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主人公、じっと我慢する。

 いつの間にかうつらうつらしていたのだろう、窓の外が明るみを帯びてきていた。

 なんだか外が騒がしい。大人数がこちらに向かっている気配がする。


 二人を急いで起そうとした時ーーー。



 リラさんと同じ服を着た侍女さん達が大量に室内に押し寄せ、無理やり自分だけ連れて行かれそうになった。

 こんな所で二人と離されてたまるか。壁にかじりついて三人一緒じゃないと嫌だと思いっきり反抗した。ええい!相手が女性じゃなかったら暴れるのに!


 反抗の甲斐あってか、なんとかその主張は認められて、さっきの何もない部屋からいきなり豪華絢爛な部屋に三人共押し込まれ・・・。


 そのままあれよあれよとお風呂で磨かれ、気が付いたら私だけが、この、壊れたおもちゃのように同じ美辞麗句をひたすら繰り返す、頭の足りない上に厚かましい、最大級に痛い男の、やんごとなき人しか足を踏み入れる事の出来ないというプライベートなお部屋につれて来られたのでありました・・・。はぁ。







 という訳で・・・私、橘菜乃16歳。只今御歳12歳の守られるべき・・・・・・少女として、可愛らしくドレスアップされ、第二オウジサマと面会中であります。




「ああ、我が幸運の姫君。なんと愛らしい姿をしているのか。どんなに美しい花の妖精でも、貴女の天使のように神秘的で可憐な美しさを前には姿を隠してしまうことでしょう。」



 「・・・はぁ。」



 さっきから、鳥肌大量生産しすぎて、だんだん慣れてきてしまった。


 この男は、私にとっては、自分が誘拐した上に一晩牢屋にぶち込んだ男だという自覚も無く、仕出かしたことに反省の欠片もない。

 顔を合わせたとたん、月だ花だ太陽だと私に向かってあらゆる美辞麗句を捲し立て、こちらが話す隙も与えてくれない。


 そろそろ本気で気持ち悪いからやめて欲しいんだけど・・・。一発殴ったら黙るかなぁ。もうやっちゃっていいかなぁ。







 

 この世界での物語を聞き終えた私達に、今は国王陛下達が帰還されるのを待つしかないという結論を告げた後、それまでの具体的な打ち合わせをすることになった。とりあえず、痛男から私に対して何かしらのコンタクトがあるだろうという事。



 「殿下はぁ、恐らく自分の魔力の強さに酔っているんだと思うの。一年前の事件で、王太子殿下と僅差とは言え、国内一の魔力量を持つということで世間から称賛されたわぁ。生まれて初めて、王太子殿下よりも自分に注目が集まったのが忘れられないんじゃなぁい?でもぉ、双月は無事に私達の元に戻った。平時では、ただ魔力のみが僅かに高いと言うだけじゃ、あの男に跡継ぎレースの勝ち目はないわぁ・・・積み重ねた実績が違うもの。正直、それぐらい僅かな差しかないのよぉ、お二人は。

 だからぁ、今の状態でこんな魔力の塊のようなナノちゃんをあいつがそうやすやすと見過ごすはずがないわぁ。」



 「でも、国王様がもうすぐ帰宅されることは王子も知ってるんだろう?そんな状況なら、タブーを犯した自分の分の悪さを分かってるんじゃないか?」



 「そうねぇ・・・。何か策があるのかもぉ・・・。とにかく今の状況はあちらにとって予想外の筈なのよぉ、あなた達を召喚してぇ、すべて秘密裏に事を進めるつもりが、ナノちゃんから思わぬ反撃を喰らってぇ・・・。たしかにあの爆発がなければだれも築かなかったもの。本来なら、何もわからない状態で上手く丸めこむかぁ、脅すかなんかしたら言うことを聞かせるなんてわけないと思ったんじゃなぁい?それか自分に惚れさせるよっぽどの自信があったのかぁ。」



 「・・・ふむ。」



 「あそこで全員が意識を失ってしまったのは手痛い失敗ねぇ。おかげで何も知らない外部の人間にあなた達を囚われてしまってぇ。あいつらはまだ気を失ったままなの。そのおかげで私達が動くことが出来たんだけどねぇ。じきに目が覚めてこちらに使いを出してくるはずよぉ。

 ・・・出来れば、あちらにはまだ油断させておきたいのよぉ。王妃があなた達にコンタクトを取ったなんて知ったら、どんな強硬手段をとってくるかわかったもんじゃないわぁ。・・・下手をしたら全員反逆罪で問答無用で殺されちゃう。」


 「あなた達は私達にとってぇ、いろんな意味で咽から手が出るくらい欲しい宝物なのよぉ。もちろん、ナノちゃんだけじゃなく、真美子や葉月もねぇ。勇者の恩恵について知れ渡っているこのご時勢に、新たな異世界の知識を持つ美しい女性なんてぇ、例え表に出せなくてもぉ、どんな高値がつくか想像もできないわぁ。・・・意味は分かるわね?」




 その眼差しの強さに、思わずごくりと唾を呑んだ。



 つまり、今ここで動くのは、私達にとって逆に危険だということだ。王妃が匿うにも微妙に立場が低く、無茶な事をされれば一溜りもないらしい。外に出るのも論外。大人しく、あと数日だけをやり過ごして陛下の庇護を待てばいい。




 「大丈夫。私に案があるの。単純だけどぉ、一番効果的。」



 

 そうして私は12歳の少女になった。










 「あの・・・。い・・・イェアル王子様・・・?」



 「ああ失礼!私としたことが、貴女の双月の光の元だけで咲くというリオの花の様な愛らしさに我を忘れて、肝心なことを忘れていました。」



 「あのですね。どうか私達を・・・」



 「愛しの姫君、あなたのお名前を呼ぶ権利を私に与えてくださいますか?」



 やっと話が出来ると行き込んだ私の出鼻を、またもや痛男がぶった切る。ああもう!ほんとうっとおしい男だな!やっぱり鳩尾に肘鉄かましてやりたい、今すぐに。

 結構本気で考慮するが、いかんいかん、耐えるとリラさんと約束した。連絡が来るまでもうちょっとの我慢だ!頑張れ私!聞き流すんだ!私はやればできる子!




