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主人公、選ばれる。

ご来店、誠にありがとうございます。





 「そんな・・・。子供だと?」


 その陣とやらに入れ込んだ『王妃に相応しい』という条件に自信があったのか、流石の痛男も焦りだす。


 そして、


 「・・っこの私に他の男の手のついた女を宛がおうというのかっ!」


 と、後ろにいた、足首までの長いローブのような物を纏った白髪の、よぼよ・・・失礼、お年を召されたおじいちゃんに食いかかる。

 

 痛男!お年寄りは大切に!


 「で、殿下。どうか落ち着いて下され。他の方はどういった方なのでしょうか?」


 その目線を受けてOLさんが答える。


 「・・私は25です。職業はインターン・・・医学を学んでいる途中の見習いのようなものです。」


 なんと!お医者さんでしたか。

 そう言われて見ればクールな物腰といい、とても白衣の似合いそうな人だ。


 私がひそかに脳内の呼び名をOLさんから女医さんに変更していると、おじいちゃんが食いついた。


 「医学を学んでおられると!女性ながらなんと立派な!さぞ高貴な血筋の方なのでしょう。殿下、お妃さまはこの方なのでは?」


 「いえいえ、こちらではどうか知りませんが、我が国ではお金を払い、試験に受かりさえすれば誰でも医者になれます。私自身に身分など勿論ありませんし、そこら中にいる、ただの一般庶民です。」


 目を輝かせるおじいちゃんの勢いを、クールにぶった切るOL・・・もとい、女医さん。

 医者になるのはそんな簡単なものではないことは私にでも分かることなのに、それを思いっきりはしょって、何でもない事のように話てる。それほど巻き込まれたくないのかな。



 「・・・さらに申し上げるならば、私は孤児です。それこそ、『どこの誰とも分からない』者ですね。」


 「・・なんとっ!」


 女医さん、そんな大変な境遇でお医者さんのにまでなったのかー!凄すぎる。むしろ尊敬するよ!

 女医さんに対する高感度がうなぎ登りだ。なのに、そんな女医さんを、急に蔑みの色を滲ませて見るおじい・・・嫌、クソじじい。このよぼよぼめ!さっきと間逆の反応じゃないか!


 それにしても失礼な人だなぁ。こんなに分かりやすく負の感情をむき出しにする人を初めて見た。





 単純明快なものが好きな私は、何かしら頑張ってる人が大好きだ。TVのドキュメンタリー制作部にはいつも号泣してしまう。

 ・・・勿論、世の中はいろんな面があって、単純な『感動』の面ばかりではないことも知っている。誰かが笑う裏側では、誰かが泣いているかも知れないのだ。

 それでも、何かに『頑張る』経験自体はけして無駄にはならない。大切な、その人だけの『財産』になる。

 結果、泣いても、負けても、失った時でさえ、その時に一生懸命足掻いて、もがいたその思いは、後で必ず乗り越える強さを与えてくれる。・・・時に、その途中で悲しみに負けてしまう人もいるけれども。それでも。



 

 小さい頃から要とずっと一緒にいた私は、物心がついたころには当たり前のように、二人で近所にある要の爺様の道場に通っていた。たまに菜乃の弟も一緒に三人で。今の高校での部活はその延長のようなものだ。

 幸い、私には武道の才が少しはあったらしく、爺様にはいろんな意味で可愛がられた。女である自分がそうなのだから、男で、内孫の要は言わずもがな、だ。いつも何でも軽ーくこなしてるように見える要が、稽古で揉まれてボロボロになってるのを見た時には、爺様が神様みたいに格好良く見えたものだ。

 

 爺様の道場は剣道を教えてはいない。ナントカとかいうどこかの由緒正しい流派の古武術らしいのだが、小さい頃に聞き流していたから、覚えてないからもう一回、と由来を再確認するのは恐ろしすぎて無理だった。



 その爺様には、いろんな事を教えて貰った。


 ずっと、誰よりも傍にいた要。彼は、優しさと、愛情と・・・そしてそれと同じくらい強大な『劣等感』を私に与える存在だった。


 

  『何をしても勝てない』


 男女の区別はあれど、同い年の子供同士にとって、これは結構残酷な現実だ。なまじ、距離が近いものだから目を背けることもできない。

 別に周囲に貶められた訳ではなく、むしろより可愛がられてはいたのだが、やはりどんなに頑張っても、勉強も、運動も、容姿ですら目立って美しい要には勝てなかった。


 要のことは大好きだ。他の子ではなく私の傍にいつもいて、一緒に遊んでくれる。・・だけど、そんな要が心のどこかで疎ましく思えて、そんな自分がより惨めに思えて。

 鬱屈した感情が少しずつ、少しずつ心に溜まっていった時期があった。


 爺様はそんな私の様子にすぐ気付いた。・・・というよりも、今考えれば思った事がすぐばれてしまう単純な性質タチだから、要にもばれていたのだろう。だけどもさすがの要でも、幼すぎて、上手くいかなくなり始めた私との関係を修復しあぐねていた。そのまま私は、要に声を掛けられても、聞こえないふりをしたりして返事を返さなくなっていった。


