表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/38

幼馴染、珠を掌中に取り戻す。

二話連続投稿です。 2/2

 瞑った瞼の先に赤い光の洪水を感じ、覚えのある感覚に術が成功したことを知る。


 

 目を開くと、巨大なシャボンの膜の向こうには誰もいなくて、見慣れない様式のだだっ広い部屋に立っていた。


 窓には青空が広がっているため、昼近い時間なのだろう。今は機能していないが、照明が壁かけの松明しか無い為、先程のホテルでも、エルザの王宮でもないことが分かる。

 便利なものに慣れ切った現代人の自分には、日暮れとともに真っ暗になる生活には耐えられなかった。何より日暮れ以降の時間が使えないなんてもったいない。異質な文明を持ちこむことの是非など知ったこっちゃないと、身の周りは全て自分が過ごしやすい・・・つまり陣を研究しやすいように勝手にリフォームした。それを見た城の人間が真似をしようとそれこそどーでも良かった。帰る頃には、それなりに華美だが機能的とは言い難かった城内は、利便性を追求しかつ綺麗好きの日本人にも絶賛されるだろう三ツ星ホテルへと立派に変容していた。



 ・・・アードキュール、か。


 幻想的なシャボンの膜を躊躇い無く霧散させる。この場に誰もいないのがいいのか悪いのか、とにかく菜乃の気配を探ってみるも、城内には確かな気配が感じられない。


 っくそ!菜乃が来てから時間がずれてんのか?残り香のような気配は感じられるが、存在がぽっかり消えている。移動させられたか?苛立ちで魔力が体内から漏れて空気中で渦を巻いているのが分かった。それで自分の魔力がフル充電されているのが知れた。


 ・・・柾木さんに頼む必要無かったな。


 まぁいい。とにかく、誰か捕まえて手当たり次第ボコっていけば騒ぎになって何か出てくるだろう。もしくは手っ取り早く城をぶっ壊していくか。・・・嫌、万が一菜乃が巻き込まれたらいけない、却下だ。


 罪悪感は向こうに置いてきた。外道な案を実行するべく室内を出ようとドアの方を向いたその時。



 「誰だっ!」



 ドアを開けた若い騎士が俺に気付いて誰何の声を上げた。その先に見えるは、この国での見せしめに最も適した男。



 「よーお。丁度いいとこに来たな。・・・菜乃はどこだっ!!!」


 「ぐはっ・・・」


 「陛下っ!!」



 俺の顔を見て一瞬で顔が青ざめたアードキュールの国王。一瞬で距離を詰めてその太く鍛えられた首を片手で掴みあげ後ろに壁に叩きつけた。ぞろぞろとくっついていた騎士達が背後で何か騒いで攻撃してくるがもう遅い。やれるもんならやってみろ。後ろを振りかえりもせず思い切り魔力で振り払った。轟音が鳴り響く。



 

 「菜乃だよ。女三人召喚しただろ?さっさと返せよ。」


 「・・かっ・・は・・」


 「コ ロ ス ぞ。さっさと居場所を話せ。俺の女だ。お前等が召喚したのは分かっている。どこにやった。かすり傷一つ付けてて見ろ。・・・この国の未来は無いと思え!!」



   ミシミシミシミシ


 首を思いっきり締め付ける。骨が軋む音が聞こえたが構わない。




 「勇者殿!!それでは声が出せません!どうかお手をお離し下さいっ!」



 国王を締め上げたまま目線だけで背後を確認すると、見覚えのある顔の少し年上の男・・・王太子が頭から血を流しながら必死の形相で俺を止めようとしていた。更に後ろにはぶっ倒れた騎士達が二ダースほど、狭い廊下に積み重なって倒れている。



 「ッチ。」


 「ぅぐっ・・・かはぁ・・はっはっ・・」


 「陛下っ!!」


 使い物にならない国王の体を騎士達の上に放り投げる。流石に王太子は俺に背を見せ駆けよるようなことはしなかった。遠くで人がこちらに集まってくる気配がした。・・丁度いい。



 「少し前に俺の傍から女性が三人召喚された。召喚場所はここ、アードキュール。・・・あれだけ、召喚に関して脅しておいたのに、こんなことを仕出かすんだ。お前ら覚悟は出来てるんだろうなぁ?ええ!?」



 俺の怒気を一身に受けた王太子は、恐怖に蒼褪めながらも何とか口を開いた。



 「っ・・。勇者殿。我々はたった今、エルザでの首脳会議を終え帰国したばかり。申し訳ないが、詳細が未だ・・・っっつ」



 時間稼ぎのつもりか、ごちゃごちゃ言い訳をしだした王太子の言葉を全部聞き終えるまで待てずに、奴のギリギリ横の壁を術で容赦なく破壊する。



 「さっさと調べろっ!!手を出したのは城内の誰かというのは間違いないんだっ!術の行使には膨大な魔力が必要だ。個人で賄える量じゃない。多数の人間が関わっているはず。お前らが知らないというのなら・・・。」


 「ひっ・・・!」



 「知ってるやつに聞くだけだ。」





 ああ、菜乃。今すぐ行くから。



 



  





