主人公、安堵する。
「連れて行け。」
「はっ!」
「×××!××、××××××!×××××××××!×××!××××・・・・××・・×・」
「×、××××!×××、××××!?」
「・・・何だこいつ等。いい年して変な格好して訳のわからん言葉喋りやがって。オラ、さっさと歩け!!」
仕組みは良く分からないが、戻った途端あの人達の言葉がさっぱり分からなくなった。
要によるきっついお仕置きを受け、リクさんに限界まで魔力を吸い取られ、更に向こうでの犯罪者用の制御装置を付けられているそうでボロッボロになっていたが、それでも力いっぱい騒ぐ痛男とその他三名を無事警察に引き渡し(全員向こうのスタンダード、痛男に至ってはかぼちゃパンツみたいな恰好のまま・・・改めてこちらで見るとより痛々しいな、ははっ)真美子さん家族の感動の再会を眺めていた。
「真美子っ!」
「輝大さんっ、美羽!!ああ・・・っ!」
「真美・・・真美子・・・無事で良かった・・・っ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・輝大さん、会いたかった・・・」
結局、痛男含む主犯格四人を警察に引き渡し後は、知らぬ存ぜぬ、ややこしいところは真美子さんの旦那さんに任せておく、ということで落ち着いた。言葉も何も分からない異世界で放置。まさに自業自得だ。追従していた残りの人達はきちんと向こうで処罰を受ける事になった。・・・要曰く本当は全員放り込んでやりたかったらしく、些か不満そうだが、後処理をさせられる警察の方々の面倒を思えばこれくらいでいいんじゃない?てことに。
シナリオは単純に、『気付いたら女三人で知らない場所にいた。変な格好をした外人が意味の分からない言葉で何事かを話し掛けてきたが、恐くなって(菜乃が)暴れてるところを要が助けに来てくれた。』ってもの。
葉月さんいわく、
「警察ってのは、動機や方法が分からなくても、現行犯で引き渡してしまえばとりあえずそれで引きさがるよ。まぁ、納得はしないだろうけどね。詳しいことは犯人に直接聞けばいいんだし、私らは被害者なんだから何も知らないって言っておけばいずれ解放されるでしょ。言葉も通じないパスポートも持ってない変なコスプレした見るからに怪しい外国人のオッサン四人だよ、イイとこ怪しい新興宗教の愉快犯って認識されて終わりじゃない?」
だそうで。取り調べをする警察の方々の困り果てたが目に浮かぶ・・・。いろんな意味でご愁傷様です。
その後、ホテルの一室で全員まとめて刑事さんから事情聴取を受けた。話は真美子さんが代表で答え、要が残りを補足する。現場を見つけた状況、犯人の様子、等々。良くもまぁそんなに口が回るもんだ。
こういう時の要の大人受けの良さは折り紙つきだ。爽やかで清潔感のある見た目に武道で鍛えられた体尽き。落ち着いた物腰でピンと伸ばした姿勢、そして何より真っ直ぐに相手を見つめる真摯な眼差し。これで僕は曲がった事が大嫌いですと顔に書いていかにも正論っぽいもを述べるものだから、対抗できる大人はまぁいない。敵に回った時はどうしてやろうってくらい腹が立つけど、味方につけたら恐いものなし、だ。味方ならね。ふふふ・・・。
長時間の事情聴取を終えやっと解放された私を待っていたのは知らせを聞いて駆けつけてくれた両親の強烈な抱擁だった。
「菜乃っ!」
「お父さん、お母さんっ。」
「あなた良く無事で・・・っ!!」
どうやらつい先ほど駆けつけて来てくれたらしい。今日は弟のサッカーの大きな試合で朝から二人で応援に出掛けていたはず。そんな時に行方不明の知らせを受けてどれほど心配を掛けただろう。駆け寄ってきた母にきつく抱きしめられた。私よりも華奢な肩が震えているのと、すぐそばに立つ父の顔が珍しく青ざめた様子なのが見てとれて心から申し訳なく思った。
「菜乃、・・・良かった。」
母ごと抱きしめる父の腕に力がこもる。
「お父さん、心配掛けてごめんなさい。」
それからは盛大に泣きだした母をなだめるのに必死であまり覚えていないが、とにかく今日の所は無事に帰宅が許されたらしい。詳しい話はまた後日、ということで。なんだかんだと慌しくて気がつくと父の車の中だった。
あちゃー、真美子さんと葉月さんに挨拶もしてないや。あの部屋に二人がいたかどうかすら分からなかった。こんな変な出会いだったがとても奇麗で優しく、親しみやすいお姉さん達。また会えるのかな。赤ちゃん、見たかった。葉月さんは誰か迎えに来てもらえたのかな。一緒に家まで送って上げたらよかったんじゃ・・・。流れる景色をぼうっと眺めながら取りとめのないことを考える。何だか凄い疲れた・・・かも・・・眠ってしまいそう。
そういえばさっき---父と要が何やら難しい顔で話し合っていたのがやけに印象的だった。
・・・ダ・ロ・・?サァ・・
イや!やめっ・・・イヤだ触らないでイヤだイヤダいやだ・・・・・・かなめっ!
