主人公、激怒する。
主人公、ついに主人公に!
いやいやいやいやっ!
流石にこれはまずい。今更だけど声を大にして意思表示をしないとっ!
「あのっ!!」
「お待ちください!」
「ちょっと待って下さい!」
またも女三人の声が重なる。皆必死だ。
「殿下。先程の私のお話をお聞き入れ下さったのではないのですか?私どもでは、殿下のお役には立ちません!」
「っうるさい!女風情がごちゃごちゃとこの私を惑わせおって。陣に選ばれておきながら既に二人もお手付きだと!私を馬鹿にするのも大概にせよ!」
「ですから、その陣が間違っているのではないかと申し上げているのです。私共とて、こんな恐れ多いお話は本意ではありません。改めて、貴方様に相応しい・・・」
「っうるさいうるさい!!今更そんなことを言ったって・・・!」
ママさんが、女医さんが、交互に痛男に帰還を訴える。しかし痛男は癇癪を起した子供のように足を踏みならし、冷静に詰め寄る二人相手に、ただただ怒鳴り散らしていた。
「もうよい!もともと三人も要らなかったんだ!その顔は惜しいが、私に歯向かう者なぞ不要だ!ケルト!その黒髪の娘以外は要らん。今すぐ処分せよ!」
「・・・・はっ。」
「「・・・・・・っ!」」
よぼじいが短く答える。お姉さま方の息を呑む音が聞こえる。
なっ、なんで?いきなり処分って!・・・殺すってこと?
あまりの痛男の沸点の低さに唖然とした。
「そんなっ!なにも殺さなくてもっ!!」
思わず声に出たが、痛男に逆に怒鳴り返される。
「うるさいっ!お前も一緒に処分しても構わぬのだぞ!」
・・・・・・・・・・。
ムカムカムカムカムカムカムカムカぁぁっ!!!
なんだこいつ!自分で勝手に呼びつけておいて、要らないから殺すだとぉ!?
私が腹を立てている間にも、痛男の後ろでじっと待機していた騎士達が、お姉さま方を拘束しようとこちらに近づいて来た。
・・・させるかっ!!
男が六人。こっちはちろん素手だ。
それでも・・・それでも!このままこの人達のいいようにされてたまるかっ!
先手必勝!
そのまま一番近くにいた男に向かって、飛び蹴りをかます。
えっ・・・?なんか体が軽い・・。
ドゴッ!!
私がいつもと違う体の動きに驚いたと同時に、子供だからと油断でもしたのか、一瞬の攻撃をもろに食らった男が、その勢いのまま・・・・横に吹っ飛び、壁に物凄い音を立てて激突した。
「・・・・あなた、強いのね。」
ママさんが目を見開く。
「いや、いつもこんなんじゃない・・・です。」
せいぜい奇襲をかけて急所を狙い、脳震盪を起させるくらいだ。あんなガタイのいい、しかも武装をしてる大の男をぶっ飛ばす程の力は、私にはない。・・・・試した事はないが。
「・・っこんな小娘相手に何をやっているのだ!さっさとやらぬか!」
怒鳴り散らす痛男の声で我に返ったのか、残りの騎士達が再び動き出す。
とにかくまずは私を抑え込むことにしたのか、左右から二人掛りで襲いかかってくる。
少し早かった右側の男に向き直り、一瞬でその懐に潜り込むと、そのまま柔道の要領で一本背負いをした。男のあまりの軽さに技がもろに決まる。投げられた男自身は、何が何だか分からなかったんじゃないだろうか。勢いが出すぎて、男は床に叩きつけられることなく、またもや進行方向の壁まで吹っ飛んでいった。
やっぱり何かおかしい。男達の動きが遅すぎて、止まっているように見える、何よりあんなに重そうな男の体が物凄く軽い。本来の自分にあんなものを持ち上げる程の馬鹿力はない。
疑問に思いながらも動きを止めている場合じゃないと、一瞬隙が出来た左側の男の懐にまたもや潜り込み、その勢いのまま全体重を乗せて男の鳩尾めがけて肘鉄を放った。男の反撃を恐れてすぐに身を引いたが、そんな心配をするまでもなく、有り難いことに男は後方にいたもう一人も巻き込みつつ共に吹っ飛んで行った。
あと二人。女性である自分が本気の男相手に使える技なんて本来ならそうそうない。奴らにももう油断はないだろうし。
切実に武器が欲しい。思わず周囲を探る。せめて竹刀があれば・・・そう迷ったのも一瞬のこと。今度こそ隙なくにじり寄ってくる男二人相手に・・・ナイロンに包まれた状態でカバンから転がり落ちていた、買ったばかりの・・・ミ○ーちゃんのマグカップを、渾身の力を込めて男の顔面目掛けて、投げつけた。
くそぅ!これすっっごく気に入ってたのに!!
