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痛男、自己紹介する。


 一番最初に立ち直ったのはまたもや、見た目も華やかでいかにも弱々しく、三人の中で最も保護欲をそそりそうなママさんだった。・・やはり母は強し。


 「あなたたち。言葉は通じるのね?異界?・・ふざけた事を。つまり私たちをここに連れてきたのは自分達だと認めるのね。これは立派な犯罪よ。一体どういうことなの?今すぐ私たちを解放しなさいっ!」


 今さっきまでのか弱さはどこにいったのですかママさん!一気に女王様降臨です!


 「女っ!殿下の御前でなんていう口の利きようだっ!」


 先程イタイ発言をした男のすぐそばに控えていた、騎士の様なスタイルの男がママさんに向かって牙を剥く。

 その迫力に私が思わず反応するよりも早く、イタイ男が騎士を止めた。


 「よい。まだ自分達の立場を理解していないのだろう。女達、私は優しいからな。一度だけは許してやるが、以後口の利き方に気をつけよ。」


 「なっ・・・!」っっかっちーーん!!こ・い・つ!!はっきり言ってこちらはなにも分かっていないのに!

 思わず声に出しかけた私を、OLさんが引き留める。 


 「気持はわかるけど堪えて。とりあえず話を聞こう。・・・変に煽ると危険だ。あの人達、武器を持っている。」


 ・・っ!本当だ。・・私はこの何か異常な雰囲気に、自分がどれだけ頭に血が登っていたのかを改めて実感した。

 そうだ。ママさんは犯罪って言っていた。ということは、これは誘拐なのか?


 つい先ほどまで、平和の象徴ともいえる親子連れの姿を見ており、その片割れがいまだそばにいたからか、頭がそこから離れていなかった。同じ女性・・しかも明らかに大人で自分と同じように状況が掴めていない人達がいるから・・それに甘えていたのだ。今は平和じゃない。異常な事に巻き込まれてる。だからこの二人は緊迫した空気を纏わせているんだ。

 

 のんびりと構えていた自分を罵りながら、だんだん事の重大さを理解して体が震えだす・・・落ち着け自分。こんなときはどうすれば・・・

 

 『何か変な事が起こったら・・』 いつもそばにいて、何かにつけて口うるさく注意してくる幼馴染の言葉を思い出す。




 『何か変な事が起こったら・・人災でも、天災でも。』



 要がテレビを見ながら時々辛そうな顔をして話していた。

 丁度夕方のニュースの時間で、今日起きたばかりの痛ましい事件を報道カメラが映しているところだった。世界中で起きている火災や地震。事故では幼い命が儚くなり、たまたま居合わせた場所で突然通り魔に襲われる。



 『一概には言えないが、まずは落ち着け。そして自分を、周りの人をよく観察して、すぐじゃなくてもいいから、最終的に助かる状況を考えるんだ。・・お前はほんと猪みたいに考えなしに突っ込むからな。考えるのは苦手だろうけど・・。それでも、人よりも体力もあるし、運動神経もある。だから本当に危険だと思ったら、そのすべてを危険から逃げること、助かることに使うんだ。特に人相手の場合は絶対にむやみに突っ込むんじゃないぞ。』


 『えーー?でも私、剣道もあるし、要の爺様にも護身術習ったし。そこらの男よりか全然強いよ!いざとなったら闘った方がいいと思うけどなぁ。』


 『そういうところが脳筋なんだよ、馬鹿。勉強はやっと人並みになったけど、頭はどうしようもなく馬鹿だよな。』


 『かっちーーんっ!!』


 『これは女が、男がとかそういう問題じゃないんだよ。男だって危険なときは危険なんだから。運がものをいうこともあるが、だからと言って、何も考えずにぼんやりと状況に流される事だけはするな。頭をしっかりさせて状況をよく把握しておかないと、いざという時に動く事すら出来ないからな。・・・まぁ、君子危うきに近寄らず。お前は変な所に一人で出歩くな。』


 『まぁ、部活忙しくてそんな暇ないけどねぇ。ってかあんたといつも一緒だからそんな心配いらないんじゃない?』


 『・・・・っ!とにかくっ!!なんかあったら安全な場所に避難して、俺が迎えに行くまでそこで大人しくしてろ!わかったな!』


 『はーい。』




 ・・・要、そばにいないじゃん!なんで今日も無理やり起こさなかったんだ!私の馬鹿ーーっ!

