ノストラ君の占い師修行
ノストラ君は立派な占い師になるために修行中。
国でも一番の占い師養成学校に通っています。
立派な占い師になるためには学校で良い成績を修めるだけでは足りません。もっと大事なのは「徳」を積むこと。平たく言えば良い事をしなければいけません。
良い事をして徳を積むと、この世のどこかにいるはずの神様が、徳に応じて霊感をアップさせてくれるのです。
だからノストラ君も学校が終わったら良い事をしに町に出ます。
大きな荷物を抱えて困っているおばあさんがいたら、荷物をもってあげます。
迷子の子供がいれば一緒にお母さんを探してあげます。
公園にゴミなんかが落ちていたら拾ってゴミ箱に捨てましょう。
そんなことをしているのはノストラ君だけではありません。養成学校に通う占い師の卵達は、みんな我先に良い事をしますから、町はいつもきれいで、みんな笑顔です。
さて養成学校の六年生になって、ノストラ君は十七才です。
日々積み重ねた徳のおかげで、占いの的中率はぐんぐん上がっています。同じ学年にノストラ君よりも占いができる生徒はいませんでした。
だからノストラ君は少しだけ、本当に少しだけ油断してしまったのです。
実はノストラ君、お酒が大好きでした。
初めてお酒を飲んだのはいつの頃でしょうか。お父さんがふざけて幼いノストラ君にお酒を飲ませてしまったのです。どこの家でもあるような微笑ましい一コマです。
でもノストラ君は違います。一口飲んだお酒の味が忘れられず、その後もたびたびお父さんに隠れてお酒を飲んでいたのです。
この国の法律でお酒が飲めるのは十八才から。もちろん校則でも飲酒厳禁です。
悪い事をしたら徳が減ってしまいます。
立派な占い師になるために、ノストラ君はずっと禁酒していました。
でも油断してしまったのです。
学年で一番の的中率なのですから、ちょっとくらいいいだろうなんて、そんなことを思ってしまったのです。
もちろん思ったからといってすぐにお酒を買いに行ったりはしません。
でもそう思ってしまうと、昔大好きだったお酒の味が懐かしくて、良い事をしていても身が入りません。
これはいけない、徳を積むためにもちょっとだけお酒を飲んで、そしてすっきりとまた良い事をたくさんしよう。
そうしてこっそりと買ってきたお酒を、くいっと一杯……。
効果は覿面でした。
学年で一番だったノストラ君の的中率は、もう次の日には真ん中くらいまで落ちてしまったのです。
ショックです。ノストラ君は落ち込みました。何年も何年も良い事をしてきたのに、たった一杯のお酒を飲んだだけでこんなことになるなんて。
もう自棄です。
ノストラ君は両手いっぱいのお酒を買いこんで、飲んで飲んで、飲みまくりました。
どれくらい飲んだかというと、もうどれくらい飲んだか自分でもわからなくなるほどに飲んだのです。
べろんべろんでした。
なんだよ、ちくしょー! と神様に悪態をつく始末。もうこれはいけません。神を冒涜しています。
ノストラ君が積み上げてきた徳は、きれいさっぱり消えてしまいました。
翌朝目覚めたノストラ君は真っ青になりました。
二日酔いです。頭ががんがん痛いのです。
でもそれだけではありません。自棄になってお酒を飲んでしまい、神様の悪口まで言ってしまいました。
やっちまったー! な状態です。
ノストラ君は恐る恐るコインを放り投げます。コインの裏表を占いで当てようというのです。
結果は惨憺たるものでした。
外れ、外れ、外れ、外れ、外れ、外れ、外れ……
コインの裏か表かなんて、占い師でなくても半分は当てられるものですが、ノストラ君はとうとう一回も当てられません。
またもやがっくりと落ち込むノストラ君でしたが、おや? こんどは少し様子が違います。
うふふふふ、と不気味に笑っています。落ち込み過ぎてちょっとおかしくなってしまったのでしょうか。
がばりと起き上ったノストラ君は、またもコインを投げました。
するとどうでしょう。
当たり、当たり、当たり、当たり、当たり、当たり、当たり……
なんと全部当たりました。
そうです。ノストラ君は気付いてしまったのです。
お酒を飲んで、神様の悪口を言って、徳ゼロ状態のノストラ君の占いは絶対に当たりません。
不的中率百パーセントです。でもそれは「絶対に起こらない事」を当てられることにもなりました。
そうです。ノストラ君は気付いてしまったのです。
占いを二択に限ってしまえば、そして占った結果の逆を言えば、ノストラ君は的中率百パーセントなのです。
翌日、ノストラ君はまた学年で一番、いいえ、養成学校で一番の的中率になっていました。
その後、養成学校を卒業したノストラ君の名は、養成学校史上一番の天才として伝説となりました。
さらにその後、彼が占い師よりももっと偉い「預言者」になるのは、また別のお話。