すぐさま二投目(○ッキー)を構え、もう一人にも投げつける。・・叩き落とされたか?唯の時間稼ぎだとは分かっている。三投目になるものを探していると、
ゴッ!! ガッ!!
間違いなくそれぞれの鼻の上、顔面ど真ん中に命中した鈍い音と、遅れてドサッと男二人がその場に倒れる音が聞こえて来たのだった。
時間にして数分。あっという間に終わった活劇に、誰も何も、言葉が出ない。
「ええっ、もう終わり?いくらなんでも弱すぎじゃないの?」
興奮から思わず呟いた私に、皆が驚愕の目を向けていた。
「何が起こったか全然見えなかったわ。」
「私も。・・・早すぎて、全然。」
お姉さま方も呆然とその場に座り込んでいた。しばし見つめ合った三人だったが、それどころではない。
「二人ともしっかりして下さい!とりあえず今のうちに逃げましょう。」
こっそり囁く。幸い、巻き込まれないためか、痛男達は隅の方にちりじりになっていた。
ざっと見たところ、ローブを纏った人ばかりで、先程のような戦闘要員はもういなそうだ。
二人を無理やり立ち上がらせ、荷物を持って、人がいない扉の方に二人を走らせる。
「待てっ!!どこへ行くっ!」
誰が待つかこのやろう!
「・・・・帰す方法はないっ!!」
痛男のその言葉に、思わず三人とも足が止まる。
「そなたらを帰す方法がわからぬ!だから帰るのは諦めて大人しくせよ!」
あっさりと言ってのける痛男。・・・って、なっ・・なんだとぉっっ!!
・・・帰れない?あの場所に、もう、戻れない、だと?ずっと、この場所にいろと・・?
「・・ふざけるな・・?」
こんな意味がわからない世界で。
やりたいことも、欲しいものも、将来の夢も希望も・・・笑いあえる友達も、己を高め合う仲間も、毎日を助け合い共に暮らす家族も・・・いつでも一緒に、手を繋いで歩く・・要もっ!
全部・・、全部っ!!お前が!・・・私から奪い取ったっていうのかっっ!!
もう戻せないと・・・そんなふざけた顔で笑うのかっっ!!!
「なっ・・・!?」
「なんだこの魔力量はっ!!」
頭に急速に血が昇り、目の前が真っ赤になるのが自分でもわかった。何か、訳の分からない気配が体の奥から湧いてくる。熱い。熱風が・・・・・・しかし、そんなことよりも。
そんなことよりも、目の前で醜く笑うコイツを、今すぐに。
殴って、壊して、・・・コロシテシマイタイ・・・!!!
そう、明確な殺意を痛男に向けた時、自分の奥底で生まれたばかりの気配が大きなうねりとなって。室内に急に風が巻き起こった。
「っきゃあ・・!」
「・・なにこれっ!」
ママさんと女医さんの驚愕の声が聞こえてくるが止まらない。
私は血が上った頭を鎮めることもせず、自分の中から尽きることなく溢れてくる熱を、その勢いのまま目指す対象にまっすぐに、解き放った。
「・・っふざけんなっっ!今すぐ死にさらせーー!さっさと帰せこの痛男っ!!!」
「・・ぐはぁっ!!」
ドゴゴゴゴーーーーーーーーン!!!
怒りをそのまま表したかのような暴風は嵐と化し、対象の痛男だけではなく、部屋の中の物もあますことなく巻き込んで、吹っ飛ばしていく。
割れて吹っ飛ぶ天窓を視界の端に捉えながら、まるで灯りを消したかのように。
私の意識もこの喧騒の中に落ちて行ったーーーーー。
菜乃無双。本人無自覚。今なら普段出来ないような技も出来ちゃうよ!
マグカップは要とおそろいのお土産。お買い物のデフォルトです。
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