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1、巻き込まれた少女

平安時代のお話をかくのは初めてなので、表現などに不適切な部分もあるかもしれませんが、ご容赦ください。

市女笠から垂れる薄い布を左右に割ると、目の前の建物がはっきりと視界に映る。



広大な土地に、少し趣を残したどちらかといえばまだ立てられてからそんなに年月がたっていないことが分かる家が堂々と存在する。。

その建物を見上げると、何というか不思議な感じが漂っていることが伺えた。

これが、噂の………。


噂では、この屋敷周辺は出るらしい。

だから周囲は比較的家も少なく、人々は夜はできるだけこの周囲を避けるらしい。

この家の住人は気にしないだろう。

なんせ仕事柄彼が相手にするのは物の怪や妖などの人には見えぬものたち。


そう、今都で噂の若手の陰陽師安倍晴明の屋敷なのだから。



1、巻き込まれた少女


私が門の前で立ち尽くしていると、内側からすっと門が開く。

そこには誰もいなくて。

勝手に門が開いた。

瞠目して私は、恐る恐る中に声をかける。


しかし、誰も出てこない。

使用人を、雇っていないのか?

確か、聞いた話では彼はこの家に1人きりで住んでいるはず。

私はゆっくり歩みを進める。


「あの、どなたがいらっしゃいませぬか?」


もう一度声をかけると、裾をつんつんと引っ張られた気がした。

視線を下に向けると、そこには人型の紙がまるで人のようにだけどどこか風に揺られるように立っていて、私の袂を引っ張るように中に進んでいく。


「な、なに?」

多分これは式神という物だろう。

実際に見たのは初めてだが、よくできているなと関心した。


その式神が玄関にたどり着くとそのまま私を促すように引っ張る。

勝手に入っちゃだめでしょ!

私は抵抗したが、式神は気にもせずに私の袂を尚も引っ張る。


何とか履き物を脱いで引っ張られるままに中へ進む。

咎められたら何と言い訳しようとヒヤヒヤしながらも、式神の強い力に抵抗は叶わなかった。

すると、式神はある部屋の前でぴたっと止まり、するっと私から離れ引っ張られるようにひとりの男性のもとへ向かう。


「ご苦労だ。」

そう言われたら式神は力を失いへなへなとただの紙に戻る。


目の前の光景にびっくりししながらも声をかけた。

「あ、あの!」

「若い女性の客とは、珍しい。」

そう言って振り向いた男性は、私と年近い様子の男だった。

だけど彼の雰囲気は常人が出せるものではない。

そして元からの顔の造形の美しさが近寄り難さを作り出しており、私は知らずのうちに息を呑んだ。

何だろう、この不思議な人は。

彼から出される雰囲気は決して安心出来るものではなく、体を強ばらせる。

「して、何用かな。」

そう問われて、はっとして顔をあげた。


「失礼しました。安倍晴明様とお見受けいたします。私、菅原時安が三の娘にございます。突然、申し訳ございませぬ。また、笠をとらぬ無礼をお許しくださいませ。」


「菅原時安殿の娘子殿。堅苦しい事は抜きにして、ひとまずこちらに腰掛けよ。」

そう言って、自分の隣をポンポン叩く。


私はゆっくり近づいていき、少し離れた場所に座った。

今日の訪問は何の断りもなく、いきなり押しかけたものだから、格式張った事を大切にされる方だったら門前払いもあるやもと思っていた。

それ故に、話を聞いて貰えそうなこととあまり礼儀にはうるさくなさそうな方で少しホッとしている。


「して、菅原の三の姫が私に何の用かな。」


不思議な雰囲気は、彼に近寄れば近寄るほど肌で感じ取れた。

それに、彼の人間離れした顔の作りには惚れ惚れした。肌なんて、私より美しい。貴族の女性は家族と夫以外に顔を見せてはならぬという決まりがあるため、今笠を取れないことを私は良かったと感じた。


