双月、愛し子を腕(かいな)に。
「リラさん・・・?」
今どこから現れたんですか?魔法?これも魔法なのかな?ていうか、この空気の中でいきなりど真ん中に出てくるなんて、王妃様のメイドさんって・・・。
しかしメイドさんなはずのリラさんは昨日のようにお仕着せじゃなく、髪の色に合わせた真っ赤なドレス姿だった。白い肌に凹凸の激しい見事な体型がとても艶っぽくてイメージが全然違う。そして、その腕をがっちり組んでる青い髪の男性は一体誰?赤毛のリラさんと並ぶとコントラストが大変美しくいかにもフャンタジー。
またもや新しい顔ぶれに、ただでさえパニックな状況が一層酷くなっていく。誰かこの状況を一から説明してほしい。いつもその役をやってくれる幼馴染を見つめて見るが、要はこちらを見返すどころか、より目を爛爛と輝かせて二人を凝視していた。
「あんたら・・・。そういえばあんたらがいたなぁ?・・・なのに何で菜乃があの状況に陥ってる?こいつが名前を知ってるってことは、話に首は突っ込んでる・・・よなぁ?勿論。」
あれれ?知り合い?と安心する暇もない。要はまたもや意味の分からない事を言いだして、今度はリラさん達に殺気をぶつけ出した。ちょっと!
「ちょ!待った!落ち着くんだ、カナメ!話せば分かる!これでも・・・」
「ウルサイ潰す。」
「えぇ!?そんなっ!言い訳ぐらい、っうわっ!ちょっと!コレ本気な奴じゃないかっ!!」
「死ね。」
「うわわわわっ!!!」
バスケットボール程の大きさの火の玉が次々と青い髪の男性に向けられる。結構な早さのそれをすいすい避ける男性。最初はまたかと焦ったが、様子を見る限りどうやら本気で当てるつもりはなさそうだ。威圧感はもう感じられない。
どうやら二人は仲良しさんらしい。道場でもこういうのよく見かけたなぁと一人懐かしく思う。不意に思いだした日常に、忘れていた大切な事を思い出す・・・そういえば、私達帰れるのかな?要が迎えに来てくれた事で不安が一気に吹き飛んですっかり安心しきっていたが、結局どういうことなのかはさっぱり分からないままだ。そして私はともかく、真美子さんや葉月さんには不安が残ったままに違いない・・・本当にこの事態、どうするの・・・?それぞれ散らばっていた頼れる大人の女性三人を順番に見渡す。何故か三人共が生温い目でじゃれあう二人を眺めていた。
私の目線に気付いたのか、同じ思いだったのか、結局三人共私の方に近寄ってきた。
「とりあえず、どうしたものかしらね?本当に今更だけど、何が何だか全く分からないわ。」
「当事者のはずなんだがねぇ。」
そりゃそうだ!やっぱり誰かにきちんと仕切って貰わないと・・・なんか知ってそうな頼みの綱の要も今は全く役に立たないし。
「ほ、ほんとすいませんっ!要が話をややこしくて!私、すぐ止めて来ますから!」
とはいえこの炎の中どう飛び込んでいけばいいのやら・・・。困っている私達をよそに、最後の一人が前に進み出た。
「ふふふ、私に任せてぇ。」
・・・・・・・・・・。
とりあえず、リラさんは最強でした。・・・ハリセンって。何処から。
「さて、とぉ。落ち着いたところでぇ・・・ナノちゃん?」
「はっ!はいっぃ!?」
「本当にごめんなさい。守ると約束したのに・・・。」
「そうだ、そこだ。なぜあんたらが着いていてこんな事態になった?」
えっと、本人まだ何も発言していないんですけど。
「こっちも最大限には頑張ったんだよ?一応召喚にはすぐに気付いたんだけどね・・・召喚陣があまりにもお粗末すぎて、フォローするので手いっぱいだったんだよ。放置すれば彼女達は勿論、この世界もごっそり持っていかれる所だった。この国分くらいは軽く逝ってたんじゃないかな?彼女達がいなければそれもまた自業自得で構わなかったんだけど・・・。
すぐリラに様子を見に行かせたんだけど、彼女達の状況も環境も心証も最悪。僕は僕でこの馬鹿のせいで世界が安定するまで身動きが取れない。おまけに人数は三人、ある意味奇跡かもしれないけどね。そういった意味では、確かにあの馬鹿は優れた術師だったんだろう。でももし彼女らの逆鱗に触れて全員すぐさま覚醒していれば、折角しのいだ世界の崩壊も一瞬でアウトだ。せめて彼女達の人となりを把握して、暴走させないように様子を見るしかどうしようもなかった。彼女達が人格者で本当に良かったよ。」
