どうかされましたか?」
「い、いえ。呪詛を無くす方法は他にないのですか?」
「一度生まれた呪詛はその役目を果たすまでは消えることはない。だから、自分で作ったものには責任を持たねばならない。そうは思いませんか?」
「そう、ですね。」
彼の口から出た当たり前だけど、厳しい言葉。
それは間違っていない。
「だけど、呪詛をかけた人にだって、理由はあるんじゃないでしょうか?」細められた瞳が、薄い布越しに私を捕らえる。
きっと、他にも方法はあったはず。
なのに呪詛を選んだことには理由があるはずだ。
「姫の考えかたは嫌いではないですけど、それではあなたはいつか足を救われますよ。」
そう言って、彼は立ち上がった。
「この件については、私がお引き受けいたしましょう。」
「あの!私にも出来ることはありませんか!?」
私は勢いよく立ち上がった。
その際市女笠の薄い布がふわっと揺れたことは気にしない。
立ち上がってみると、安倍晴明様は私より丈が大きく、見上げる形となった。
彼はきょとんとした顔で私を見下ろしている。
「姫様が、出来ることですか?」
「はい!私が出来ること!」
何でもします!と付け加えて彼を見上げる。
途中から、この薄い布越しでは顔が見られてしまうのではないかとも考えたが、それよりも興奮していて、あまり気にならなかった。
「いえ、姫様は関わらない方がいい。呪詛は怨念がつまったもの。気にあてられるやもしれませんし。」
さわやかに言って、彼は私の反論を許してはくれなかった。