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主婦、微笑む。

 「恐れながら・・・いくつか確認させて頂きたいのですが、発言をお許し頂けますでしょうか?」


 ママさんの声が聞こえる。


 「よい、発言を許そう。」


 「・・・俄かには信じがたいのですが、ここは地球上のどこにも存在しない場所、ということで間違いないのでしょうか?」


 「『地球上』というのがそなたの元居た場所ならば、その通りだ。ここはアードキュールの中央都市、キュルゼットにある王城の中だ。」


 はい、決定打。三人とも何とも言えない微妙な顔になってしまった。・・・お姉さま方、よくわかりますその気持ち。ほんと痛すぎますよね、お互い。

 


 「・・・先程、恐れ多くも私どもを、『妃に』と聞こえたように思えたのですが・・。勿論、私の聞き間違いだとは思うのですが。まさか、貴方様のような見るからに高貴な方に、異界から来たとはいえただの、一庶民である私どもが嫁げるはずがございませんものね?ええ、そうですとも。」


 ママさんは何かふっ切ったかのように、急に態度を恭しいものに変えた。

 おおっ!凄い!なんかよくわかんないけど、顔はニコニコと声も甘やかで美しいのに絶対否定しちゃいけないような妙な威圧感がばしばしする!


 「いや、それほど卑下することもあるまい。そなたらは私の横に並ぶに相応しい程に美しいぞ。」


 痛男まさかのスルー。えっ、あれ効いてないの?凄いな痛男。


 「それに此度の召喚の陣は、かの勇者を召喚した時のものを応用してな。時間も技術も足りず召喚条件はそこまで細かく書き込めなんだが、『王妃に相応しい女性』ということだけはなんとか入れ込んだのだ。」


 ・・なんじゃそら。王妃に相応しいって、自分がってこと?私、どこにでもいる平凡な一女子高生なんですけど・・。


 「『王妃』に、私たちが、ですか?」


 「そうだ。私の妻になるのだからな。」


 「失礼ですが、その、陣、というものはどれほどの正確性を持っているのでしょうか?私には、自身がそのような責任ある地位に相応しいとはとても思えませんし、相応の教育も受けてはおりませんわ。」


 「そのようなものは必要ない。そなたらはただ私に忠誠を誓い、あの勇者と同じように強大な力や異界の技術を全て私だけに捧げ、『恩恵』をもたらせば良いのだ!」


 「左様でございますか・・・。」


 あれ・・・?えっ!まさか引いちゃうの?ママさん!まっ、まずいんじゃ・・・。


 しかしそんな私の戸惑いをものともせず、ママさんの猛攻が再び始まった。



 「もう一つ気になりますのが・・・。」


 「なんだ。」


 「お国の方々は此の件を如何思われますでしょうか・・。貴方様のような高貴なお方には是非と、沢山の縁談のお話があるのではありませんか?」


 「ああ、その通りだ。よく分かったな。」


 「分かりますとも。見るからに素敵な方でいらっしゃいますから。でしたら余計にですわ。貴方様をお慕いしているお嬢様も多くいらっしゃいましょう。女性の嫉妬程恐ろしいものはこの世にございません。私共のように、見るからに凡庸な市井育ちのものでは、皆様納得されるはずがございません。

 貴方様には、誰もがお認めになるような素晴らしい女性がお似合いですもの。

 お立場をより良くされる、お国の方々からお妃様をお選びになられた方が宜しいのではございませんか?」



 「それでは兄と同じになってしまうではないか。同じでは負けてしまうやもしれん。

 今この国には見る目のない輩が多くてな。父上も、私の資質を分かっていながら、先に産まれたからという些細な理由で兄に王位を継がせようとしているのだ。そんなことはこの国の為にも断じて許されん!

 私のこの類い稀なる才能だけでは慣習を覆せないと言うのであれば、分かりやすく、まさに神に選ばれし『勇者の恩恵』が私だけに齎されたと皆に示せばよいのだ!