 「・・・申し遅れました。私は橘菜乃と申します。」



 「タチバナナノ、ですか!なんと愛らしい名前だ!まさに姫に相応しい。では私に、貴女の名前を呼ぶ権利を下さいますか?」



 気持ち悪い。



 「・・・ええ。どーぞお好きにお呼び下さい。」



 「タちバナ・・・。tチバナ菜ノ・・・。そうか、《橘菜乃》、だな。」




 何度か私の名前を口の中で呟く痛男。言いなれないのか、やはりイントネーションがおかしかったのだが、最後だけはきちんとした発音で言えた。


 そして丁度その時、ピリッとした静電気のようなものが私の体を走った。


 ・・・なんだ?




 「さて、と。もうそろそろよいな。」



 「・・・何がですか?」



 ふいに、今まで顔に張り付けていた嘘臭い笑顔を止め、真顔で立ち上がった痛い男。



 「こちらに来い。《橘菜乃》。」




 痛男にそう、名前を呼ばれたとたん・・・。確かに感じたのは不快感だけだったはずなのに、気が付けば私は自分の意思とは無関係に、自ら立ち上がって痛男のすぐそばまで近寄っていた。



 「えっ!ええっ、なんで?」



 「騒ぐな。《橘菜乃》。・・・間違いなく本名のようだな。間抜けな女だな。わざわざ自らを縛る鎖を差し出すなんて。」



 「どういうことっ!!」



 騒ぐなと言われたとたん、大きい声が出せなくなった。しまった。こんな掠れた声じゃ外にいるリラさんに聞こえない。



 「名による制約を掛けた。これでお前は名実ともに私のものだ。せいぜい私の為に鳴け、『幸運の姫』よ。」



 一気に自分の血の気が引いて行くのが分かった。名って・・・、本名を教えたから?リラさんからははそんな注意を受けた覚えはない。



 「はっ、その顔。やはりすでに誰かと通じておったか。察するに継母上といったところか・・・。あの方も生温いことよ。気がついたなら、さっさと我がものにしてしまえば良いものを。・・・もっとも、『名の制約』に関しては、召喚の陣と同じく秘された古の聖なる術式。知らぬで当然。」



 「名の制約?」



 「そう、異界の者の魂に刻まれた名を使い操る術のことだ。・・・惜しいことに、この術はこの世界のものには効かなくてな。これがもっと使えるものならば、このような面倒なことをせずとも、さっさと国を私のものに出来たものを。

 ・・・おや?何だその目は。心外だな。この私の妻になれるのだぞ。感謝してほしいくらいだ。それに、散々お前を褒め称えてやったではないか。この私がお前ごときを請うなどと、本来ならあり得ない。身の程を知るがいい。

 ・・・これも全ては王位のため。不本意だったが仕方あるまい。」



 「・・・・・!」



 あまりの言い様に腸が煮えくりかえって言葉も出ない。



 「お前は姿形はいまだ幼げで凡庸だが、磨けば光ろう。何よりも強大な魔力を持っている。我が国最強と言われたこの私よりも、だ。もしかすると、かの勇者とやらよりも強大やもしれん。その力、お前が持っていても宝の持ち腐れだ。この私が全て有意義に使ってやろう。これで我が国も安泰だな!

 よし。では早速、契りを交わし、繋がりを確固たるものにしようぞ。《橘菜乃》こちらへ。」



 「契り・・・って?」



 「・・・お前を私のものにするということだ。」



 そう言って、嫌らしく顔を歪めながら痛男は私を伴い、部屋の奥にあるドアを侍従に開けさせた。



 嘘っ!まさか本気で言ってるの?リラさん言ってたじゃん!未成年の子供に手を出すのはどんな人間でもタブーだって!破ったら、男としていられなくなるって・・・、だから自分から接触しなければ問題ないって!



 「いや・・・!私はまだ12でっ・・・!」



 こうなったら何にでも縋るしかない。思い通りにならない体を痛男に背押されながら、まだ子供だということを必死で主張する。



 「・・・私とて、興は乗らぬが・・・。お前は異界の者。こちらの風習に合わせんでもよかろう。

 兄上がおらぬ間に我がものにしておかないと、横取りされてはかなわぬからな。安心するがいい、後の二人も私の手元に置く。まずはお前だ。子供とは言えその体つき、まぁ幾分かは楽しめよう。」


 

 いやだいやだいやだ・・・・・っ!!



 無理やり入らされたその部屋の真ん中、嫌でも視界に入ってしまうところに、キングサイズのベッドがその存在を激しく自己主張していた。


 まだ日も高いというのに、カーテンで日を遮られ薄暗くなった室内は、香のような不思議な匂いで満たされている。



 肌が泡立つ。必死でもがいているのに指先一つ満足に動かせない体。いや。いやだ・・・。あまりの恐怖に吐き気がする。嘘だ・・・いやっ・・・!



 そうして、体を見えない何かに縛られたまま・・・、振りかえる事も出来ないまま。


 入口のドアは、音もなく静かに、ーーーーー閉まっていった。









 





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