「しかも、その理由がただの個人的な欲求の為だっただなんてねぇ。こんな事をやらかす馬鹿は当時の人間にもいなかったよ?本当に無知って時に何よりも恐ろしい脅威になりうるね?冗談抜きで世界が滅びる所だった。ねぇ?アードキュールの?」
「っ!はっ!!」
最初はふざけた感じだったのに、話が進むにつれ、青の人の雰囲気が変わっていく。声音はむしろ穏やかに、厳かに、幼い子供に言い聞かせるように優しげだ。しかしその鋭い眼光が全てを裏切っている。
「君の息子はねぇ、人がけして手を出してはいけない領域に手を出してしまった。個人の力では到底制御不能な陣を無理に発動、暴走させ、挙句の果てにその事態に気付きもしない・・・、一歩間違えれば、というより僕達が介入していなければアードキュールは一瞬で消滅、バランスを急に崩した世界も徐々に崩れ落ちて行っただろう。これでもまだ事の重要性が分からないのかい?知らなかったからでは済まされないんだよ。」
「あ、貴方様は・・・一体・・・。」
「・・・馬鹿な君達にも分かるように教えてあげる。異界から人を召喚するのはね、双月の魔力の源としての生贄にするためだよ。ずっとずっと昔、今の歴史が記すよりも遥か昔に創られた最大級の陣。今となっては古代の痕跡を残す唯一のものだよ。信じないなら見せて上げよう。纏めて月を見に行っておいで。その身を持ってこの世界の理を知るといい。どうしようもなく愚かで醜い愛し子達よ。」
厳かに告げられた言葉が終わるより早く、広場の隅でただ脅え跪いていた集団は一斉に姿を消した。
「・・・・・消えた。」
光の柱やら球やらで少しは慣れて来たけど、ほんとになんて世界なんだここは。
「皆さんは何処へ?」
誰にともなく呟いた私の言葉に答えたのは恐らく実行者の青の人。
「大丈夫、死んじゃいないよ。ちょっと見学がてら力を吸収しているだけ。お仕置きには、自分の仕出かした事の大きさを身を持って知ってもらうのが一番だからね。なに、人間にはちょーっときっついかもしれないけど、ディリスクラートの民皆が耐えた事、王城に集う優秀な者達ならきっと無事に帰ってくるよ。」
優秀じゃない者達の事は分からないけどね?
その瞳の奥の険にぞっとする・・・も、一瞬で険しさが和らいだ。
「さて、じゃぁ、落ち着いたところで、異界より連れ攫われた皆様、この世界の守人として心から謝罪します。我が愛し子達が馬鹿な事をしでかしてしまいお詫びのしようもない。皆様方には出来るだけの事はさせて貰うつもりですが・・・、どうしたものかね?まずは事の次第を説明させて頂こうか?」
重苦しい空気をガラッと変えて、青の人は私達に誠意を持って謝罪する。まだ20代前半くらいの人なのに、恐ろしく雰囲気のある人だ。何故か目が離せない。懐かしさすら覚える。皆もこんな風に感じているのかな。
そしてこの言葉に一番に反応したのは何故かリラさんだった。
「そうねぇ。それは当事者として当然よぉ!そのあとぉ、慰謝料を用意させてぇ、最高級のもてなしを受けて頂きましょう?専用の宮殿に、召使い、贅を凝らしたドレスに宝石は当然ねぇ。後はぁ、世界中の王族から貴重品を貢がせてぇ、この世界の観光名所を巡る豪遊の旅も絶対だしぃ、世界中の美男子を傅かせてみるのも面白いかも!いっそここの王族を全員排除して乗っ取ってみる?ここは王族はアレだけど芸術が盛んでなかなかお勧めよぉ?いい男も沢山いるし!」
・・・それってご自分の願望では・・・。
「・・・最初はともかく最後のは な に か な?リラ?君にそんな願望があったなんてぜんっぜん知らなかったなぁ・・・?」
「え?いやぁね、私の事じゃないわよぉ!世間一般の女の夢を例に上げて見ただけじゃなぁ・・・い・・・?」
「へぇ?世間一般ねぇ。ねぇ、知ってる?人がその言葉を使って例えるときは、勿論自分もその意見を肯定しているって証拠だよ。つまり君の意志でもあるってことだよね?」
「い、いやぁあ・・・そんなぁ・・・ねぇ?」
「リ・ラ?」
あの、痴話げんかなら後でお願いしたいのですが。
「ちょっといいか?」
軽く挙手してそういったのは葉月さん。リラさんが救世主をキラキラした目で見つめた。にこやかな青の人の方から何かチッって低い声が聞こえてきたけど・・・気のせいよね?
