主人公、妄想する。
大変遅くなり申し訳ありません。
ラストが長くなりすきたので三回を3日に分けて投稿します。
葉月さんの「さっさと帰りたい」という意見は満場一致で可決されたが、要がそれに待ったをかけた。ちょっと決めておかないといけない事があるらしい。ここでは何だからと、逸る私達を一瞬で別の部屋へ移動させたのはリクさんだった。おお、なんて便利!
「お前、そんな無駄に魔力使っていいのかよ。まだ体本調子じゃないんだろ?今晩きついんじゃないのか?」
「いいんだ、今日はサボるから。代わりにあの人達にやってもらうよ。あの人数なら一晩・・・嫌、一時間くらいは持つでしょ。そのあとは双月は臨時休業。さて原因は如何に?ってね。こんな不祥事を起こしたんだ。それなりの責任は国に取って貰わないと、今後の為にもね。それよりもお姫様方が首を長くしてお待ちだよ。これからどうするのか四人で決めないと。」
「ああ。」
陸さんとの会話を終え、要は改めて、と同じ被害者の二人に向き直り頭を下げた。
「説明が遅くなり本当に申し訳ありません。俺はこいつの幼馴染で西織要と言います。いろいろあり得ない状況なんですが、とにかく貴女方を迎えに来ました。」
「迎えに、ねぇ。」
「私達ちゃんと帰れるの?あの場所に?・・・あのっ!私子供を残してきたのよ!あちらの状況はどうなっているか分からないかしら!?」
「はい、必ず全員で元の世界に帰りましょう。時間もある程度調節して・・・俺も何度も試した訳ではないので断言はできませんが、この二人も協力を申し出てくれていますので。」
青と赤の対の二人はニコニコと揃って首を縦に振った。
「・・・良かった・・・!本当に、もうどうしたらいいかと・・・、もうあの子を二度と抱きしめる事が出来ないかとっ・・・!!」
要の言葉に緊張の糸が切れたのか、ソファに腰掛けていた真美子さんの目からボロボロと止めどなく涙がこぼれ落ちた。
「真美子さん・・・。」
「ごめっ、ごめんなさい。必死で考えないようにしてきたんだけど。葉月ちゃんも菜乃ちゃんも頑張って堪えてるのに・・・私だけこんな・・・、でも安心しちゃって・・・止まらないっ・・・。美羽、美羽・・・あの子に会いたいの。もう会えないかと・・・良かった・・・ほんとに良かった・・・!」
ソファから立ち上がって駆け寄ろうとした私を無言で制して、隣にいた葉月さんが真美子さんの背中をゆっくりさする。相変わらずクールな表情なのに、それとは裏腹に温かいオーラが葉月さんの全身から醸し出されているみたいだ。癒される。
「治癒系か。」
「えっ?何?」
「いや、何でもない。それより・・・本当に申し訳ありません。すぐに貴女方にお伝えすればよかった。俺もつい頭に血が上ってしまって。」
「いや、それは仕方ない。彼女をみすみす危険な目にあわせてしまったのは私達だ。君が助けに行ってくれてこちらこそ感謝するよ。」
「・・・葉月さん。」
「そうよ!貴方は何も悪くないわ。貴方が助けに来てくれなかったらどうなっていたことか・・・。私こそ話の腰を折ってしまってご免なさい。」
少し落ち着きを取り戻したようだ。要がホッとしたのが伝わった。要、女の人に泣かれるの苦手だもんな。私が泣くといつも様子がおかしくなるし。
「安心して下さい。お子さんはすぐに保護されて今はご主人の元にいらっしゃいます。・・・確認はしていませんが、ご主人の様子からも無事は間違いないと思います。」
「輝大さん!?そこまでご存知なのね。ああ!あぁ・・・本当にあの子は無事なのね・・・ありがとう。本当に来てくれてありがとう・・・良かった・・・本当に、あの子に何かあったらどうしようかと・・・」
一旦止まった筈の涙がまた真美子さんの両目から溢れだし、俯いて体を震わせて本格的に泣きだした。それでもその涙は先程のものとは違って喜びで溢れている。その両腕で自分の体を抱きしめている様子はまるで赤ちゃんを抱きしめているかのように見えた。
うう、駄目だ。貰い泣き・・・。
「お前まで泣くな、馬鹿。」
「だって・・・、ううー、要・・・ハンカチ。」
「持ってねーよ。ったくほらこっち向け。」
「痛ったぁ!何これ、シャツ?そんなごしごし擦らないで!」
「しょうがないだろ?無いもんは無い。」
「はいはーい、喧嘩しないの。お任せあれよぉ。はい、お待ちどうさまぁ。」
いつの間に用意したのか、ワゴンを押しながらリラさんが一人ずつに紅茶をサーブし出した。おまけにたっぷりの焼き菓子に繊細な刺繍が施されたハンカチも忘れない・・・ていうか、いつメイド服に着替えたんですか?さっきまでそこに居たし、真っ赤なドレス着てましたよね?ね?
「どうぞ温かいうちに召し上がれぇ。」
相変わらず怪しさ満開だけど、異世界のお菓子だなんてものを出されては食べない訳にはいくまい。しっとりときつね色したフィナンシェのような焼き菓子とフルーツたっぷりのタルトみたいなもの。でも何故か一つ一つがあり得ないくらい大きい。ホールケーキ?