「・・乃、菜乃!おい!」
ガバッ!
「・・・・要・・」
飛び起きた私の目の前に、見慣れた幼馴染のドアップがあった。
その後ろには、私が生まれてからずっと過ごしてきた部屋の壁紙。そっか、私、あのまま寝ちゃったんだ。
・・・嫌な夢を見た。ゴタゴタですっかり忘れたつもりでいたのに。あの絶望感と嫌悪感がまだリアルに肌に残ってる。勝手に震えだした体が悔しくて情けなくて、寝ぼけたふりで頭を膝に埋めた。こんな姿を見せたらまた要に心をかけてしまう。
「・・・落ち着いたか?悪い、魘されてたみたいだから無理矢理起こした。気分悪いか?ほら、水飲め。」
いつもより優しい口調でゆっくり背中を撫でてくれる大きな手。その温もりに安心しちゃって涙まででそうだ。あらら、これ以上はマジでヤバイ。受け取ったグラスを一気に煽った。
「ぷはー美味しい、ありがとう。喉がからっから。何か変な夢見たみたい。夏の夕方にうっかり寝ちゃうと大抵悪夢だよね。」
本当は私の強がりなんて何もかもお見通しなんだろう。何か言いたげにしてじっと見透かすように覗き込んでくる。こんなんで誤魔化される要さんじゃないだろうけど、今はお願い、誤魔化されて。理不尽に与えられた恐怖になんか負けたくない。その一心で、敢えて要の目を見てにっこりと笑って見せた。
「・・・今何時?」
「もう夜中だよ。」
家に帰ってからも弟や、要のおじさんおばさんに散々泣かれた。特におばさんなんか、自分がそのまま送り出したせいだってずっと泣きっぱなしで。本当に心配をかけてしまった。ここはこんなにも暖かくて、無事に帰ってこれた事を本当に幸せに思う。
「ごめんね、もしかしてずっと付いててくれたの?」
「ん?いや、・・・まぁ。」
ふふ、照れてる。
「ありがとう。要も疲れたんじゃない?寝なくて大丈夫?」
「明日も学校は休みだしな。先生に部活は休むって連絡入れといたから大丈夫だ。」
「そっか、そういえば今日は土曜日だったね。・・・何から何までご迷惑おかけしました!」
「おー。とにかくお前はゆっくり眠れ。」
「えー、もう目が覚めちゃった。」
「いいから!」
そういいながら無理やりベッドに押し倒されて布団を被せられた。もー、ほんとに心配性なんだから!
「要は寝ないの?お布団隣にひいてもらおうか?」
「・・・お前が寝たら帰る。だからさっさと寝ろ!」
そんなに怒らなくても。
「要。」
「ん?」
「迎えに来てくれてありがとう。」
「あぁ、・・・いや。遅く、なった。・・・すまん。」
顰めた眉の下にある瞳が今にも泣きだしそうだ。いつも泰然とした要が本当に辛い時にだけ見せる顔。優しい人、きっと自分を責めている。そんな風に要が悔やむ事なんかこれっぽっちもないのに。
言葉でいくら否定してもきっと受け入れないだろうから、ただ微笑んで首を横に振る。
「ねぇ、手ぇ繋いで。」
布団から出した手をひらひらさせると、呆れた顔で握り返された。ため息付かなくてもいいじゃん。
「お前、眠る気全ッ然無いだろ。」
「へへへー、だって。」
当たり前のように与えられる温もり。それがあんまりにも幸せで。胸がいっぱいで眠れそうにない。