「どうしました?」
「先に確認させて貰いたいのだが・・・」
私達は顔を見合わせた。
「とりあえず、家には帰れるのか?」
こうして数時間後、神の意志も崇高な使命も何もない、ただ強い奥さんが欲しかっただけという一人の痛い男の何とも情けない理由から起こった私達の世界を超えた誘拐事件は、あっさりと幕を閉じた。
************
「あーあ、帰っちゃったぁ。リクの馬鹿ー!せっかく暫くいい暇潰しが出来たと思ったのにぃ!」
「馬鹿な事を言って僕を怒らせるからだよ・・・まぁ、それは後でじっくり話し合うとして。文句ばっかり言わないの。彼らが選んだ事なんだから。僕だってまた要に会えたのは何よりも嬉しかったんだよ?なにせ彼は『僕じゃない僕』なんだから。」
「・・・置いておかずにその場で水に流すべきよぉうん。・・・そうよねぇ、まさか要にまた会えるとは思ってなかったわぁ。不思議な子。貴方じゃないのに貴方と同じ色をしてるの。確かにあの子なら貴方を失くした後も少しは愛せたかもしれない・・・そして、それでも貴方じゃない事に絶望するんだわ。今までの『私達』のように。」
「いや、きっちり覚えておくよ。・・・彼女もリラと同じ色をしていたね。もし要があの時逆らわずに運命を受け入れていたら、彼女も遅からず君の元へ来ていたはずだ。次代の『赤』として。・・・最愛の人とお互いだけを見ていられるこの世界を躊躇い無く蹴ることが出来るなんて・・・要は本当に不思議な子だ。こちらに来た時に、強烈な誘惑を植えつけられた筈なのに。」
「・・・そうなの?」
「ああ、僕の時もそう。ここで僅かな時を我慢すれば、世界中の誰にも邪魔されずに君を手に入れられることが分かったら、・・・家族も国も、王太子のとしての立場も・・・何よりも大切な女性が父の物になるという残酷な現実も、何もかもいらなくなったんだ。
本当は僕達の邪魔をする全てがずっと厭わしかった。捨ててしまいたかった。だけどそれをすれば国が傾く・・・自分ではどうにも出来ないまま、ただ時間だけが過ぎて。・・・これでやっと君が手に入る。召喚された時にまず覚えたのは強烈な歓喜だったよ。後はひたすら君じゃない君が、僕じゃない僕を思って嘆き悲しむのをただ見ていた。・・・君が泣いているようで辛かったな。」
「その話、初めて聞いたわ。」
「ああ、初めて言ったからね。・・・言ったろう?『君の為なら全てを捨てる』と。きっかけを貰わないと実現出来なかった僕を怨んでいるかい?」
「・・・いいえ。」
「要達は誰ひとりこの世界を望まなかった。僕達と違ってね。・・・そのおかげで、こうしてこれからも君と二人で笑っていられる。」
「・・・ええ、そうね。」
「感謝しよう、僕達を呼んでくれたこの世界に。・・・精一杯愛そう、僕達の愛し子達皆を。」
「うん。」
二人の眼下には、慎ましくも懸命に生命を営んでいる沢山の小さな灯と、何処までも続く雄大な大地が広がっていた。愛し子達は、今日も双月の慈愛の光に感謝の祈りを捧げながら、幸せな眠りに就いているーーー。
「・・・と話が奇麗に纏まったところで、次は君のハーレム願望についての議題に移ろうか?」
「えっ!えぇええ!?いや!あの!・・・ええええぇぇぇぇぇ・・・!?」
「ふふふ、お仕置きするには事の大きさを身を持って知ってもらうのが一番だから、ね?」
またもこんなに遅れてしまいました!次回、ようやく最終回です。なかなか進まないお話にお付き合い下さる皆様に心から感謝を。評価・感想・お気に入り登録・ユーザー登録をして下さる皆様に狂気的な愛を(キモい?ごめん)、とにかく一瞬でもいいんで読んでくれたら凄く嬉しい。いつも本当にありがとうございます。
ついでに、本日の活動報告に七夕馬鹿話載せてます。良かったらどうぞ!