 今更そんなこといってもしょうがないけどっ。

 ・・真剣な顔して話す要が照れくさくて、最後はなんでもないような顔して笑いながら締めくくったことを思い出す。・・・要。ほんとに何でそばにいないの・・。

 



 ・・・よし、とにかく!泣きそうな気持ちを切り替える。まずは落ち着いて。

 これは要が言ってた非常事態に間違いない。いまだに誰もドッキリだとか言い出さないのがその証拠だ。だから次は・・自分と、周りの観察。


 私の隣にOLさん、やや前方にママさんがいて、私たちをかばってるような格好だ。状況的にこの人達は自分と同じく被害者だろう。

 正面にはやたら偉そうにイスに踏ん反りかえってる金髪の男。・・やばっ、あの人白タイツだ!思わず噴きそうになった。それにべロアっぽい素材のワインレッドの膝丈のズボン。・・かぼちゃパンツじゃなくてよかったっ!今でさえ噴き出さないように必死なのに!

 いまこの場での爆笑が命の危険を招くかも知れないため、菜乃は必死で表情筋を駆使する。いつも感情ダダ漏れっていわれるんだけど、今こそ頑張れ自分!


 私が一人脳内で馬鹿なことを考えているうちに、白タイツの人が自己紹介をしていたらしい。

 ・・何とか国のほにゃらら王子とな・・・・イタイ。あまりにも痛いぞおの男。あいつはもう痛男で十分だ!

 痛男は尚も続ける。



 「丁度一年前、隣国が失われた古代の術を用いて、魔王を討伐するにふさわしい勇者を召喚することに成功してな。聞けばなんとこの世界のどの国とも違う、異界から来たと申しているというではないか。その証拠に、そ奴はその強大な魔力を用いて、見たことも無いような不可思議なものを作り出したという。そして治世に関する知識も豊富らしく、魔王を倒した今、隣国は様々な恩恵を受けていると聞いている。」


 ・・・・・・・・・。


 「そこで、だ!そんなに使えるものが存在するならばぜひとも我が国にも必要だと思ってな。男はもう必要もないので、どうせなら私の妃にふさわしい人物を召喚することにしたのだ!その恩恵を持ってして、私は兄者を押しのけてこの国の王になってみせようぞ!!」


 

 はっはっはっはっ!!




 「「・・・」」


 「・・本当にあり得ないんだけど。最悪でも、ただのコスプレ妄想集団を希望したいんだけどなぁ・・・。」


 絶句する私とママさん。横からOLさんの呟きが聞こえてくる。


 そうなのだ。こちとら必死でなんとかつじつまを合わせようとしてるんだけど、・・痛男の言ってることは、なんか本当っぽいのだ。何でこんな妄想話を周りのおっさんたちも黙ってきいてるんだろう?妄想集団だからそう思い込んでるとか・・・。

 しかし私のささやかな抵抗をきれいさっぱり流すかのように、OLさんが決定打を告げる。



 「外見て・・・。あれだけはどう考えても説明がつかない。」


 豪奢な家具で溢れ天井も高く見るからにハイソなその部屋には、これまた立派な、インテリアにも負けないような美しいデザインの天窓が設えてあった。

 

 そこにはすっかり日が暮れて、暗闇が広がる夜の彼方に、・・・赤と青の、二つの巨大な月が。

 

 煌々とこの世界の闇を照らし輝いて、いた。






あっしまった。自己紹介聞き流しちゃったよ、主人公。

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