 そんな二人を見かねた爺様は。

 日々の稽古の中で少しずつ私の心に触れて・・・菜乃自身にこの厄介な『劣等感』を、自力で乗り越えさせてくれたのだ。



 男だとか女だとかは関係ない。

 人間は皆、手に持っているものは平等じゃない。

 だから皆がそれぞれに力を磨くのだ。

 人と自分を比べるんじゃなく、過去の自分と比べなさい。

 そうすれば、頑張った分だけ、今の自分をきっと好きになるから。

 自分より出来る人を見て悲しむことは無い。

 その人にもきっと、菜乃と同じように、出来ないことに悲しんでいる事があるのだから。

 その人もきっと、菜乃と同じように、努力して手に入れた力なのだから。



 人間はとても欲深い生き物だから、どうしても他人の立場モノが欲しくなってしまう時もある。

 そんな時はもう一度よく考えて。本当に自分はそれを持っていないかい?見えなくなっていないかい?



 どうしても、どうしても、欲しくなったら。

 その時は必ず爺に相談しにおいで。

 一人で駄目なら、二人ではどうか試してみよう。


 


 要のように上手く技を決められなくてふてくされる時に。

 要を置いて珍しく一人で遊んでいる時に。


 稽古をしながら、お茶を飲みながら、少しずつ話を聞いてくれた。


 そして最後に。





 『これは内緒じゃぞ?要がなぜあんなにいろんな事が出来るか分かるかい?』


 『うーん。一生懸命頑張ったから?』


 

 その頃にはもう要への拘りも消えていた。



 『そうじゃ。そしてそれには理由があってな。』


 『へぇ。なんで?』


 『要が幼稚園の時、稽古中に泣きごとを言いおってな。わしが、「そんな男じゃ、好きな女の一人も護れんぞ!せいぜい振られて泣くがいいわ!」って脅してやったんじゃ。そしたら、「僕、菜乃ちゃんに振られるの?」って一著前に青ざめおってな。それ以来、頑張ること頑張ること。あんまり面白いから、なんでもかんでもそれで脅してたら、勉強も運動も全力でやるようになりおって。今じゃ料理にまで手を出し始めた始末じゃ。』


 『・・・爺様、鬼・・・。』


 あのええかっこしいめ!かっかっかっかっ!と、笑う爺様を見て、私も思わず一緒に笑いこけてしまった。


 『・・・爺様、私、もっと頑張る!』


 『うん?』


 『だって、要にだけ守られるのやだもん!だから、私も要を守ってあげるんだ!』


 そしたら二人で最強になれるよね?と笑う私に、爺様も笑顔で頭をなでてくれたのだ。



 今はもういない爺様。最愛の婆様が亡くなってすぐ、後を追うように儚くなった。



 ・・・・・

 ・・・・・

 ・・・・・・・





 ・・・・・・・?


 私がどっぷり爺様との思い出に浸っている間も話は進んでいたらしい。

 気付けば痛男もよぼじい(略)も、お姉さま方も、周囲の目線は皆、私に集まっていた。



 「・・・ーーーっ!どうなんだ!?さっさと答えぬかっ!!」


 「はいっ!」


 何故か焦った様子の痛男が、私に詰め寄る。

 

 えぇー?ごめん!全然聞いてなかった!もう一回とかありですかっ?ええ、無しですかっ!


 思いはすれど、相変わらず口は回らない、回らない。


 

 「そうかそうか!お前は問題ないようだな。もうお前でよい!ケルト。この者を、正妃に。他の二人を側室として準備をいたせ!」


 そう言ってよぼじいに指示する痛男。



 って!おいおいおいおいっ!人がちょっとぼやっとしてるうちに何話進めちゃってんのっ!?



 あまりのことに一人あわあわしてみるも、双方から『何やってんだよお前!』っていう無言の突っ込みが聞こえてくる気がした。

 

  お姉さま方の生温い目線が痛いです。はいー・・・・・。 




 


 




主人公、全く目立ってません。

やっと話が回ってきましたが、これから無事名誉挽回出来るのか?


作者の人選ミス感が否めませんが、宜しければこれからもお付き合い頂ければ幸いです。


後、爺様にはどうしても、じゃ!っと言って欲しかったのです。じゃ!





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