「では、改めて。さっさと帰りたいのは山々なんですが、先にあちらの状況をご説明します。お二人は、柾木真美子さんと宮沢葉月さんで間違いありませんね?」
「ええ。」
「ああ、間違いない。」
「まず、あちらでは貴女方三人は行方不明者として警察が捜索中です。原因不明の発光にまぎれて唐突に消えたと多数の目撃者がいましたし、監視カメラにもその様子は映っていました。俺はたまたま菜乃の後を追ってあのショッピングモールにいて、菜乃の携帯に連絡をしていたら真美子さん、貴女のご主人に繋がりました。」
うーわ、マジか。まぁ、普通に考えたらそうだよな。そこそこの人ごみの中で突然三人も人が消えたんだ。そりゃ大騒ぎになるよねぇ・・・。
「輝大さんに?」
「ええ、隣接するホテルの一室を捜査の為に解放されていたようです。そこで事件のあらましを聞きまして、遺留品として保管されていた菜乃の携帯に残っていた陣を辿ってこちらまで迎えに来た次第です。なので戻るのはそのホテルの地下になると思います。」
「ああ、良く分かるわ。」
「問題は、召喚から僕がそれを知るまで二時間半・・・いや、三時間か。事が大きくなりすぎた事です。物理的にあり得ない状況ながら、三人もの人間がいきなり姿を消したということで事件は誘拐の線で捜査が始まっています。おまけにうち一人が経済力の高い方の奥様だそうで・・・。このままあちらに帰ったら騒ぎになることは必死です。それはこちらとしても避けたい。そこら辺をどうするか、全員の意思の疎通を図りたい。」
「そのまま消えた直後に戻せないの?」
単純に聞いてみる。
「それは・・・出来るだけ避けた方がいいと思う。俺がここに来れたのはあっちでの騒ぎがあってこそだ。まぁ、無くてもそのうち気付いただろうが、起こった現実を無いことには・・・多分しない方がいいと思うんだ。矛盾は出来るだけ無くしたい。どうしたもんかな?」
「騒ぎって・・・もしかしてニュースとかでやってるってこと?」
「いや、それはないが少なくとも警察は動いてた。周辺に予防線張ってるって言ってたし。あと、柾木さんが自分とこの伝手も使ってるみたいなことを言っていたから、結構な人数が動いてることは間違いない。」
「要、ちゃんと確認してこなかったの?らしくないなぁ。」
「おまっ、今それ言うか?金と警察権力つぎ込んだ大人が人海戦術使ってガンガン捜査してる真っ最中だったんだよ。あの状況で家族でもないただのガキの俺にどう口出ししろと。てか、お前が心配でそれどころじゃなかったんだよっ!」
あっ、そ、そうですか。すいませんほんとこんな所まで迎えに来てもらって。
ストレートな言葉はいつもと何ら変わらないのに妙に気恥ずかしい。要を意識してしまってから言葉の端々が気にかかる。もしかして要はいつもそういう目で私を見てくれていたのかな・・・まさかね?でもあの時もそんなことを・・・不意に脳裏に浮かぶ要の顔。暗闇の中、見たことも無いくらい熱っぽい目で私を見下ろして・・・うわわわわっ、思い出したそういえば私、要に裸・・・見られたうえにあんなところ・・・・!
「お前人の話聞いてんのか!?だいたいいつもいつもどこぞのナルシストやら思い込みの激しい運命論者やら訳の分からんもんにばっかり好かれやがって毎度毎度撃退するこっちの身になれってんだおまけに今度は異世界産馬鹿王子サマだぁ?何だお前変態ホイホイでもくっつけてんのか?そうすると一番最初に引っ掛かった俺も変態ってオチか、おお?」
人様にはけして言えないようなことで頭がいっぱいでアワアワと挙動不審な行動をとる私を、もう一人の出演者であるはずの幼馴染は甘さの欠片も無い凶悪な笑みを浮かべて睨みつけてきた。怖い怖い怖い怖いっ、怖いからっ!頭に上った血が一斉に下がる。
「恐らく、報道はされていないと思うわ。柾木の事もあるけど、通常誘拐事件を視野に入れているなら暫くは公開捜査は控えるはずよ。・・・要君、私達がいなくなってから三時間くらいが経過していたと言っていたわね?」
蛇に睨まれた蛙状態の私達を窺いながら、おずおずと真美子さんが口を挟む。要さん!?なんか、チッて聞こえてきたんですけど!?
私に最後の一睨みをした後、何事も無かったかのように真面目な顔で皆に向きあった。
「はい、その時初めて菜乃が置いて行った携帯に召喚の陣の痕跡があることに気付いたんです。正直、それに気付くまで、まさか皆さんがこちらに召喚されているだなんて思いもしなくて。すいません、俺、思いっきり関係者だったのに。」
「関係者、というと・・・やはり君が『勇者』なのかな?」
あっさりと尋ねる葉月さんの言葉に要が「うっ」と呻き声を上げる。
「ええ、まぁ。物凄く不本意ですが、そのような扱いを受けたのは事実です。」
みるみるうちに顔を赤らめながら私を横目で見降ろした。今度は一体なんだ。
「・・・そんな状況じゃ、ちょっと出てました、じゃ済まされそうにないのか。」
「ええ、防犯ビデオもそうなんですが、柾木さんはお子さんを残してきている。自発的に、っていうのはちょっと無理があるかと。いや、本当は理由は何でもいいんです。とにかく説明が付けれれば。最悪なのはこの件で変に注目を浴びてしまうこと。いろんな意味で悪目立ちは避けたいんです。」
葉月さんの意見に同意する要。そうか、いろいろ考えてくれてるんだ。
「まさか本当の事を話す訳にもいかないしね・・・。」
真美子さんもうんざりといったようにため息をつく。
あれやこれやと考えるも、こんな状況を不特定多数に上手く納得してもらえる案なんかなかなか出てこない。すぐに行き詰った話し合いに終止符を打ったのは、どんなときでも頼れる女性、葉月さんだった。
「・・・普通に警察に突き出せばいいんじゃないか?」
全員が彼女の方を向いた。
「えっ?」
「犯人。」




