侍女、盗み聞きする。
間が開いてしまい申し訳ありません。
さらりと爆弾発言を落とした女医さん。
遅ればせながらと、「宮沢葉月、25歳。」と自己紹介して下さった。
「あのモールの隣の大学病院で研修中なんだ。それで休憩時間に、ちょっと気分転換も兼ねて食事に来てたところを、ってとこ。」
その落ち着いた物腰で淡々と話す様は正しくお医者さんって感じですね。何かあったら宜しくお願いします、はい。
そうしてすることが終わってしまうと、話はまた戻ってくるわけで・・・。
「・・・どんな手段を使っても、かぁ・・・。」
「反対?」
私のため息混じりの声に、葉月さんが反応する。
「いえいえ、そう言うわけじゃ。・・・ただ、幼馴染がいざというときはそうしろって言ってたなぁっと思いまして。」
「あっ!それってさっき怒られるって言ってた『要』って子?菜乃ちゃんの彼氏なの?」
っって、はぁっ!?真美子さんがニヤニヤと突っ込んでくる。思いっきり楽しんでるな・・・。
「いやいや!ただの幼馴染ですよ!お隣に住んでるからずっと一緒なだけで、兄妹みたいなもんです。すっごい過保護で。」
「えー?何かその慌てようがますます怪しい!」
「はいはい、二人ともすぐ脱線しない。逃避が楽しいのは分かるけど、話を戻すよ。」
「「はーい。」」
葉月さんに怒られて、真美子さんと一緒に首をすくめて笑いあった。
うん!そうだ!泣いたってどうしようもないし、要の言うとおり、助かるために精一杯頑張らないと!
幸いなことに私は一人じゃない。一緒に助け合える人がいるんだから。一人でこんな目にあわされたら・・・考えるだけでぞっとする。
「それじゃあ、作戦会議を始めようか。」
とにかく、私は不思議な・・・ま、魔法?が使えると仮定して、他の二人はどうなのかって話になった。二人は心底不本意らしく、いつまでもぶつぶつと落ち込んでいる。
「ふふふ・・・私、もう28なのに。」
「諦めろ。私だって命がかかって無かったら、絶対こんなことしない。」
「そんなの、16でだって十分恥ずかしいですよ!お二人が言いだした事でしょう!」
その時の光景は筆舌に尽くし難い。考えてもみてほしい。妙齢の女性が三人で、「はー」とか「うー」とか言いながらそれぞれ適当に魔法のまねごとをしているのだ。結果、なぁんにも変化が起きなかったというこの居た堪れなさ。三人ともがこのことを闇歴史として脳内から葬りさったのは言うまでもない。
「・・・なんでこの三人なのかしらね。」
真美子さんがこの空気に耐えられなかったのか、違う疑問を口にした。
「そういえばそうだな。仮にも『王妃に相応しい』って人物を上げるとして、それこそ知識も、教養も、血筋も、容姿も、年齢もぴったりな人物なんて、地球上には腐るほどいると思う。そういうのを全てクリアしてこそ『王妃』なんだろう?失礼な言い方だけど、私達三人誰をとっても条件をクリアしているとはとても思えないしな。」
「そうそう!それに『王妃』に三人も要らないって言ってたし。王子が言ってた『勇者』って人も一人で来たみたいだしね・・・三人とも同じ場所いたから、逆にあの場所に何か問題があったのかしら?」
「あっ!もしかして、その人も地元の人だったりして!」
私も思いつくまま口を出す。真美子さんがその言葉に噴き出した。
「なにそれ?それこそ心霊スポットじゃない!『神隠しのショッピングモール』ね。」
そんなふうにまた二人で話を脱線させていると、葉月さんから思わぬ肯定を頂いた。
「・・・嫌、それってもしかしてあり得るんじゃないか?私達に、じゃなくて、あの場所に原因があるんだったらこの三人だったのも納得がいくかも。」
「えっ?」
嘘?もしかして私良い線いってた?
「そうよ!勇者って人に相談したらどうかしら?同じ境遇の人だし、一年も居たんなら何か分かってることもあるかも!」
「いいな。運よく同じ日本人だったらこちらの味方になって貰える可能性が高い。」
少しでも希望を見出すことが出来て、三人ともテンションが上がってきた。
「でも、どうする?その人隣国にいるのよね。それにあの王子、帰れないって断言してなかった?」
「確かにそれが一番問題だな。何か古い方法みたいなので呼び出されたみたいだし・・・。ただ、あの男が分からないだけかもしれない。
とにかく、勇者って男に繋ぎを取れるような状況を作らないと。そのためにもこちらでの足場固めか・・・。
・・・正直、さっきの真美子さんの交渉方法も、あながち見当違いでもないと思う。この件は王にも王太子にも内緒にしてるって感じだったよな?仮にも王族が、根回しも無しにいきなり『奥さんを召喚しました、奥さん強いから僕王様します』って言い出したとして、周りに認められるものか?話の流れじゃ、慣習でも何でもないみたいだし。だとしたらやっぱりそこらへんが説得材料になると思う。あのお子様じゃなくて、もっと話の分かる大人相手の。」
葉月さんが変な話し方で痛男を皮肉る。葉月さん、結構お茶目さんだったんですね。
「そうよ!こっちの事はわかんないけど、私の時ですらほんと大変だったんだから。一応私の実家も会社を経営してたけど、ただの身内でやってる個人経営で相手とは規模が違いすぎたからね。社内から、親族から、子会社から、散々嫌がらせを受けたわよ!果ては旦那にも覚えのない自称・婚約者まで出てきて、あんときには流石に笑ったわね。なにそれどこの昼ドラ?って。」
ええっ!何ですかそれ!突っ込みどころ満載何ですけど!すっごい詳しく聞きたいんですけど!!