 そうすればきっと父上も何の憂いも無く、その本心のままに私を次期王に指名することが出来ようぞ!」



 「・・・・・お言葉ですが、そのような状態でしたら尚更ですわ。

 私どもでは不確定要素が強すぎて、直接恩恵を享受されている隣国ならばともかく、いきなり表れた素姓の分からない者を妃にしたと逆に人々の反感を買ってしまうのではありませんか?私どもには実績も、何の後ろ盾もありませんから。

 そのようなリスクの高い賭けに出ずとも、才能溢れる貴方様なら今のままで大丈夫です。きっと国王陛下もその御心のままに、より相応しい方を王太子殿下にお選びになるに違いありません。

 貴方様はその大いなる期待を一身に背負われる御身であらせられるのですから、次期国王に添われるに相応しい、尊い血筋をお持ちで、徳の高いご立派な女性を娶られなさいませ。」


 あわわわっ・・・何かママさんが怖い・・。背後が黒い!痛男をものっすごアゲてるけど、それ思いっきり嘘ですよね?ママさんさっき馬鹿男って吐き捨ててましたよね!!


 「うむ・・・。そのようなものなのか。」


 そんな状態のママさんを欠片も気にすることなく、痛男はただただ感心している。痛男!多分あんた物凄く馬鹿にされてるよ!


 ・・・それにしても、この男、ほんとに大丈夫なのかな?


 確かにママさんは凄く(表面上)笑顔で丁寧に話してるけど、偉い人なはずなのになんか・・弱すぎない?すんごく単純というか・・・もちろんさっさと返してほしいからそれでいいんだけどさ。


 だいたい、自分が選ばれなさそうだから、嫁が凄けりゃいいだろうって単純すぎじゃないかな。ママさんの言うと通り、余計馬鹿にされるんじゃないかなぁ。

 考えがなさすぎで詰めが甘い。行き当たりばったりって感じ。こんなのがこの国で一番王様に相応しいなんて、どんだけ人材不足なんだ。要が聞いたら鼻で笑いそう。

 要、よく国会中継聞きながら笑ってるもんなぁ。どこの国でもそういうところは一緒なのかな。




 「左様でございますよ。ですから私どもはこのまま、お構いにならずに、元の場所にお返し下さいませ。」


 ママさん、無駄ににっこにっこしながら痛男にどんどん捲し立てる。最強だ!


 「いや、しかし・・。兄上に勝つには・・。」


 言い淀む痛男。先程までの偉そうな態度は見当たらなくなってきた。

 自信がなさそうにあたりを見回すその様は、ただ幼く、自信の無い答えを返す時のような、ただの子供に見えてきた。・・・この人もしかして本当にまだ子供なんじゃ・・?


 私と同じように思ったのか、ママさんは違う説得方法に出た。



 「・・・それに先程から皆様には誤解を受けているようですが、私はもう28になります。成人してから8年も経った立派な年増ですわ。」


 「「「28っ(だと)!?」」」

 

 ママさんそりゃあ最年長だよ!


 やばっ。驚いて思わず声に出してしまったが、痛男と声が被ったのでそれに紛れただろうと安心する。

 こんな恐ろしい空気の中で存在を主張する勇気はありません。・・てか、後ろの痛男のお付きの方々も皆びっくりしている。

 何人か私と同じで声に出したな、と内心にやりとした。結構な人数が控えているのだが今まで誰も声を出す人がいなかったから、実は物凄く気持ち悪かったのだ。


 日本人は若く見られるというし、ここの人達は明らかにコーカソイド系で背も高くがっしりしている。もしかしてすっぴんの私なんかは小さな子供に見えているのではないだろうか?

 

 

 そんな人々の動揺をよそに、更にママさんの追い込みは続く。


 「ええ。そして夫と子供もおります。ただのしがない専業主婦ですわ。」


 にーっこり。



 これでどうだと言わんばかりのママさんの笑顔はとても眩しかったです、はい。









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