主人公、のけものにされる。
「・・・・・。」
「これは夢?」
「その案も捨てがたいな。こんな趣味の悪い夢なんて早く冷めてほしいもんだけど・・。」
何も言葉が出ない私に対して、大人二人は冷静なようだ。ママさんの言葉にOLさんが返す。
「ここが地球じゃないってこと?」
「あれがCGに見える?私には本物に見えるけど。それに私たちに対してそんなことをしてなんになる?こんな大掛かりな仕掛け、芸能人でもないのに考えられない。」
「・・・悪ふざけが好きな人なら知ってるけど。・・さすがにこれは悪趣味よね。」
「そうなのか?・・なんにせよ最悪な事態を想定した方が良い。もしあとでドッキリだとわかったとしても、この状況よりかは全然ましだ。踊って笑われるくらいで済むならば万々歳だ。まぁその時は、悪いけどその知り合いの安全は保障しないよ。」
「・・もちろん止めないわ。」
大人二人はどんどん話を進めていく。ちょっと待ってプリーズ!一人話についていけませんっ。・・・まじで本当に異世界召喚ってオチなの?・・まじで?お姉さん方、もうちょっと頑張って否定しようよ!
「それで、どうする?」
OLさんが尋ねる。
「帰るわ、もちろん。あなたは?」
「えっ?」
ママさんに急に話を振られて驚く菜乃。
「あなたは帰りたい?それともここであの馬鹿男につき合う?それによって話は変わってくるわ。」
「ここに・・?」
ここであの痛男と一緒に・・・?ぶるぶるぶるぶるっ・・・!!やばい・・
「そんなことしたら要に殺される!帰る!今すぐ帰ります!!」
女性三人でこそこそと話をしているのに痺れを切らしたのか、痛男が無理やり話を遮った。
「話し合いは終わったか?」
「・・ええ。まだ混乱しておりますが・・・。」
相変わらず緊迫した空気が流れる中、三人で顔を見合わせる。アイコンタクトが交わされ、大人二人の中で何かが決定したらしく、二人が頷き合った。・・はい。また一人のけものですね。察しが悪くてすいません。
「見る限りこの三人の中では私が最年長の様ですので、とりあえずこの場では代表してお話させて頂きます。」
「うむ。そなたが最年長なのか?私には皆同じような年に見えるのだが。」
そう言って前に出たには、またもや若いママさんだった。えぇっ?私は少し驚いた。ほぼすっぴん、見るからに未成年の自分はともかく、ママさんよりもOLさんの方が少し上かと思ってた!・・なんか冷静だしな。
私は考えるのがあまり得意でないし、人間観察もあんまりしない。友達には『どれだけ化粧しようが、私には年はごまかせないわよ!』とかいいながら、街中で通り過ぎる女性をつぶさに観察しまくる変・・んんっちょっと変わった子がいるのだが、そういう類いのスキルなのだろうか。私はその友人に習って、お姉さま達を良く見てみた。
ママさんの外見は、髪を染めているのだろう、明るすぎない程度の栗色の髪を上品に巻いて肩下に流していて、一見子供がいるようには見えない。服装もヒールこそないものの、真っ白の、袖が膨らんだ高そうなデザインのブラウスに膝丈のプリーツスカート。まるで某テレビ局の美人アナのように肌もきれいに化粧も柔らかで若々しく、全体的に甘く上品に纏めている。顔立ちもそれらに一切負けていない、端から端まで手の込んだ典型的ないまどきの美人だ。
対してOLさんが美しさで劣るかというとそういうわけでもなく、ただ系統が全く違う。
こちらは濃いブラウンの髪をショートボブにして、内巻きに揃えている。服装は仕事中なのだろう、白いシャツに黒ストライプのありふれたパンツスーツだけど、細身ながらも出るとこは出て、ひっこむところはひっこんでるという感じで、服の上からでもわかるスタイルの良さだ。そのすっと伸びた背筋と切れ長の目元に、クールな性格が如実に表れている気がする。それでいてきちんと紅を施された口元からは女性らしさを漂わせていて、ほのかに色っぽい。
・・・うぅ。今更だけどここに並びたくないなぁ。
それにしても痛男の、皆同じ、はないだろう。二人に対して自分は明らかに年下だ。これがいわゆる文化の違いだろうか。
むしろ二人が大人の女性で良かった、同い年だったらマジで辛すぎるな・・ははっ・・。
容姿に関してはかーなーり、自信がない。なんせ毎日のように要に面倒見て貰ってるくらいだ。
要は頼んでないのに毎日私に構ってくる。お前はどこのプロデューサーだ!ってくらい。
要いわく、『お前はみっともないからな、せめて平凡になるようにしてやる。』なのだそうだ。
小さい頃からすぐ髪を切りたがる菜乃を抑えるためか、気が付いたらブラッシングやドライヤーで乾かすのは要の仕事になっていたし、菜乃は日に焼けると赤く腫れるからと万全な日焼け対策や、毎日のスキンケア指導、良く目をこする菜乃に怒りながら目薬を点し、果ては見っとも無いと学校で足を組むことすら厳しく指導してくる。
それこそ、美しく切れ長の目に愉悦の色を浮かばせ、薄くて大きな唇をにやりとさせ近寄ってくる要に、女としての対抗意識から最初は嫌がっていたがもう慣れた。好きでやっているんだからほっとこう、あれは趣味なんだろう。うん。
化粧まではまだ手を出していないが、おかげさまで、顔立ちはともかく人に見られて小汚くて恥ずかしいということは無い、とは思う。
だけど、あくまでも健全な高校生として、だよね。
「・・あなた方は、私どもに対していろいろ誤解がありそうですね。」
私と同感なのか、ママさんは改めて、ふぅ・・と深ーく溜息をついた。