彼は私に話しかけているができるだけ私を見ないように心掛けてくれている。

市女笠の薄い布では、顔がうっすらと見えてしまうからだ。

そんな彼の心遣いが彼が良識のある人だと思わせる。


良識ある行動とは言えない私の行動を咎めず、格式張ったことだけを重んじることなく、だからといって良識がない行動は取らない。なんて良くできた人だろう。

噂が噂でしかないことがよくわかる。


「今、もっとも都で力のある陰陽師は安倍晴明様であると聞きました。だからお願いしたいのです。私のお従姉妹である藤原時頼様の一の姫様をお救いしてほしいのです。」


「私が都一と言う所は否定させて頂きましょう。して、その藤原の一の姫というと……あの琴の名手として有名な?」


彼は苦笑いしながら、言った。


「はい。琴姫様は、お父上、藤原時頼様の決めた結婚を控えていらっしゃいます。しかし最近体の調子をよく壊される故、お見舞いに参りました。そしたら………」


「姫?」

言葉に詰まった私を不思議そうに眺める彼は、つい私を見てしまったようだ。

はっとしたように、すぐに視線を庭に戻す。

それを良いことに、私は彼の顔を見て話を続けた。

こんな綺麗な顔、めったに拝めるものではない。

見ないともったいないような気がしたのだ。


「信じて、いただけるか分かりませぬが……声が聞こえたのです。」


「声、ですか?」


私は小さく頷いた。

「男の僮の声で、可哀想に。この姫は呪詛を受けている、夜な夜な丑の刻に姫が苦しそうに喚いている、それも全てはある社で丑の刻に詣でている薄気味悪い女のせいだろうと。……その部屋には、私と琴姫様しかおりませんでした。周りを見渡しましたが、誰もおりませんで。……実は、信じて頂けないでしょうが、そのような声をよく聞くのです。それが、恐ろしくて。いつもは、気付かないふりをするのです。しかしその声が言っている事が本当だったら……琴姫様はじゅ、呪詛に!」


自然と下がっていた顔を勢いよくあげると、彼も私を見ていた。

目を丸くして。薄い布越しに会った視線が、私の本質を覗かれているような気がして、慌てて顔を伏せた。

きれいな、瞳だった。その瞳は綺麗だけど何故か恐ろしくもあった。


「なるほど。姫が聞いた声は、物の怪のものかもしれない。」


「物の怪、ですか?」


慌てて伏せた顔を恐る恐る上げると、綺麗な瞳は庭に戻っていた。


「時にいるのです。物の怪など、普通は見えぬ物が見えてしまう者が。姫の場合、姿を見ることはできない、しかし声は聞こえる。珍しい方ですね。」

「私…幼い時より声が聞こえて、でも周りのものたちには聞こえていなかったから、私がおかしいのかと……。」


本当は、誰にも言えずに悩んだ。

この声は、私の気のせいなのか。

いつも聞こえるこの声は、私にしか聞こえない。

普通ではないのかと。


「姫がおかしいのであれば、私はもっとおかしいことになりますね。私は声どころか、姿まで見えますし、それらにさわることも出来る。」


そう、優しく言い聞かせるように彼は私に言った。


「触れるのですか?それらに…?」


私が聞くと、顔を綻ばせたように笑った。

「ええ。もっとも、それらの能力は陰陽師には必要な能力ですし。」


「ということは、陰陽師全ての方は。」


いえ、と彼は、首を振る。

「陰陽師全ての者がそれらをみる能力を持つことはできません。天から授けられた才のようなものですから。どんなに努力しても、この才は得られない。」


天から授けられた才能。


素敵な考えだなと思い、そして疑問に思う。

なぜ、私に?

私は女だから陰陽師にはなれないし、聞こえるせいで悩むことばかりだったのに。

 

「天は、あなたにその能力を与えられた。それには必ず意味があるはずです。」


彼はそうして私に詳しい事を聞き始めた。

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