だけどそんな話をしてる場合じゃなかった。葉月さんにさらりとスルーされてしまった。
「そう、普通はそんな感じっぽいよなぁ。それをあえて敢行するってことはこちらでは王族の結婚観が違うのか、それだけ勇者の威光が強いのか、それともただの考えなしの馬鹿なのか・・・。んー、とにかくこの国の情報が欲しいな。」
「そうね、今のままじゃただの空論だわ。何とかして私達の有利な情報を得ないと。となると・・・やっぱり葉月ちゃんの提案通り、武力行使か、出来なければ懐柔策か。ああー!どっちにしても心底嫌だわ!今更だけど!な・ん・で・こんな目に!」
「何とかしてここから逃げ出して、市井で帰る方法を探すって案もある。」
「・・・衣食住何も無し、手がかりも、頼れる人も、お金も無しに?女三人の辿り着く所なんて最悪な想像しか出来ないわ。」
「同感。ってことで、一番ましなのが・・・。」
「様子を見つつ武力行使、ね・・・。」
そこで急に二人に注目されてしまった。えっ、えええっ?なになになに?つまりどういうこと?私に意見なんて全く無いですよ!ただ無事に帰りたいだけです。
相変わらず大人はサクサク話し合いを進めちゃって、私には全く着いていけない。二人とも凄いなぁ、とポケーっと見ていたら、いきなり二人に注目されてやや気恥ずかしい。
「・・・なんか自分が、いたいけな子供を騙そうとする悪い大人になった気分・・・。」
「このままじゃ人身御供だもんな。流石にこの子に頼りっきりって言うのも情けないものがあるし。」
「ええっ!人身御供ってなんですかっ!?」
ちょっとちょっとちょっと!
とんでもなく嫌な予感がひしひしします!と半泣きになりながらも必死で訴えた。すると葉月さんは苦虫を噛み潰したような表情をしながらも説明してくれた。
「これは飽く迄、一つの提案なんだけどね。私達三人は何とかしてここから帰りたい。これはいいかい?」
「はい、勿論です。」
「そのための方法を、本当かどうかは分からないけど、あの男はないと断言した。そうすると帰るための方法を自分達で探さないといけない。」
「はい。」
「向こうの状況が分からないから仮に、だけど。私は今回のことはあの馬鹿なクソガキの一人相撲じゃないかと疑ってて、もっと他に話の分かる人がいないか探したいんだ。もしくは私達に帰って欲しい人達を。その人達を探すにも、いろいろ慎重に作戦を立てないと、さっきみたいに『面倒だから殺してしまえ』ってなるかもしれない。・・・そこで今現状で、私達が交渉に使える手持ちのカードは、君だけだってこと。」
「・・・ええっ?」
「そんな言い方・・・。」
真美子さんが庇おうとしてくれたけど、尚も厳しい言葉は続く。
「言い方を変えても同じことだよ。あの男が君を正妃にすると言っていること、殺傷能力のある魔法が使えそうなこと。ぶっちゃけてしまうと、今は君にしか価値が無い。私達を助けるのも、見捨てるのも君次第だ。」
「・・・私だけ。」
「勿論、君に危害が及ばないように私達も尽力する。何とか三人で一緒に行動出来るようにして貰おう。
・・・今、こんなこと言うのもなんだけど、あの男に聞かれたとき、『処女じゃない』って嘘でも言っておけば結婚の話は免れたんだよ。それはそれで騒いだだろうけど・・・。でもまさかあそこでぼうっとしてるなんて。」
「しょ・・・!ううっ、それは・・・。ごめんなさい。」
確かにあのとき二人は私に何かサインを送ってくれていた。そのチャンスを潰したのは私だ。
えーん、でも彼氏もいたことない、稽古ばっかで恋もしたことない私にはハードルが高すぎる嘘だ・・・。
恥ずかしくて情けなくて、顔が赤くなり俯いてしまった。
「・・・ごめん、卑怯なのは分かってる。」
「・・・葉月ちゃん、私も同じお荷物だわ。嫌な役をやらせてごめんなさい。」
今までで一番気まずい空気が三人を包む。でも、ここで私が頷かないと、話が先に進まないんだ。
「・・・私、考えるの苦手です。」
「うん。」
「だからお二人の機転で、私を守ってくれますか?」
「・・・当然じゃない!」
「ありがとうございます!だったら私も、お二人を守ります!皆で一緒に元の世界に帰りましょう!」
「もし。」
と、その時。部屋の隅の方から、押し殺したような女性の声がした。
私は一気に警戒を強めて二人を背に庇う。
・・・いつの間に部屋の中に入った?この人、気配が全然しなかった・・・。
「夜分に恐れ入ります、お嬢様方。」
薄暗い部屋の中、うっすらとその人影が闇の中から浮かび上がる。
「もし宜しければ、私がその情報源として、貴女様方のお役に立ちましょう。」
そう言った後、恭しくお辞儀をしたのはーーー。
日本各所で見かける人達とは比べ物にならないほど、慇懃な態度で佇む、本物の『メイド』さん、だった。
また話が進まなかった・・・泣
諸事情により、更新ペースが緩やかになっておりまして、大変申し訳ありません。
詳しくは(言い訳は・・・)活動報告にて。