 そこからのことはあまり覚えていない。


 案の定隠してやがった内容は、帰国中に弟が不審な動きを見せていると報告が入り、急いで帰国し確認の為呼び出そうとしている最中だったとのこと。すぐに白状しなかった所に保身が見え隠れしていて、今すぐ沈めてしまいたかったが、そんなことをする時間が惜しい。奴の首根っこを掴んだまま、誘拐犯の部屋へ無理やり転送させた。


 そうして無理矢理押し入った部屋の中の光景を目にした瞬間、もう体は動いていた。


 ひたすら。ただひたすら誰かを殴った。愛しい人の背中に覆いかぶさりその細い首に口づけしている男を目にして、頭が沸騰して考えることを拒否した。人生でこんなにも頭にキたことは間違いなく初めてだと断言できる。とにかくそれを引きはがし、壁に放り投げ、床に落ちる事も許さず、殴って殴って殴って殴って・・・。



 「か・・・なめ・・?」



 懐かしい声に名前を呼ばれて初めて、自分が何をしているかに気がついたくらいだ。


 反動でそいつの体がどこかに飛んで行ったが、欠片も興味がわかなかった。



 そうだ菜乃・・・、大事な大事な菜乃は、呆然とした表情とは裏腹に、その露わになった白い肩を布で覆い隠そうと必死だった。



 「・・・要・・・?なんで・・・ほんとに要なの?」



 顔じゅうを涙で濡らした菜乃の目が暗く濁っている。間に合わなかった・・・のか?くそっ!菜乃は滅多に泣かないんだぞ!それをあんな奴に!!



 「すまん。遅くなった。」


 露わな肌が痛々しくて、着ていたシャツを被せ服の中に引き込む。


 そのまま、腰を引きよせ、きつくきつく体を抱きしめた。


 ・・・あんな奴に最初に触れさせるなんてっ!



 「菜乃。・・・菜乃。やっと・・・。会いたかった。」


 「・・・要・・・要っ!!気持ち悪い!きもちわるいよぉ・・・!!」


 泣きながら菜乃が俺の背中にしがみつく。その服を掴む指の強さに、どれほどの苦痛を強いられたのかが良く分かる。


 「要、私!わたし、もう駄目かと思った。このまま・・・汚れて、腐って!」


 これ以上こんな言葉を言わせるつもりはない。


 「菜乃。大丈夫だ。・・・もう大丈夫、お前はどこも汚れてなんかいない。」



 顔が見たくて少し離そうとした体を、菜乃の腕が離れまいと必死で食い止める。可愛くて愛しくてどうしようも無い。声をあげて泣く菜乃の背を撫でながら、遅すぎた自分を心の中で殺してやりたいぐらい罵った。

 菜乃は全裸という訳ではなく、一応薄いワンピースのような物を身に着けていた。・・・ギリギリ、か?いや、攫われてから大分時間が経った後かもしれない、もう何度もあの男に傷つけられたのかも・・・っ!!


 泣いている彼女を抱きながら考える事ではない、そう分かってはいるが、過った考えが頭にこびりついて離れない。守れなかった事が悲しくて、苦しくて、菜乃以外の全ての物を、今すぐ何もかも破壊しようと立ち上がろうとしたのを引きとめたのもまた、菜乃だった。



 「要・・・。助けてくれてありがとう。」


 抱きつく力はそのままに、自分の腕の中から見上げてくる菜乃の瞳に、光が戻っていた。それでようやく、菜乃が無事だった事を知る。後悔に塗れ苦しくて悲鳴を挙げていた心臓が急に正常に戻った。


 「・・・助かったのは俺の方だ。」


 「・・・えっ?」


 「・・・何でもない。どこか痛む所は無いか?」


 「触られて・・・気持ち悪い・・・位。・・・何か変な術で、体が全然動かなくて・・・声も、出せなくて・・・!」


 「うん。」



 また涙が溢れてきた。頬を両手で覆い、両の親指で止まらない涙をぬぐい続ける。


 

 「もう、だ・・・め、だって!諦めて・・・い、やで嫌で・・・かなめっ、て!ずっと、要助けて、って呼んでた・・・来てくれた・・・。」


 そう告げてまた俺の胸に顔を埋めてくる愛しい女。


 もう、いろんなものが限界だった。



 


 



 「どこを触られた?」


 「へっ?」


 「消毒だ。」




 赤く柔らかそうな唇に噛みついた。



 人前だとか、菜乃の親父さんとの約束だとか、今まで自分を戒めていた沢山の鎖はこの場では何の役にも立たなかった。ただ、自分の大事な大事なものを、やっとこの手に取り戻せた事を実感したくて。

 壊れた思考のままに、菜乃の名前と、ずっと隠してきた感情を何度も何度も繰り返して、恥ずかしがる菜乃をむりやり押し倒し、その滑らかな肌を、この手と唇で思う存分確認した。



 我に帰った時にはすでに遅く。かろうじて纏ったままの薄い衣一枚の菜乃が涙をぽろぽろこぼして泣いていた。



 「・・・っすまん。」


 「そんなとこまで触られてないもんっ!・・・要のばかっ!」


 

 


 俺の目をみて気丈に話す様は、変わらない菜乃そのもので。何よりその心が守られていたことに感謝した。





やっとここまで!



*追記・・本日の活動報告にどうでもいい小話が載せてあります。宜しければどうぞ。たまにそういう小話を『馬鹿話!』というタイトルでアップしてたりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